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仲間になりたそうに見ないで下さい  作者: ヒコしろう


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第35話 成長する兄妹

色々あったが、やっとの思いで拠点に着いた。


ちびっこが怖がるので、あらかじめ集団での虫さんの出迎えは禁止とマリーに伝言を頼んでいたので、遠巻きにかなりの数の視線を感じるが…特に問題はなく母屋に着いた。


パーシーさん達に挨拶をして、俺の家族を紹介し、現在事務所を建てている、大工の親方にも挨拶をしたのだが、張り切って建ててくれたという母屋がかなりの豪邸で驚いた。


挨拶も終わり、木の香りが漂う家の中に、引っ越し荷物をアイテムボックスから出しながら、ぼーっと考える…

俺的には先日のアレは…スキルの暴走だとでも思いたい。


怒ってる俺を気にして、虫が集まって来たのだろうし…人間、あんなに怒っちゃ駄目だよね…反省しなきゃ…

ただ、ぶちギレていたけど、並列思考で冷静に子供組を惨劇の現場から遠ざけられて良かったと、それだけは自分を誉めてやりたい。


あんな、グロい虫さん達のオッサン丸噛りショーなんてトラウマ案件以外のなにものでもないからね…

しかし、あれでは賞金首がいたとしても引渡しは出来ないからな…

などと、一人ブツブツ言いながら母屋の部屋を回り、ベッドやタンスを並べていく。


ただ、まだ足りない物が山ほどある…

孤児院はギリギリの生活をしていたので、着替えの下着すら足りていない。


一度大変だが、皆でクレストの街に行くしかないが、とりあえず数日拠点で過ごしてみてから買い出しの旅に出る事にしよう。


と、考えつつ、家のあちこちで荷物をほどきながら、キャッキャとさわぐ兄弟達と、キッチンの使い勝手を確かめているノーラ母さん。


結局、荷ほどきと、配置だけで2日を費やした。


引っ越しが無事に済んだ夜はアイテムボックスにある食事でささやかなパーティーを済ませて皆疲れてぐっすり寝た。


それから半月ほどかけて、少しずつ足りない物を買い揃え、やっと拠点が整った。


子供組はお手伝いに勉強を頑張り、ノーラ母さんはお料理や、お洗濯、と毎日忙しくしている。


アゼルとメリザは、暫くはこの拠点を中心にスキルや装備を整えてCランクを目指すそうだ。


俺は、暫く頑張るアゼルとメリザの世話を焼いたあとで、少し荒稼ぎをするか、または、ダンジョンに潜る予定にしている。


実は、チョイと欲しい物が出来たからである。

それと、空いてる時間は、子供組の家庭教師をする予定でいる。


九九も、教えてそこらの商人より計算が早くしてやるつもりだ。


何処かに勤めに行くにも、ノーラさんを手伝うにも計算は役立つだろうし、なんなら進学して城で働く文官職なんてのも良いかもしれない。


その前に早速、約束していたアゼルとメリザの武器を買ってあげる予定で、実は、すでにクレストのダンジョンショップの部長さんであるニールさんと部下のナッシュさんにお願いしてあるのだ。


一人当たり大金貨五枚でお見合い市場の予約と、オススメスキル等を見繕ってもらっている。


稼ぐ予定で、何を無駄遣いしているんだ?と思われるかもしれないが、俺が欲しい物への先行投資でもあるのだ。


俺が欲しい物、それはエクストラポーションである。


ダンジョンで、ごく稀に手に入る欠損部位まで回復する激レアポーションだ。


創薬が出来る錬金術師でも作れる者は過去数名、世間に出回るエクストラポーションのほとんどが、どこのダンジョンで出るかも全く解らず、出る階層も様々でダンジョンの低層で出た報告もあり、もしかしたらアゼルとメリザが一発でツモる可能性も有るから、二人がダンジョンで活動し易くしておきたいという理由もある。


俺はノーラ母さんの足を治したいのだ。

今までの感謝の意味もあるし、結局、遠征をすればノーラ母さんに拠点の事を丸投げする可能性があるので遠征に安心して出かける為にも、ノーラ母さんにはいつまでも松葉杖生活をさせる訳には行かないという俺のワガママからだ。


