第23話 帝都での出来事
盗賊達は近くの街に引きとって貰い、俺の安置所としての仕事からも解放された。
その後は特に問題も無く、ただ、ただ長い馬車の旅が続いたが、板バネのサスペンションのおかげで尻や腰へのダメージが少なかったのと、ちょくちょく入る休憩がダメージからの回復を促してくれたらしい。
そして、やっと到着した帝都は、デカい…兎に角デカい…というのがこの街の感想だ。
大きな商会が立ち並び、広場にはお祭りなのかな?と、思うくらい多くの露店が並び、道は広いが、狭く感じる程に人も多く行き交い、とても活気があふれている。
このまま宮殿まで移動して、皇帝陛下に謁見するイベントさえ無ければ楽しいのに…と少しブルーになる俺だが、
ついに、きらびやかな宮殿に到着してしまい、中に入ると謁見組と待機組に別れて、謁見組はお風呂に案内された…
何かの建物に入るなり体を清めるって…注文の多い料理店かよ…と、考えながら爺さん達と風呂に入る。
何とも心ときめかない光景だよ…
宮殿の風呂だよ!メイドさんが「お背中を…」みたいなのじゃないの?と遠い目をしている俺の隣からは、「うぃぃぃ…」とか「あぁぁぉぉぉっ」とか爺さん達の喘ぎ声が響く…
「うぅぅぅ、こりゃ極楽だなぁ…」
「あぁ、ちげぇねぇ…」
と言っているが…俺からすれば、極楽どころか地獄絵図である。
そして、爺さん達と風呂から上がり、ガイナッツの王子様のお古に袖を通して、謁見前の控室で、ガイナッツの王様達、貴族組と合流してから謁見となる。
王様達もいつもよりキラキラした服だし、爺さん達は良く解らないが、お揃いのローブを着ている。
職人の正装だろうか?と思うが、今は聞ける雰囲気ではない。
それから、皆で長い廊下をぞろぞろと移動して謁見の間に向かうが、何だかじっと見られている気がする…
『凄く嫌な感じがするよ。』
と心の中で呟くと、
『凄い敵意を感じるでやんす。』
とガタ郎も嫌な気配を感じている様子…
すると俺はいきなり宮殿内で斬りかかられた。
ガタ郎が飛び出して、顎で相手の短剣をいなしてくれたが、まだ黒ずくめの敵は構えを解かない。
黒づくめの敵は、
「本性を現したな…魔物を隠し持って宮殿に入り込むとは大胆な賊だ…成敗してやるからそこへなおれ!!」
と、可愛らしい声の敵は再び斬りかかってくる。
ガイナッツの王様も爺さん達も唖然とする中、俺は、
『アイツの殺気はマジだ…殿中で刃傷沙汰とは切腹ものだが、放っておいてもアイツに無理やり切腹させられる!』
と、焦るが、
「手荒い歓迎は帝都の流儀ですか?田舎者の俺には解りかねる!!」
と怒り、魔鉱鉄の盾と魔鉱鉄のナタを構える。
王様が、
「ポルタ君!それは駄目だよ刃物をしまって!」
と俺にいうが、
「王様、黙って切られるなんて嫌ですよ。
従魔は宮殿内でも、報告すれば良かったはずでしたよね?!」
と俺が聞くと、王様は、
「そのはずだが…」
と言っている。
ますます、攻撃された理由が解らないが、その間も敵のナイフは俺を狙って幾度となく襲いかかる。
しかし、スピードは有るが、俺よりは遅いし何より軽い、ナイフをかわした勢いのまま、ナタの峰で黒づくめの敵を打ち据えて無力化した所で宮殿の騎士団が現れ…
はい、現在、絶賛投獄中です…
『なんでだよ!
コレが帝国のやり方かぁぁぁぁぁぁ!!』
と叫びたいが、グッと堪える。
俺はどうしても目的地にたどり着かない呪いにかかっているのかもしれない…
今回は王様の顔を立てて、素直にアイテムボックスの、中身を全て…それこそ干し肉の一欠片まで提出し、ガタ郎達は爺さん達に預けて、何もない状態で牢屋に入っている。
しかし、全く持って腑に落ちない!
