第31話 階層ボスと一騎打ち
ボスの初回討伐ボーナスの宝箱チェックをした後に、クマ五郎と11階層に降りてきた。
ちなみに、宝箱は魔法防御性能があるフード付きマントであった。
既に持っているのでダブりな上に、マントのおじちゃんの手下みたいにクレストでは思われそうで、普段使いもしたくないから別に予備は要らない気がする…
クマ五郎に使うには小さいし、
『売っちゃうかな?』
などと思いながら降りてきた二度目の11階層だが、初めて魔物がいる状態を目の当たりにしている。
「狐魔物だったんだ…この階層…」
と呟く俺に、クマ五郎が、
『すばしっこそうなんだなぁ』
と、不安そうだ。
俺は、
「クマ五郎は、この階層は俺の補佐役に成ってくれるか?
ここまで殆ど何も狩らずに来たから、俺もレベル上げがしたんだ。」
と言うと、クマ五郎は、
『了解なんだよぅ』
と言って俺の背中に周り、辺りを警戒して着いてくる。
俺は、索敵スキルで辺りを確認して、帝都で人を避ける為に手に入れた隠密系スキルをフル活用で狐魔物の背後をとり、雷鳴剣で不意打ちスキルの乗った一撃を打ち込む。
パッシュンとドロップアイテムを残して消える狐に、
「ヨシ、行ける。」
と手応えを感じながら狩りを続ける。
たまに、クマ五郎自体が狐に察知されて後ろでバトルが始まるが、すばしっこくて苦手なだけで、炎魔法を放つ狐にクマビンタが決まれば、一撃で沈めている。
俺は側まで行くのが面倒になり、魔鉱鉄の弓に持ち替えて、サーチ&デストロイしていく。
この魔鉱鉄の弓は特に何も付与されていない元のままだ。
何故ならば、下手に耐久力を上げたら固く成って扱い難くなったり、攻撃力や防御力を上昇させても、矢にはスキルは乗らないので、スキルは付与していないのだが、隠密と気配消しスキルで感知されてない状態からの不意打ちスキルが乗った矢が、ターゲットのスキルで正確に次々と狐を射抜いて行く…
もう、こうなると、クマ五郎はドロップアイテム回収班になり倒した位置を覚えて、俺の弓攻撃が一通り終わると、
『拾ってくるんだなぁ~』
とトテトテ歩いて行き、魔石や狐の毛皮、それに、
『宝箱ぉあったんだなぁ~』
とドロップアイテムを抱えてルンルンで帰ってくる。
宝箱を確認すると、定番のマジックポーションだった。
辺りを見回し、
「ヨシ、粗方倒したから下に行こうか?」
と、俺がいうと、
『了解なんだなぁ~』
と、後ろをついてくるクマ五郎に、クマなのに猟犬みたいだな…と思いながら二人で降りてきた12階層は森のエリアで、原付サイズのカタツムリがゆっくりと動いているのが見えた。
固そうだから弓は効かないかも…と遠くから眺めつつ、硬い殻と、ヌメヌメの体に弓での攻撃を諦めるが、このダンジョンは魔法を使う魔物がメインのはずなので、あのカタツムリが何を飛ばしてくるか解らない…
注意しながら近づいて倒そうとすると、クマ五郎が、
『アイツはスピードが鈍いんだなぁ』
と、カタツムリに駆け寄り、いきなりクマパンチをお見舞いする。
すると流石の威力に殻には拳サイズの穴が開くが、次の瞬間、カタツムリが光り殻の穴がゆっくりと塞がる。
『回復魔法もあるのか!』
と、俺は驚くが、同時に、
なら、何にも撃って来ない、鈍い魔物なだけかも?と判断し、ツルハシを装備して、俺もカタツムリに突撃をかけて、カタツムリとの我慢比べが始まった。
ツルハシでシバくと、回復…シバくと、回復を何度が切り替えすと、カタツムリは魔力切れで回復出来なくなり、シバかれて消える。
かなり疲れるが、ある意味安全な狩り場だと理解した俺は、これじゃあ冬越しクランの重装備系の冒険者の最高の狩場になるから冒険者だらけになるはずだ…と森エリアのあちこちにいるカタツムリを眺めていた。
一方クマ五郎はというと、
『クマ連撃なんだなぁ!』
と、回復を上回る勢いで殴り続けて直ぐ様、カタツムリをパッシュンさせている。
新技を閃いたなクマ五郎のやつ…と、遠目で見ながら、俺も負けじとツルハシで、我慢比べの様な泥臭い戦いを繰り返していたのだが、そのうちペースを掴んだクマ五郎の狩りのスピードが加速する。
どこぞの一子相伝の拳法家のように速すぎて腕が増えて見える訳ではなく、実際に腕が四本のクマが、次々と華麗にカタツムリを倒していくのだ。
『あんな重そうな連打…反則級だよ。』
と、俺は途中からカタツムリ狩りの手を止めて、後半はクマ五郎無双をただ眺めるだけに成っていた。
この様な感じで15階層まで来て、この階層の水魔法を飛ばすカニも雷鳴剣のビリビリとクマ連撃でほぼ倒してから、中間のセーフティーエリアに降りる。
