第32話 従魔の子分
拷問器具の様な乗り合い馬車に再び揺られて、クレストの街に帰ってきた。
象の討伐メダルも回収したから次回、転移陣で20階層奥からスタートできるが、当面はいいかな?…
初討伐のご褒美宝箱は、鋼の大剣だった。
素材は冒険者ギルドで買い取りの依頼をだして、マジックポーションは自分で使うことにした。
アイテムボックスにしまって名前が判明したスキルスクロール七本は、
ライトなどの取得済みの生活魔法が、5本と、
〈回避〉という回避率が上昇するスキルと、
〈耐寒〉という寒さに強くなるスキル、
ダンジョンショップで、鋼の大剣と生活魔法五本は売り払いお小遣いにするとして、回避と耐寒スキルは取得することにした。
買い取りの為にダンジョンショップに行くと、販売促進部長に成ったニールさんと、
その部下の、お見合い市場主任に昇進したナッシュさんが、物凄い勢いでもてなしてくれたのだが、なぜが、各売場の現実報告から始まり、
『俺っていつからダンジョンショップの外部取締役みたいな扱いになってるの?』
と思いながらも、各売り場の視察の後で、会議室に案内された。
『もう、お手元の資料で経営状態の報告も要らないから…解った、解った!…とりあえず、前年より良く成ったのね…』
と、帰るタイミングを失いつつ、しっかりと実演販売での売上の報告まで受けて、大変感謝されたのだった。
…ほんと、ちょっとお小遣いを稼ぐ為だけだったのに一苦労だったよ。
まぁ、報告は全部終わったみたいだから当面はないみたいだからいいけど…と思っていると、ニールさんが、
「ポルタさんに、以前紹介状を書いてくださった伯爵夫人様から、ポルタさんが、お見えになったら、(お役に立てれず、申し訳ありません。)と伝えて欲しいと申されておりました。」
と、伝えてくれた。
俺は、
「なんだかかえって、あの奥様に気を遣わせたみたいで、こちらが申し訳なく思っておりますとお伝え下さい。」
と頼みダンジョンショップをあとにした。
まぁ、冒険者ギルドでも一通りダンジョンの成果を売り払い、やることも済んだので、
『一旦、工事中の我が家でも見にいくかな?』
と、拠点に戻る事にした。
芋虫君が羽化していたら荷馬車も回収できるから遠征にも行けるし、大工の皆さんに差し入れでも買って帰ろう…と、市場を周り、食糧などを買って、クレストの街の外に出てからクマ五郎を召喚した。
俺が、
「クマ五郎、皆の所まで乗せてくれる?」
と、聞くと、
『いいよぉ~』
と言って少し伏せて乗りやすくしてくれた。
馬車で丸1日の距離…だったのだが、現在、熊に股がりお馬の稽古は絶対出来ないと感じている。
股がるには背中が広く股がり難く、熊は走る時に体をうねらせるので、上下に大きく揺すられる…
つまり振り落とされそうになるし、乗り物酔いになる上に俺のおキャン玉がダメージを受ける…
「うぷっ…クマ五郎…一旦とまって…」
とお願いして、道の端で股間を押さえながらもエレエレと朝ごはんとサヨナラしてから、
「もう、歩こう…」
と徒歩にて拠点を目指すことにして暫く歩いたのだが、横を歩くクマ五郎が、
『じゃあ、こうするんだなぁ』
と、俺をヒョイと二本の腕でお姫様ダッコをして残った手足で走り出した。
しかし、クマ五郎の上の手?にダッコされて走っているが、端からみれば、鮭を咥える熊の構図だ。
背中よりは酔わないが、あまり嬉しい体制ではない…
「クマ五郎、もう、歩くから降ろして…」
と俺がお願いすると、クマ五郎は、
『それじゃあ、これはどうかなぁ?』
と言って立ち上がり、お姫様ダッコのままトテトテ歩く…
俺が自分で歩くのとさほど変わらない速さと、微妙な屈辱感に俺は、
「クマ五郎、ありがとう。
歩くのとあんまり変わらないから自分で歩くよ。」
と告げて、結局クマ五郎とお散歩しながら2日の長いハイキングを楽しんだ。
途中、納得が出来ないクマ五郎が、何度が俺を背中に乗せて走ろうと試みるが、毎回リバースしてたり、下腹部への衝撃でダウンする俺を見て、