怒りは込み上げるが、どうしようもない。
俺は硬い板のベッドに座り項垂れながら
「もう、嫌だけどこの宮殿の、コックローチ一族を集めて従魔にして、この宮殿を恐怖の渦に落としてやろうかな…」
とヤケクソ気味に呟くと、
『クックック、待っておりましたその台詞』
と牢獄の排水溝から聞こえてくる…
『マジで奴がいる!?』
と、背中に冷たい汗が流れるが、
「よぉ~し、こうなれば、俺は、あ…悪魔に、魂を売って…」
と決意しようとした瞬間、
「駄目に決まってるよね。」
とボルト騎士団長にツッコまれた。
ボルトさんが小脇にガタ郎と肩にミヤ子を乗せた状態で俺の牢屋にやって来たのだ。
「ガタ郎とミヤ子が、殺気を振り撒いていたから、
ポルタ君所に連れて行く条件で誰も攻撃しないでってお願いしたら、頷いてくれたからこうして。
で…ポルタ君は悪魔に魂を売って何するつもりだい?」
と聞いてくる。
しかし、その間も、
『五月蝿いぞ人間!我と王の語らいを邪魔するな!!』
と奴の声がする。
するとガタ郎とミヤ子が、
『五月蝿いのはお前でやんす。』
『お前ら一族まとめて毒殺してやりましょうか!』
と、イライラしながら言うと、カサカサと、気配が遠退く…
殺気をおさめた二匹の樹液組を見たボルト騎士団長は、
「悪魔が、去ったみたいだけど、ポルタ君、本当に何を企んでたの?
教えてくれよ。」
と興味津々だったので、俺は、
「この理不尽に対抗すべく、排水溝にいたコックローチに一族を集めさせて、全てを配下にして、この宮殿を恐怖の渦に落としてやろうかと…」
と、白状すると、ボルトさんは、真っ青な顔をして、
「えげつない事を…
俺ってもしかして帝都を今、守り抜いたのでは? 」
と呟いている。
ミヤ子が、
『あんな奴らを使わなくても、ワタクシが死の粉を撒けば…』
と物騒な提案をして、ガタ郎も、
『首チョンパ祭りでやんす。』
と騒いでいる。
ボルトさんは荒ぶる二匹の様子を見て、
「あんまり聞きたく無いけど、お二人は何と…?」
と聞いてくるので、
「死の粉を撒いて、首チョンパ祭りをするって。」
と俺が教えると、
「絶対止めさせて!」
と慌てるボルトさん。
おれが、「駄目だってよ。」と言うと二匹は渋々納得してくれた。
ボルトさんに
「なんで、こう成ったんです?」
と聞くと、ボルトさんは、
「あぁ、ポルタくんが峰打ちしたあの自称 正義を守る影は第三皇女らしいよ。
冒険者になりたいヤンチャ姫の曲者、成敗する!…みたいなアレ…らしい。」
と気の毒そうに話してくれたが、
『俺、滅茶苦茶アウトやないかぁ~い!』
と、心の中で涙を流しながらツッコむ俺は、半ば諦めて、
「帝都の処刑はなんでしょうか?…縛り首かな…打ち首かな…
どうせ死ぬなら一矢報いてから…」
などと空中に向かい呟いていると、ボルトさんは、
「処刑されないから!落ち着いて、絶対止めてね!!」
と慌てる。
『えっ、処刑はないの?…』
と驚く俺だったが、投獄されて丸一日、ようやく牢獄から出して貰えた…
本当に地獄だった…特に排水溝から話し掛けてきたGのせいで、一睡も出来なかった。
まぁ、前回の投獄より短いが、無罪が決まった訳ではないので、まだ安心は出来ない…
今から、皇帝陛下に改めてご挨拶する事に成っているらしい。
控室の様な部屋に宮殿の騎士団の方に誘導されて、
「暫くここで待つように。」
と言われて、大人しく待っていると、ガイナッツ王国の皆さんが現れ、ゴング爺さんが半べそをかきながら、
「ポルタよ、大丈夫じゃったか?」
と、駆け寄り、王様も、
「なんと言って良いのやら…」
と複雑な表情だ。
俺は、
「皆様、ご心配をお掛けしました。」
と頭をさげる。
すると、王様が、
「ポルタ君は本当に、おかしな…いや、個性の強い人間に絡まれるんだな…ボルトから報告を受けたよ。
自棄を起こして宮殿を地獄に変えるのを思い止まってくれて感謝する。
事と次第によっては戦争だったからね…。」
と、ため息をつく…
しかし、俺は、遠い目をしながら、王様と同じ様にため息をついて、
「そうですか…」
と、力なく答えると、ボルトさんが俺を心配しながら、
「ポルタ君、昨日よりやつれてない?
何か有った…?
