第22話 増える仲間とお出かけ
アート作品の様なミヤ子という蝶々を仲間にして、歩き続けること三時間、森の奥までやってきた。
木々が生い茂る森の奥は、
どれが木なのか?どれがトレントなのか?一見すると解らない。
しかし、俺には索敵が…と思っている俺に、先行する二匹が、
『旦那様、コイツ樹液の反応が無いでやんす。』
『本当に、樹液の香りがしませんわね、マヒ鱗粉をお見舞いしておきますわ。』
と、俺より先にグルメな樹液マニアがコンビでトレントを痺れさせて回っている。
「ギギ、ガガっ」と、ぎこちなく動く、マヒってしまっている木の魔物を、魔鉱鉄の斧で斬り倒すだけの簡単なお仕事…
斬り倒したトレントを次々にアイテムボックスやマジックバッグに積め込んでいくが、ウチの樹液~ズはまだまだ辺りのトレントを麻痺状態にして回っている。
30近く斬り倒して、
アイテムボックスも、満たされたので、樹液~ズを呼び戻して帰るの事にする。
今からミルトに数時間かけて歩きで帰ると夜になるが、森でキャンプして明日もトレント狩りをした所でもう、運び出す手段が無いので一旦帰る為に街を目指すのだが、夕暮れ時、森を出てすぐに、俺達の返り道を塞ぐ様に熊の魔物が立ちふさがる。
俺は魔鉱鉄の槍を構えて熊の魔物を睨み、体制を低くすると四本腕の灰色の熊は立ち上がり、四本の腕を天高く上げ…俺に、
『敵意はないんだなぁ、王様ぁ』
と敵意無しの姿勢をとり、語りかけてきた…
『ん?、あれ?熊さんだよね?虫じゃ無いよね…』
と俺が混乱していると、四本腕の熊は、
『僕を子分にして欲しいんだなぁ…
王様ぁ、お願いするんだなぁ。』
と土下座をしながら余った両手をこすり合わせて拝んでいる。
プチパニックの俺だが、思わず『器用だな…』と、感心していると、影の中からと、俺の後ろからとそれぞれ、樹液で腹パン状態のクワガタと蝶々が、
『配下に入りたい場合はアッシに話を通すでやんす。』
とガタ郎が割って入り、
『そう、ガタ郎様に、まずお願いするのですわ。』
とミヤ子が囃す。
俺は呆れて、
「いやいや、二人ともまず、その子は熊でしょ?虫じゃ無いでしょ?…」
と、ツッコむとガタ郎が、
『旦那様、何を言ってるでやんす?
足六本は虫でやんすよ。』
と言って、ミヤ子は、
『本人が虫魔物だ!と思えば虫ですわ。
足の数が違っても、ダンゴムシやムカデも虫の仲間ですわ。
けど、蜘蛛の奴らは自分達を虫と思ってないから、話が通じませんのよ。』
と…
確かに蜘蛛に話しかけられた事はないな…と思い返していたが、
「いやいや、だとしても熊って…」
と、不満を口にする俺は、
『何だよ、この世界の〈虫〉の分類はユルユルなのか? 』
と何とも言えない気持ちで少し呆れていると、
『駄目ですかぁ、ガタ郎の兄貴ぃ!』
と頭を下げる熊と、兄貴のセリフに何かを感じてしまったガタ郎が、
『コイツもなかなか良いヤツでやんすね。』
と、チョロいクワガタが早速取り込まれている。
俺は、
「えーっと、熊さん…
なんで、俺の配下に成りたいの?」
と聞くと、熊は、
『僕の仲間はこの森に居ないんだなぁ。
でも、王様の気配を感じて、
そうだ、子分に成れば、色んな森に旅が出来て、もしかしたら仲間も見つかるかも知れない…と思ったんだけどぉ…駄目かなぁ?王様ぁ…』
と、仲間になりたそうに見つめてくる。
熊は、
『ガタ郎の兄貴も、綺麗な蝶の姉さんも、お願いいたします…どうか、僕を王様の仲間に入れて欲しいんだなぁ!』
と深々と土下座をすると、
『旦那様。』『王様…』