『ごめんなさい、なんだなぁ…』
と、ションボリしながら結局トボトボ歩く事になる。
俺は、クマ五郎と並んで歩きながら、
「馬車が動かせるようになったらクマ五郎を頼るから、今回はユックリ歩いて帰ろう。」
と、背中を摩りながら慰める…
歩きで帰るのが嫌だからとクマ五郎を呼んだのだが、歩いたうえで慰める作業が増えただけだった。
『ぼく、役にたってるのかなぁ?』
と不安そうに聞くクマ五郎に、
「凄く頼りにしてるよ。」
と語りかけ、最終的に何とかクマ五郎が自信を取り戻すのは目的地が見えたころだった。
結局、終始馬車のありがたさを痛感した旅になった…
やっとの思いで、牧場の建設現場に到着し、親方達に酒等の差し入れを渡して工事の状況を聞くと、既に水のみ場は完成していて、柵も半分出来ているとのことで、来月頭には厩舎が建ち、その次に母屋の予定だ。
母屋が出来てから、蜂蜜工房と事務所を建てて、最後にパーシーさんの家の着工となる大工事なので、出来るだけ大工の親方達とは仲良くやりたい。
あと、仲良くやりたいというと、非正規組の、
『正規採用をお願いします』
みたいなアピールが凄い…
でも、カナブンやダンゴムシを上手に使役して戦う自信が俺にはない…
ましてや、前に旅先からついてきた大百足君は強そうだが、ビジュアル的にまだ無理で、非正規のままだ。
あと、芋虫君はどんな感じに変態したのかな?
『変態と言っても違うからね。』
形態が変化する方だからね…
使えそうな虫に成っいれば正規採用もありかな?とおもいつつ、大工の親方達に挨拶もすませたので、今回の一番の目的の馬車の回収に向かう。
既に荷馬車の前に、ガタ郎達が待っていたが…なんだか、周りの数が多い気がする。
虫に対しての免疫が出来てきたのか、単体では大分ましになったが、数の暴力にはまだ免疫が少なく、ワラワラと虫が居るのは恐怖でしかない…俺は近付くのをやめて、
「ガタ郎さんだけ、ちょっといらっしゃい!」
と、大声でガタ郎を呼ぶと、ブウゥゥゥゥンと飛びながら
『何でやんすかぁ~?』
と、近付くガタ郞に
「あの集まりは何!?」
と、俺が聞くとガタ郎は、
『えっ?旦那様のお出迎えでやんすが?…』
と、当たり前かのように答える。
俺は、
「要らん、要らん!毎日徐々に増えた虫さんは、我慢出来るが、久々で見るワラワラいる様々な虫さんは心臓に悪い…
あと、知らない虫軍団が増えてないか?」
というと、ガタ郎は、
『だから勢ぞろいしたんでやんすよ。
森に住んでた奴らが、旦那様にご挨拶をしたいと…
マリー達のコロニーの下っぱ達の代表やら、森でブイブイいわしてたのを軽くシバいて子分にしたりした奴らでやんすよ。
まぁ皆、旦那様に一度ご挨拶をと集まったんでやんす。』
と説明を受けるが、だからといって、ワラワラと居る虫の所へ「ヨシ!行こう。」とはならない…凄く嫌だがガタ郎に、
「俺は、ここに居るから、一匹ずつ挨拶に連れて来て下さい。
そして、挨拶が済んだ者から解散です。
いいですね!」
と、指示をだした。
もう、それからは軽い地獄だった…
多種多様な虫達がわんこそばの様にやって来て、本人からの挨拶のあと、軽い自己アピールタイムを受ける。
長時間に渡り、目の前で昆虫図鑑のページを開いて、特徴を教えられている様な不快感が続く…
しかし、彼らに悪気はないし、むしろ、住まわしてもらっている大屋さんに挨拶に来ている感覚なのだろうが…
ランドセルくらいのカミキリ虫や、抱き枕サイズの毛虫に、ホームベース程あるカメムシ…
いったい何処を見ればダメージが少なくて済むか解らない。
いや、むしろ大丈夫なパーツが少ないデカくて大迫力の虫のオンパレードに、虫酸が走るどころか、虫酸がロケットエンジンで加速しダッシュする勢いだ…
しかし、何度も言うが、彼らに悪気はない…むしろ好意すら向けてくれている…人として我慢せねば…と蕁麻疹とも戦いつつ精神を削られるイベントも終盤、うちの正規従魔達が、特別にご紹介したい虫を一緒に連れてくる。