翌日、アゼルとメリザをクマ五郎馬車に乗せて、クレストの街に向かい、何も知らない二人をダンジョンショップに連れて来て、ナッシュさんが司会を勤めるお見合い市場に参加してもらった。


ちゃんと予約を取ってこの日が来るのを俺はコッソリと待っていたのだ。


会場でアゼルとメリザは説明を受けて、アゼルは槍を三本、メリザは弓を三張選び、鑑定をかけてもらい、その中から一つを選んだ。


アゼルは〈切れ味〉と〈耐久力〉それに〈貫通力上昇〉が付与された〈魔鉱鉄の槍〉で、ゴング爺さん作の槍とはぼ同じ性能だが、〈切れ味〉が付いているぶん格上である。


メリザは〈耐久力〉と〈連射性能上昇〉が付与された〈聖木の弓〉という、軽くてしなやかな弓を相棒に決めた。


この弓は矢に〈聖属性〉を微妙に纏わせる追加効果も有るらしく、二人とも良い相棒と出会えた様でなによりだ。


続いてスキル等を二人には渡すと、驚いていた。


ニールさんが二人に、


「お兄様のポルタ様には我々スタッフ一同、大変お世話になっております。

お二方の為に予算内で可能な限りのスキルやアイテムをご用意するように承っています。


アゼル様は、〈身体強化〉をお持ちということで、〈頑強〉・〈豪腕〉・〈スタミナ〉を取得して頂き〈フィジカル〉という複合スキルにして頂き、

追加で〈高速移動〉を取得して、前衛で活躍出来る様に…

メリザ様には、〈身体強化〉と〈頑強〉で防御力を上げつつ、〈ファイアアロー〉・〈エアカッター〉の攻撃魔法に〈アースウォール〉という防御魔法を取得して頂き後衛での活躍を想定してスキルを選ばせて頂きました。

そして、我々ダンジョンショップ一同からの気持ちです。」


と言って、カバンを二人に渡して、ニールさんは二人に、


「こちらはいずれも容量こそ馬車一台少々ですが、時間停止付きのマジックバッグでございます。

お兄様への日頃の感謝の代わりに、お二方へのプレゼントでございます。」


と、頭を下げた…


『ありがとうございますニールさん…おかげで、お兄ちゃんとしての威厳を見せれました。』


と、俺が感謝していると、スキルを手に入れて、装備も整った二人のDランク冒険者は、たいそう俺を見直したらしく、


「ポルタ兄ぃは、本当に凄い冒険者だったんだ…」


と…今まではどう思ってたんだ…?とツッコミたくなる。


そして、俺がエクストラポーションの話を聞いたのは、アゼルとメリザのスキルなどの相談にダンジョンショップを訪れた時に、ニールさんからなのだが、エクストラポーションは、クレスト周辺のダンジョンのドロップ宝箱やダンジョン内にランダム生成される宝箱からも出てくるらしく、毎年開かれるオークションの目玉商品で、相場は大金貨30枚~50枚程度…家を建ててほとんど無くなったとはいえ、不労所得も有るから、この冬の間にダンジョンに潜れば何とか成るかも知れないし、運さえ良ければ自分で引き当てれる可能性もある。


お肉ダンジョンと魔法ダンジョンは冬越しクランの狩り場に成っているので、俺は鉱物ダンジョンに潜る予定だ。


しかし問題は、鉱物ダンジョンの敵は岩や金属系の敵が多く、ウチの虫魔物では攻撃が通らない事なのだ。


武器もハンマーやツルハシでないとダメージがあまり入らないので、採掘ポイントも多いダンジョンだが、不人気であまり人がいない。


街の武器屋でハンマーとツルハシをアゼルとメリザの分も購入して三人と、クマパンチの使い手のクマ五郎で、初めての鉱物ダンジョン、正式名称バラスダンジョンに来ているのだが…本当に人が少ない。


居るのは採掘狙いの冒険者だが、鉱物がかさばり、すぐに帰る為に滞在している冒険者が少ないようだ。


敵は 〈ストーンスライム〉や〈岩亀〉の下位種の〈石亀〉や〈ストーントーテム〉というストーンバレットを飛ばす設置トラップの様な魔物など、防御力に自信のある奴らばかりで、メリザは既にツルハシの振りすぎでマメがつぶれて、