と、完全に熊側に回った樹液~ズにもお願いされてしまい、半ばヤケクソで、手をかざして、
「クマ五郎」
と名付けると、熊光りだして、大きさ等は変わらなかったが、だだ灰色から〈真っ白〉になってしまった。
ますます、同種に合うのが難しくなったんじゃない…四本腕のシロクマって…と、少し心配になるが、
『フォースアーム・ホワイトベアーのクマ五郎、今後ともよろしくなんだなぁ。』
と、何処かの館で合体させられた悪魔の様な挨拶をしてから、ガタ郎達とも自己紹介を済ませ、
『ガタ郞の兄貴、ミヤ子の姉さん』
と、呼ばれてご満悦な二匹の樹液組の子分として、嬉しそうにしているクマ五郎を連れて街に戻る。
街に入る時に少し一悶着あったが、無事に冒険者ギルドでミヤ子とクマ五郎の登録を済ましている時に、登録窓口のギルド職員さんに、
「俺、インセクトテイマーなんですけど、あの熊を仲間にしたの変じゃないですか?」
と、不安から思わず聞いてみると、職員さんが、
「そうですか?昔の賢者様が、フォースアームベアーは、冬眠中に寄生系の虫魔物に体を乗っ取られて融合した魔物だと記した研究結果も有りますから…別に良いんじゃないですか?」
と…
『何その怖い設定は…
確かに、森に他に仲間が居ないって言ってたけど、生まれ方が特殊なレアな虫系魔物なの…かな…?』
と、暫く悩んだが、もう、俺は深く考えるのは諦めた…
『話せるしテイムできたから、クマ五郎は仲間!以上!!』
と納得して、窓口でトレント素材の提出手続きをする。
窓口の職員さんに、
「明日もトレント狩りに行って良いですか?」
と聞けば、まだまだトレント木材を必要としているのでドンドンお願いします。
と言われたので、翌日からはゴング爺さん達の作ってくれた俺用の荷馬車をクマ五郎に引いてもらい森の奥に向かい、トレント狩りを続ける。
アイテムボックスにマジックバッグ、そして荷馬車も使いギチギチに詰め込めば50近いトレントを一日で運べる要になった。
移動も楽になりスピードも効率もアップした。
ナイス、クマ五郎!
そして、5日程トレント狩りをつづけて、300近いトレントを切り出した。
トレント素材は大体、小金貨一枚で買い取りとなるが、樹齢の長い大物は〈銘木〉扱いでかなり高値で買いとってくれた。
おかげで、大金貨50枚程の収入…つまり、五千万円の収入と成った…ボロい、ボロ過ぎる…
『はぁん、金銭感覚がバカになりゅぅぅぅぅ!』
と、頭の中でアホな声をあげながら、大金を稼ぎゴング爺さんの工房に向かうと、マット爺さんもベルト爺さんも一緒にごそごそと何かの用意をしている。
俺が、
「爺さん達、何してるの?」
と、聞くと、ゴング爺さんは、
「おう、ポルタよ、
お前さんも、移動の用意をしとけ、明後日帝都に向かうぞ、」
と、ゴング式・の馬車のパーツを木箱に梱包している。
「えっ、どういう事?」
俺が、質問するとマット爺さんが、
「凄く良いトレントの銘木が手に入ったから、ウチの王様が皇帝陛下に馬車を贈るんじゃよ。」
と教えてくれた。
ベルト爺さんも、作業をしながら、
「帝都には皇帝陛下のお抱え職人が居るんだが、技術指導としてワシらも同行する事に成ってのぅ」
と言っている。
俺が、
「そう、頑張ってね。」
と言って帰ろうとすると、ゴング爺さんが、
「だから、お前さんも行くんだよ?!」
と引き留められた。
『くっそー、アホなふりして帰る作戦が…』
と、内心悔しがる俺だが、ダメもとで、
「なんで、俺までぇ~?」
と、ゴネてみたのだが、
「発案者を連れて行かない訳ないだろ?