ここで、お昼ご飯にしてからクマ五郎を送喚して、続いて、ガタ郎とミヤ子を召喚して、後半戦を始める。
しかし、前半は拠点でお預けを食らった二人が、憂さ晴らしとばかりに張り切り過ぎて無双状態に入る。
俺のレベル上げが目的なのに…と思うが、飛べる二人はあっという間に首を刈り取り、ヤバい粉で次々とパッシュンさせてしまう。
決めた、二十階層のボスはソロで殺る!!と、心に決めてもうドロップアイテム回収班に徹して二人の暴れた後を巡る。
ちなみにミヤ子の暴れた後は、ヤバい粉が何かに触れて紫色の煙が上がっている間に近づくと危ないと本人が言っていたので、煙が白に変わってから回収に向かう…成分は不明だが、あの粉は本当にえげつないモノである事だけは理解できた。
そして、魔物のドロップアイテムの中にスキルスクロールが混じり、少し気分が上がった俺だがレベルは全く上がって無さそう…というか多分レベルが上がったのはガタ郎とミヤ子だけの状態で、20階層のボス部屋前のセーフティーエリアに到着してしまった。
手応えの無いままボスに挑むのは嫌だったので、ガタ郎達に、
「えー、明日から数日ここを拠点にレベル上げをします。
明日からは1日交代で、お供は一人ずつでドロップアイテム回収業務を頼みます。」
と発表すると、ここまで暴れてスッキリした二人は快諾してくれた。
ガタ郎に今晩の見張りを依頼して、
「明日の朝から、マリー、クマ五郎、ミヤ子、ガタ郎の順番ですので、連絡よろしく。」
とミヤ子に業務連絡を頼み送喚した。
ヨシ、明日からが本番だぞ!と意気込むが、その前に大切な事を思い出し、
「ガタ郎、コックローチの一族と、追加でゲジゲジ君もお引き取りリストに追加で…」
と指示をだす。
『了解でやんす。』
と答えるガタ郎に、『これで、安心して寝られるな…』と、安心するのであった。
一週間程20階層を拠点にして、レベル上げにいそしむ毎日を過ごす。
素材もマジックポーションもかなりの量になり、スキルスクロールも7本と中々の成果だ。
幸運のペンダントの効果だろうか?…
スキルスクロールこそ、1日に一本有る無しだが、マジックポーションの宝箱は結構な結構な出現率だ…
『ダンジョンショップで生活魔法とマジックポーションが余る理由が解る…』
と、戦利品を確認しながら考えつつ、頭に並ぶアイテムボックスの素材リストに、
「だいぶ頑張ったからボス倒して一旦クレストの街に帰るかな?」
と決めてボス部屋の前に移動する。
この一週間で、20階層のボス部屋に挑戦していたのは1日に1~2組程度、現在は誰も居ないので、そのままボスに挑める。
本日担当のガタ郎は俺の影の中で、
『旦那様、頑張るでやんすっ!』
と、気楽な応援をしてくれた。
「では、頑張りますか!」
と気合いを入れて、ボス部屋の扉を開くと、既に象の魔物が奥に見える…
盾と雷鳴剣を構えて近づく俺が、ある程度まで近づいたとたんスイッチが入ったみたいにキランと目が輝き、
「パオォォォォン!」
と雄叫びを上げる茶色ががった象は、振り上げた鼻の先からストーンバレットを飛ばしてくる。
「水じゃないのかよ!…なんか鼻くそ飛ばされているみたいで嫌だな…」
とボヤキつつも、前世の動物園で見たぐらいの普通サイズの象に少し安心する。
『デカく無くて助かったぁ~』
と考える自分に、
『ん?…いや、普通サイズの象って十分ヤバくないか?』
と、自分でツッコミながら、近づく度にデカく見える象…いや実際にかなりデカいんだけど。
敵の威圧感に軽くビビるが、ここはボス部屋、倒すか倒されるまで解放されないデスマッチ会場だ。
鼻から射ち出される石の弾丸をかわして、間合いを計るが、
『いや…どうやって倒そう…
とりあえず、鼻からの魔法は厄介だから、何とかしたいが、皮膚もガチガチで固そうだし、剣で切り飛ばせるか不安だ…』
と思いながらも、奴の機動力を削ぎたいからと、試しに前足に叩き込んだ飛爪の一撃は象の皮膚を切り裂き、ほんの少しだけ傷を付けだが、
「パオっ」
と奴が短く鳴くと傷口が光り、みるみる回復する…
「えっ回復魔法も使えるの?…ずるくない?!」
と、思わず不満を漏らす俺だったが、これは普通の手段では駄目だ…と、並列思考で戦いながも脳内会議を開く。
炎魔法…皮膚が硬いし、デカいから焼き肉にするにも、時間がかかるし回復される…
魔法剣を試すか?…稲妻は付与されるが、切れ味は飛爪と変わらないし、あの程度のでは回復されて、俺の魔力が先に尽きる…
あーでもない、こーでもないとやっている最中も、象は鼻を高く構えて石を飛ばし、二本の牙で俺を串刺しにしようと突進してくる。