マリーは、下部組織のリーダービックハニービーの女王で、クマ五郎はラグビーボールサイズのセミ、ガタ郎は子分のカナブンに、そして、ミヤ子は羽一枚が畳程ある蝶々…彼はあの芋虫君の成長した姿だ。
全員と挨拶を交わし、正規雇用枠がまだ有るので、どうしようか?と悩んだが、やはりカナブン使って戦う姿が思い浮かばないので、正規雇用は保留にしたままにしようと決めた時に、ふと気がつく、
『あれ?百足が居ない…』
と…ガタ郎に、
「あのやたらデカい百足君は?」
と聞くと、ガタ郎は、
『アイツなら旦那様に気に入られる強い漢になって戻ってくると、修行の旅に出たでやんす。』
と答えたが、
『うーん、有難いけど…強くなって、更にごっつくなった百足さんを俺が受け入れられるだろうか?』
と不安になる。
カサカサやウニョウニョ擬音が強めの奴はまだまだ苦手だからな…
どうしよう、百足さんが次に帰ってきた時に、宮崎作品の空飛ぶ百足みたいに成ってたら、ブレイブハート以外も何かを漏らす自信がある…と、そんな事を考えていたら、俺の横のクマ五郎がセミと話している。
セミは、
『クマ五郎の親びん、あたし、もうすぐサヨナラなの…』
と言っている。
クマ五郎は、驚きながらも、
『どうしてなんだなぁ?旅にでるのかなぁ?』
と心配そうだ…しかし、セミは首をふり、
『違うの、親びん…あたし…夏の終わりと一緒に…』
と口ごもり、クマ五郎はオロオロしている。
俺は、コメカミを押さえて暫し考えた後、
「はい、正規従魔のみなさーん!もう一度、子分を連れて集まって!!」
と俺は、皆を呼び寄せる。
確かガタ郎が、従魔にしたら寿命が延びるって言ってたし…と思いだしながら、俺は集まった虫達に、
「えー、皆さんの補佐として子分の代表を従魔契約することに、たった今!決めました。
皆さんには、俺が旅のあいだの拠点の管理などの業務をお願いするとおもいますが、よろしいですか?」
と聞くと、文字通り子分達は飛んで喜んだ。
そして現在、全員の名付けを済ましてクレストの街に向けて、クマ五郎の引く幌馬車に揺られている。
マリーの配下のビックハニービーの女王に〈ハニー〉と名前をつけると〈ロイヤルハニービー〉という上位種の蜜蜂魔物に巣ごと進化した。
元のビックハニービーより少しモコフワな産毛みたいなパーツが増えたぐらいで特に大きな変化はないが、彼女の巣から取れる蜂蜜は超高級品になるらしいのだが、分家などの一人立ちした娘とはリンクが切れるのか娘の巣はビックハニービーのままだった。
『ルールが難しい…』
ガタ郎の手下のカナブンには〈コブン〉と命名すると、サンダルくらいの大きさに縮み、辺りの景色に溶け込む〈隠密カナブン〉という、種類に進化した。
あれかね、親分の系譜に繋がるのかな?
親分は影に潜るし、子分は景色に溶け込む…ガタ郎の影の軍団の副団長の誕生だな。
そしてミヤ子のオススメのあの芋虫君は、デカい蝶々になったので、蝶の〈マサヒロ〉と名付けると、〈疾風アゲハ〉という、飛ぶことに長けたデカい蝶々に進化して、青みがかった綺麗な羽になり、かなり俺的に安心な見た目になってくれた。
そして、〈マサヒロ〉はなんとクマ五郎の背中にしがみつくだけで、クマ五郎が空飛ぶ白熊に変身するウイングユニットみたいになる。
俺も飛べそうだが、高さ的にも、虫に抱きつかれる事も怖いから当面はパスしておく。
そして、クマ五郎の友達のセミには、長生きしてくれとの願いを込めて、〈セミ千代〉と名付けると、フサフサの毛と、丸い耳の様なパーツが着いたセミになったが、〈熊ゼミ〉って、そうじゃないはず…
まぁ、羽の生えたテディベアみたいな牛乳パックサイズのセミは嬉しそうに大音量で「ミンミン」と鳴いて、クマ五郎と一緒にはしゃいでいた。
まぁ、俺的には、皆進化して虫感が少し薄くなってくれて助かったよ…。
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