!もしかして、拷問とか…?!」
と聞いてくる。
俺は、
「拷問…有る意味そうですね…」
と答えると、王様は、
「皇帝陛下からは、姫が目を覚ますまで、形式的な投獄と聞いていたのだが…」
と何か考えているが、
『原因は奴らだ。』
俺は再びため息をついて理由を話す。
「いえ、宮殿の正式なメンバーには何もなされておりません…
しかし、非正規に勝手に宮殿に住んでいる、とある黒光りする一族が、昨夜、一族総勢三千余りを引き連れて、〈王よ、出陣の号令を!〉って俺の回りを取り囲みまして…
ブレイブハートが発動しても尚、とりあえず、帰れというのが精一杯で…今思いだしても体が震えます…」
と、昨夜の地獄の光景を思い出してしまい、真っ青になり震える俺を見て、ボルトさんが優しく肩に手を置いて、
「良く頑張った。」
と、だけ言ってくれた。
王様は、はてな?っとなっているので、ボルトさんが内容をそっと耳打ちするとガイナッツの王様まで真っ青な顔に成っていた。
そうこうしている内に、謁見の時間となったようで、宮殿の係の方に、
「皆様こちらへどうぞ。」
と案内されて、謁見の間へむかう、凄くデカい広間に、兵士と数名の貴族かな?と、皇帝陛下とそのご家族っぽい方々が並んでいる。
とりあえず、俺はこのマルス帝国のトップの方々が並ぶ部屋にガイナッツ王の後について入って行く。
皇帝陛下が、
「ガイナッツ王よ昨日ぶりだな…して、我がおてんば娘を一撃のもとに気絶させた少年を紹介してくれぬか?」
と、愉快そうにしている。
王様が、
「はい、皇帝陛下。
こちらに控えておりますポルタが、昨日、姫様の襲撃を受けて返り討ちにした者に御座います。」
と、何とも嫌な紹介をしてくれた。
俺は、ポーカーフェイスを装い、
「冒険者をしております、ポルタにございます。」
と、言って、片ヒザをついて頭をさげると、皇帝陛下は、うん、うん、と頷いて、
「余が、マルス帝国皇帝、アルフリード・エルド・マルス 13世である。
昨日は娘が失礼をした…許して欲しい…」
と頭を下げる。
俺は、
「皇帝陛下、どうかお顔を…
悪いのは私でございます。
姫様と知らずに、宮殿内で武装した上に峰打ちにて返り討ちにしてしまいました。
申し訳御座いません…」
と深々と頭を下げる。
皇帝陛下は、
「ポルタと申したな。
そなたこそ頭を下げる必要はない…既に娘は昨日の内に目を覚ましておってな…直ぐにでも、そなたとの面会の場を設けようとしたのだが、
〈心の準備が…〉とか申して部屋から出て来なかったのだよ。
形式的とは言え、一晩投獄する形に成ってしまった…許せ。」
と言ったあとすぐに、
「ほら、挨拶をせぬか?!」
と、皇帝陛下が促すと、前に並ぶ中から1人の女性がモジモジしながら一歩前に進み出て、
「ぽっ、ポルタ様、
マリアーナ・エルド・マルスですの…
昨日のポルタ様の一撃…あんな凄いの初めてでした…ハァハァ
年上の女はお嫌いですか?」
と…モジモジしている。
なんだろう?この痛々しい女性は…と思うだけで思考が追い付かない俺に、皇帝陛下は、「ガッハッハ」と笑い、
「冒険者に憧れ、自らを正義の影と名乗り、宮殿の屋根裏を彷徨くおてんば娘が、生まれて初めて、そなたに惚れて、女性らしく恥じらっておるわ!!
愉快、愉快!!」
と、楽しそうだ。
『中二病を拗らせてる、アタオカ娘じゃねーか!』
と心の中でツッコむが、顔には出さずに、
「私などが、姫様に惚れられる要素が御座いませんが…」
と答えると。
皇帝陛下は、肩を揺らしながら、
「娘に本気の一撃を入れたのは、ポルタよ…そなただけなのだ。
皆、気を遣って反撃をしたことすら無いのだ…
余は、〈一度コテンパンにせよ〉と言っておったのだが、今の今まで誰も反撃をしなかった…
おかげで娘が余計に調子に乗ってしまってな…
初めて本気で打ち据えられた、そなたの一撃に愛を感じてしまったらしい。」
と、あからさまに笑いを堪えながら説明してくれた。
チラリと振り向いたガイナッツ王も可哀想な子を見る目で俺を哀れんでいる…
あの頭のおかしい娘さんは、ドMでもあるのかよ…
俺は年上でも大丈夫ですが、痛い女と、面倒臭い女と、性癖が尖ってる女だけは苦手なので、
彼女になりたそうに見ないで下さい…
読んでいただき有り難うございます。
頑張って投稿しますので応援ヨロシクお願いします。
よろしけれはブックマークして頂けると幸いです。
〈評価〉や〈感想〉もお待ちしております。
皆様の応援がエネルギーに成りますので、
よろしければ是非お願い致します。




