第33話 里帰りで知った事
クレストの街に戻り、馬車も復活したので遠征に出かける事にした。
遠征と言っても、今回は俺の育った田舎の町エマに里帰りして、育ててもらった孤児院に寄付の一発でもかまして、爺さんを驚かせてやろうという目的だ。
こんな、命の軽い世界で頑張って俺みたいな孤児を育て上げてくれた恩人だ…
不労所得が有るので、ヂャラリと大金貨数枚を渡しても大丈夫だろうと、生まれ育った西の田舎町を目指して、クマ五郎の引く幌馬車でのんびりと、馬車の旅を楽しんでいるのだが、やはり、サスペンションとはなんとも有難い物だ、完全とは言わないが、あの弾むような縦方向の衝撃がかなり軽減されている。
これで、道も舗装されれば長旅も怖くなくなるのに…と思いながらガタガタ道のくぼみに馬車のタイヤが取られないようにクマ五郎に、
「急がなくて良いから、安全に凸凹を避けてねぇ」
と声をかけながら進む。
しかし、乗り換えもなく、アイテムボックスから食事も出せるので、食事休憩の調理時間も削れる。
おかげで、乗り合い馬車よりも1日の移動距離が稼げるので、予定より早くエマの町に到着した。
町を眺めながら…
『懐かしい…何一つ良い思い出は無い町だが、懐かしさは感じる…』
と、少しおセンチになる俺は、良く遊んだ小川、よく野宿した広場…
見慣れた風景にギュット胸が締め付けられ、数年しか経っていないが、変化の有る場所を見つける毎に、何故か少し寂しいような気分になる。
飢えをしのぐのを助けてくれたパン屋が無くなっていたり、知らない店がオープンしていたりと…
そして、一番の変化は、孤児院の爺さんが…死んでいた事である。
といっても、死体を発見したとかではない。
俺が、ガイナッツの国で暮らしていた冬に、風邪を拗らせて、ポックリ逝ってしまったとの事だ…
今は、俺の先輩に当たるノーラさんが孤児院を何とか切り盛りしているらしいのだが…どうもあまり上手く行って居ないらしい。
ノーラさんは旅商人の娘さんだったのだが、幼い時にエマの町の近くで盗賊に襲われ、両親と自分の右足の膝から下を無くしてしまったという、足の不自由な料理上手なお姉さんで、俺にとっては母ちゃんのような存在だ。
爺さんに代わり、俺たち孤児の生活面を支えてくれたアラサー女子で、爺さんが、足が悪く奉公にも出られず、冒険者にもなれないノーラさんを孤児院のスタッフとしてスカウトしたらしく、ノーラさんは十代前半から働いてくれていたそうだ。
正直、俺が稼いで寄付したかったのはノーラさんが居たからだが、しかし、現在は孤児院はかなりヤバイ状態らしく、爺さんの呆気ない死に、発覚した借金…
ノーラさん自体に返済義務こそ被らなかったが、孤児院の土地は差し押さえられて、何とか好意で、約一年の猶予が与えられて、卒業し冒険者になる孤児院生や、商会に奉公にあがる孤児院生を見送って尚、二歳~九歳までの孤児五人の行き先が決まって居ない状態で、今は上の子が下の子の面倒を見てくれている。
勿論、俺と暮らして、中にはオシメを替えた弟や妹分がこの冬には住む場所を失くすらしいく、俺としては、そんなの許せる筈がない。
ションボリしながら疲れ果てた姿で話してくれたノーラさんを見て俺は決めた。
『今度は、俺が何とかする。』
と…何も出来ない俺を保護して、何とかしてくれたように、俺は、
「ノーラさん…いや、ノーラ母さん。
決めてくれ、孤児院を買い戻して、孤児院を続けるか、別の場所で良ければ、俺の買った新たな家で兄弟皆を連れて移り住むか…なんなら、冒険者になりたての卒院生も連れて…」
と、俺が提案すると、ノーラさんは、驚き、
「ポルタちゃん、数年でそんな…家なんて無理でしょ?
あと五人なら私の裁縫の内職で細々なら食べれるし、それにポルタちゃんといつも一緒だったアゼルくんとメリザちゃんの二人も冒険者になって、たまにお肉を届けてくれるのよ。
町の片隅の借家でなんとか10年程頑張れば、みんな卒業の歳にはなるから…」
と…遠慮する。
それでは駄目だ!…10年身を削って生きたにしても、それから先のノーラさんの人生は、どうするの?と心配になる俺は、
「ノーラさん、もしもの話で良いから答えて。
孤児院を買い戻すのと、皆で引っ越し…どっちが、良い?」
と改めて聞くと、ノーラさんは、
「借金をしていた商会の会長さんは、無理な取り立てもしなかった上に、この土地の開発計画が、纏まるまでの間、住むことを許してくれました。
だから、買い戻して手間を掛けさせるよりも、他の町でもいいからユックリと暮らしたい…かな…」
と力無く答えるノーラ母さん…
『その願い聞き届けたり!』
と、どうするか決めた俺は、
「安心してくれ、兄弟達が育つまでは勿論、ノーラ母さんの老後まで任せてくれ!