突進をかわしても、巨体に似合わぬ機敏なターンで、再度突っ込む象に、ガタ郎が、
『クマ五郎を召喚して、押さえつけるか、女性陣を召喚して、ヤバい毒で倒すでやんすか?』
と、影の中からアイデアをくれたが…
『それは最終手段だ。』
と一旦保留にした。
脳内会議班が暫くフル回転をした結果、出した答えが(罠をはる)だった。
土魔法のピットホールで穴を開けて、わざと突進を誘ってから穴の手前で跳躍スキルを使ったジャンプで、象さんのみを穴にインさせてから、じわじわ攻撃をかける…それで駄目なら女性陣を召喚!と、いう流れに脳内会議で決定した。
ピットホールは旅の最中に何度が練習したので、どれくらいの穴が出来るかは見当がつく。
だいたいフルパワーで直径三メートルの深さも三メートルあまりの円柱状の穴が開く、魔力の腕輪が無しなら3発も撃てば魔力切れになって気絶しそうになる強力な魔法だ。
三メートルの穴では象さんの全身は厳しいが、ハマってもたついてくれれば勝機も見えてくるかもしれない…
「ヨシ、殺るぞ!」
と、気合いを入れてからわざと象を挑発するように前をウロチョロする。
勘に触った象は、
「パオォォォォン!」
と怒りの形相で突進してくる。
「ヒィィィィ!」
と、おちょくったのは自分にも関わらずあまりの迫力に、声にならない叫びをあげながら、自分の前方にピットホールで穴をあけて、逃げるスピードのまま踏み切り、跳躍スキルで飛び超える。
穴の対岸にたどり着いて、
『どうなる?』
と後ろを見ると、穴の存在に気がつき急ブレーキをかけた象だったが、無念にも止まりきれずに前傾姿勢のままゆっくりと穴に沈む瞬間だった。
「ぱおっ?」
と小さく鳴いた象は、ズドーンと大きな音を発てて、頭から地面に刺さっている。
落ちきるには浅く、体を引き抜くには深い落とし穴に落ちた象は、何とかしようと頑張ってもがくが、おかげで重力に負けて、余計に穴に深く刺さる結果になる。
時折聴こえる。
『えっ?』とか『あれ?』みたいな「ぱぉ?」がもの悲しい…
さて、こうして罠には無事にはめる事が出来たが、どうやって倒すかは考えてなかった。
下手な攻撃をしても回復されるし…弱点でも有ればいいのだが、目の前にあるのは、穴にハマりほぼ詰んでいる象さんの臀部…
並列思考をフル回転で脳内議会を開くが、
(時間をかけてカタツムリの様に相手の魔力切れまで持ち込んで、削りきれ派閥)
と、
(もう、弱そうなのは尻の穴しか無さそうだから、フレアランスでもブチ込んでわからせてやれ派閥)
に意見が割れている…
脳内議員も並列思考で二倍にしたために偶数となり、五分五分の勢力のまま、
『いや、流石に尻穴は…』
『バカ野郎、尻アナしか無いだろう!』
と熱い討論の最中、特別参加のガタ郎議員が、
『旦那様、もう尻の穴で構わないから、楽にしてやるでやんすよ…』
と、身動きがとれない象を哀れむ一票を投じて、(象の紋所、ガン責め法案)が可決した。
アイテムボックスからマジックポーションを数本取り出して準備をした俺は、大穴にハマって動けない象が『控えおろう!』とばかりに目の前にさらけ出している大穴に向かい、フレアランスを全力でハメる!
一本、また一本とブチ込まれる燃える様に熱い槍に、
「ぱ、ぱおっ!!」
っと短い悲鳴をあげる象は、何とかしようと、回復魔法のかたわら、お尻に力を入れている。
凹む象さんの尻エクボに、少しでも固くガード性能を上げようと収縮する紋所…
『俺は、いったい何を見せられているのだろう…』
と攻撃しながらも悩む俺に、ガタ郎が、
『ア◯スでやんす。』
と身も蓋もない答えを放つ。
いや、知ってるよ…と俺はガタ郎にツッコミながらも、象さんにはフレアランスを突っ込み続け、深々とぶっ刺さる魔法の槍が、一本また一本と増えいくと、徐々に魔力の腕輪の魔力が尽きたのか、魔力不足で少しダルく感じてくる。
俺は、用意したマジックポーションを数本飲み干しながら、再び穴責めを続ける…
攻撃をしているのは俺のはずなのに、何故か俺がじわじわと精神にダメージを食っているのが解る…
そして、ようやく象の回復スピードを追い越した様で、穴中から象の
「パッ、パッ、パオォォウゥゥン!」
という、少し焦った様な切ない声が聞こえ、
ついに、後ろ足をピーンと伸ばした象がブァッシュン!と凄い音を発てて消えた。
「きたねぇ花火だ…」
もう、帰って寝たい…寝てこの部屋で起こった全てを一旦忘れたい…
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