息子達の迎えも兼ねてるから、帝都で馬車を作る間に息子に、剣を打ってもらえ…
あと、帝都は世界中から品物が集まるから、スキルでも何でも揃ってるぞ。
行って損はないから、大人しく皇帝陛下に会いに行くぞ。」
と、ゴング爺さんにいわれた。
どうやら拒否権はないようだ…
俺は、悪足掻きと知りながら、
「皇帝陛下に謁見出来る服なんて無いから…」
と、渋るとゴング爺さんは、
「既に、国王より王子のお古を賜っておる。」
と即答する。
万策つきた…
結局2日後、
観念して、王様達の馬車の後方、荷馬車の群れの中で、部品を運ぶ手伝いをしている。
もう少しでCランクに上がれる俺に、クレモンズさんが気を利かせ、王様に掛け合ってくれて、冒険者への輸送依頼にしてくれたのだ。
無事にミルトの街から半月程の帝都に到着すれば、Cランク冒険者に昇格出来る。
これは有難い…
クマ五郎の引く荷馬車はスピードはないがパワフルで、他の荷馬車がヒィヒィと昇る坂でもスイスイだし、荷馬車もサスペンション付きで快適だし、荷物を濡らさない様にと、幌も付いたから雨の心配もない。
荷台には少しの荷物とミヤ子が乗るのみで、道のりは遠いが、そんなに重く無いので、クマ五郎も楽々荷馬車を引っ張り楽しそうである。
ガタ郞も珍しく影から出て俺の隣で旅を楽しんでいる。
春の日差しの中で、のんびりと進む国王御一行だが、この馬車の列はやたらと休憩を挟む…
食事に、トイレ、ことあるごとに馬車が止まる…
夜もしっかりお休みになり…乗り合い馬車の方が早いかもしれない。
ゴング爺さん達に聞くと、
「皇帝陛下に渡す物に万が一があっちゃならないから、慎重なんだ…多分。」
と言っていた。
旅をして一週間…
『ほら、見た事か…やっぱりだよ。』
山間の右も左も岩壁の細い通路で、騎士団のボルトさん達が百人近い盗賊団と睨み会うはめになっている。
前方と岩壁の上から盗賊団に狙われながら、一人の盗賊が、前に出て、
「おい、上等そうなモンを馬車ごと置いていけや!」
と叫ぶ盗賊団に、50人程の騎士団が半分ずつに別れて馬車を守るチームと盗賊に対抗するチームになって居るため、結局25人程の騎士団 対 盗賊百人の構図となってしまっている。
『分が悪いから手伝おう。』
と、俺は馬車をクマ五郎に任せて、弓を担ぎ参戦した。
既に盗賊団の先頭のオッサンはガタ郎に、岩壁の上の弓部隊の盗賊にはミヤ子に攻撃をお願いして俺も騎士団の横に並ぶ。
盗賊団のリーダーと思われるムサイおっちゃんとボルトさんの舌戦はまだ続いているのだが、そうこうしていると、そそり立つ岩壁の上から盗賊の弓部隊がボトボトと落ちてくる。
騎士団も驚くが、もっと驚いたのは盗賊団だ。
仲間が落ちてきた上を見上げ、
「こっ、告死蝶だぁ!! 」
とパニックを起こす者までいる。
ミヤ子は種族名通り恐怖の対象なんだな…と感心していると、
盗賊団のムサイおっちゃんは、
「落ち着け!谷間は風が強い、こっちまではアレの粉が降る事はねぇ!」
と他の盗賊達に指示を出して、
「流石リーダー!」
みたいに子分達がそいつを憧れの眼差しで見つめたその瞬間、岩影をスルスルと渡り、馬に乗った盗賊達の影からウチの黒い暗殺者が弾丸の様に飛び出した。
同時に宙に舞うムサイおっちゃんのお頭…そう、ガタ郎の首チョンパが炸裂したのだ。
すると、盗賊の一人が、
「ひぃぃ、兄貴ぃー!」
と叫んで後方へと走り出した。
それを見たボルト騎士団長は、
「頭目はまだ他にいる、気合いを入れろ!」
と叫び突撃していく。
弓部隊と、相手方の戦意を刈り取る事に成功した俺は、弓で打ち漏らしの盗賊の太腿を狙い弓を放つ。
ガタ郎と、ミヤ子は一仕事終えて既に荷馬車で休んでいる。
そして一時間もしない内に、流石は騎士団、数の不利もモノともせずに盗賊団を壊滅させていた。
よし、俺の仕事は運搬だからこのくらい戦闘に参加すれば良いよね…と気楽にしていたら、ボルト団長が俺の所まで来て、
「良くやってくれた。助かったよポルタ君…あとは、運搬宜しく…」
と死体を指差す。
生きてる盗賊は数珠繋ぎに縛られ、死体は騎士団が集めてくれて、俺がアイテムボックスにしまう…
殺ってから後々怖くなり漏れイブハートしたのは皆には秘密だ。
全てを片付けると、頭の中のアイテムリストに死体の文字が並ぶ…
『キモい』
早く次の村か街で兵士に丸投げしたい…
あと、なんであれ以来、ミヤ子とガタ郎は騎士団に人気のマスコットキャラ的な扱いに成ってるんだよ?!
俺なんて安置所扱いだよ…とキャンプの焚き火を眺めていると、
『元気だすんだよぉ、王様ぁ。』
とクマ五郎が背中を優しく摩ってくれるが…
手が多いからセワシナイ…リバースするヤツの介抱の勢いだよ…うぷっ…
気持ちだけ受けとるよ、慰めてくれてありがと…だから、もう止めてクマ五郎…弱音以外を吐いちゃう
読んでいただき有り難うございます。
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