これでも冒険者と、蜂蜜農家の二足のわらじでガンガン稼いでいるから。」
と答えた。
ただし、あと1~2ヶ月しないと母屋が出来ないけどね。
足の悪いノーラ母さんに楽をさせたい…と思うが俺にノーラ母さんは、俺の言葉を半信半疑ではあるが、
「頑張って背伸びした提案だとしても…嬉しい」
と言ってくれた。
ノーラさんは、
「ただ、ポルタくんとは14しか変わらないのよ…お母さんは酷いんじゃない?」
と言って微笑んでいるが、益々母ちゃんみたいに見える優しい笑顔だった。
さて、家族全員でお引っ越しが決まったが、ウチの母屋の設計では、全員はキツい…
ポプラさんに連絡を入れられれば、何とか今からならば計画変更できるのだが…と悩む俺に、
『そうでやんすねぇ、連絡出来たらいいでやんすのに…』
と、影の中からガタ郎の声がこたえる。
あっ!?っと、あることを思いついた俺が、
「ちょっといいかね、ガタ郎くん。」
と、いうと
『なんでやんす?』
答えるガタ郎に、
「ポプラさんに手紙を届けて欲しいんだ。」
と、お願いする。
ガタ郎が、
『どうやって届けるでやんす?』
と、不思議そうに聞くので、俺は
「従魔召喚…」
と答えると、
『出来るで…やんすか?』
と、静かに質問するガタ郎に、
「…知らない。」
とだけ答えておいた。
と、言うことで、お手紙を書きまして…
「ガタ郞、ガッチリ持ってね…いくよ!」
と、指示を出し、
『了解でやんす!』
と、意気込むガタ郎を拠点へと送り返すと、シュンっと送喚されたガタ郎と一緒に手紙も消えた…
「やったか?」
と、呟いたのち、段取り通りクマ五郎を召喚する。
すると、クマ五郎は、ポンと現れて、
『成功なんだなぁ!』
と結果報告をしてくれた。
しかし、数時間後に召喚したマリーからポプラさんの伝言を聞いた時に、
『あれ?、マリーって普通に喋れるから、手紙で無くて伝言でイケたのでは…』
と、気がついてしまった俺だった…
すまんガタ郎、ドキドキさせただけで、もっと手っ取り早い方法があったよ。
と思いながらも、マリーから、
「母屋も大家族用に変更可能で、追加の代金は秋の蜂蜜の代金から大工の親方に支払います。
足りない場合は立て替えますので、ご心配なく。」
と伝言をもらった。
お手紙実験と、母屋の計画変更も伝えられたので、俺は、
「お疲れ様」
と、マリーと、子供達の遊び相手をしてくれていたクマ五郎を拠点へと送喚した。
しかし、子供達は、クマ五郎を取り上げられて膨れている。
九歳の〈シェラ〉は子供組のお姉さんで、
七歳の〈トム〉は面倒見の良い子供組のお兄ちゃん、
六歳の〈ミミ〉はお手伝いを頑張る妹キャラで、
三歳の〈ポロ〉と二歳の〈ダミア〉は、俺が、卒業してから入ってきた男の子達だ。
俺は、
「クマ五郎は森の見回りのお仕事に行ったから、皆は、良い子でオヤツにしましょう。」
と、アイテムボックスからお隣の果樹園で購入したフルーツを取り出して切り分けると、さっきまで膨れていたのが嘘の様に、兄妹達はニコニコしながらりんごや、ミカンを頬張っている。
ノーラさんも誘ってのおやつタイムは楽しかったが、ノーラさんが、
「時期外れの果物…高かったんじゃない?」
と心配してくれている。
俺は、
「俺、アイテムボックス持ちになったので、旬の時にいっぱい買っても腐らないし、引っ越しも楽々出来ますよ。」
と教えてあげた。
皆がおやつを食べている最中に、孤児院に久々に会う兄弟分が現れた。
二歳年下(正確には三歳年下と最近知った)の弟分のアゼルと妹分のメリザの二卵性双子が、牙ネズミの肉を手土産に孤児院の様子を見に来たのだ。
「うぇっ?何でポルタ兄ぃがいるの?」
と、弟分のアゼルが驚き、
「ポルタ兄ぃ、生きてたの?長いあいだ野宿とかしてたでしょ!?私達、心配してたんだよ。」
と、妹分のメリザが俺をサスサスと触りまくる。
久々の再会のあと、二人にも事情を説明すると、喜ぶより驚いていた。
何より、一年近くろくに食べられずに底辺冒険者の野宿暮らしをしていたのに、現在、順調にCランク冒険者をしているなんて、なんの冗談だよと…
しかし、新米冒険者の二人は、
「孤児院の皆と一緒にポルタ兄ぃについて行く。」
と、ついてくる事を決めたのだが、出発まで2ヶ月あるので、一緒に狩りをして、二人には引っ越し迄に二人してDランクを目指す事にした。
それを踏まえて、ノーラさんに空にした俺のマジックバッグと生活費を渡しておく。
これで、松葉杖をついて買い物に行く回数が減らせるし、沢山買っても重くないはずだ。
ノーラさんに、
「時間停止付きだから腐らないよ。」
と、教えてあげると、
「食糧庫が要らないね。」
と、喜んでいたが、アゼルとメルザは、
「ポルタ兄ぃ、凄い!ホントに稼げる様になれたんだね。」
と、マジックバッグの値段を知っている為に、心から感心している。
『フッフッフ、兄の威厳は保てたようだな…』
と満足する俺だが、
二人は現在Fランクで、もうすぐEランクになるくらいだろうから、マジックバッグは夢のアイテムだろう…
しかし、初級ダンジョンさえ踏破できて、Dランクになって稼げれば、手の届く品だと教えて、引っ越し迄に目標の、Dランクになれば、クレストの街で武器と防具を買ってあげる約束をした。
装備さえあれば、〈身体強化〉と〈槍術〉スキルという武術スキルを授かったアゼルと、〈索敵〉と〈ターゲット〉を授かったメリザのコンビならば稼ぐ事など簡単だろう。
しかし、Fランク冒険者かぁ…懐かしいなぁ…
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