「ポルタ兄ぃ、私もう無理、索敵するからツルハシは勘弁して…」


と弱音を吐いている。


まぁ、仕方ないし、索敵で警戒してくれるのは有難い。


敵を倒して、鉱物資源感知で採掘を繰り返し10階層に到着したが、やはりボス待ちの冒険者すら居ない…


俺一人ならばボスに挑み下の階層に向かうのだが、アゼルとメリザが下の階層で通用するのか?と少し不安になる。


本人のやる気が有れば行けそうな気がするが、アゼルはまだ行けそうなのだが、メリザは既にグロッキー気味だし、彼女は傷軟膏を掌の潰れたマメに塗り込みながら、


「ポルタ兄ぃ、ズルいよ、水魔法使えて…

私もノーラさんのエクストラポーション買えたら、次は水魔法を手に入れる!

ポルタ兄ぃより凄い、なんかこうビッシャン!みたいなやつ…」


と、新たな目標を決めたらしい。


アゼルは、


「僕は、もうちょっと頑張ってこのダンジョンで、採掘したいかな?

ポルタ兄ぃと居れば、採掘ポイントも、アイテムボックスで鉱石の仕分けも出来るし、下の階層からはミスリルとかも手に入るんでしょ?

ポルタ兄ぃみたいなオーダー装備をそのうち身に付けたいよ。

その為の鉱石を集めたい。」


と言っている。


うん、うん。良いこと、良いこと…目標が有るのは、やる気に繋がるからね。


と、二人の成長を喜びつつ、俺が、


「じゃあ、ボスはどうする?

倒さず、ここでキャンプして魔物素材と採掘で稼いだあとで倒して、転移陣で帰るか、ボスを倒して、下の階層にチャレンジするか?」


と聞くと、地べたに座りクマ五郎にもたれ掛かっているメリザが、


「ポルタ兄ぃだけで倒してよ。

ボス…それで下の階層みてから判断したら良いよ。」


と言い出した。


『えっ、なに?酷くない…』


と、妹からの、お前だけでボスを倒してこい発言を悲しく思っていると、アゼルまでもが、


「賢い!それ良いね。」


と賛成する。


『嘘、酷いよ…お兄ちゃん泣いちゃうよ…』


と、しょんぼりしていると、アゼルが、


「ポルタ兄ぃだけで倒して、次に僕らだけで倒したら、初回討伐の宝箱二回貰えるから。」


と説明してくれた。


メリザも


「そう言うことぉー!」


とクマ五郎をモフモフしながら応えている。


『いやだ、この子達…天才!』


と、虐めではなかった事に安心し、更に賢い弟と妹のアイデアに感心しつつ俺は、


「ヨシ!決定、それで行こうクマ五郎!!」


とクマ五郎を連れてボス戦に行こうとしたら、メリザが、


「駄目、駄目!クマ五郎は保険で私達とチームになってもらうからっ!」


とクマ五郎をギュッとしている。


クマ五郎も、


『任せるんだなぁ』


と、まんざらでもないご様子…

解りましたよ…ボッチでボスに挑みますよ…と、少し寂しさを覚えながらボス部屋の扉を開けて、ひとりで中に進んでいく。


背中に二人と一頭の


「いってらっしゃーい。」


の声を聞きながら。


トボトボと入ったボス部屋の中には中型ぐらいの岩亀がポツンとたたずんでいた。


お前もボッチか…でも今は…


「俺の寂しさを受け止めて貰うぞぉぉぉぉぉ!」


と俺は叫びながらツルハシを片手に走り出し、魔力を纏わせたツルハシで岩亀の甲羅の側面をカチ割り、腰から雷鳴剣を引き抜き、サンダーの魔法を発動させながら甲羅の中の赤黒い肉に突き立てる。


一度倒した事のある相手であるし、あの時よりも装備が充実している。


フルパワーの稲妻が岩亀の体内を駆け巡り、ガクガクと痙攣し、そしてあっけなくパッシュンと消え去った。


入り口の扉が開き、アゼルとメリザとクマ五郎が入ってきて、メリザが、


「ポルタ兄ぃ早かったね。早速宝箱確認しよぉー!」


と言いながら歩いてきた。


何だろう…この感情…寂しさとも苛立ちとも言える名前の知らない複雑な感情が俺の中を駆け抜けて行った…


読んでいただき有り難うございます。

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