第21話 春は別れたり出会ったり
ドキッ!男だらけのお風呂回を終わらせた俺は、現在、クレモンズさんの指揮の元、ミルトの街恒例の春先の大量発生イベントに参加…いや、強制参加させられている。
岩亀という、兎に角硬い亀の魔物が、多分温泉が湧いて暖かいどんなに寒い年の冬でも凍らないと言われているミルトの街の近くの池で過ごしてるのだが、春先の暖かい日に一斉に池から自分達の住み処に戻るという行事があり、その時、畑も果樹園もお構い無しで踏み荒らすしてしまう。
しかも、歳をとった大型の岩亀はトラック並みにデカくて、家すらもなぎ倒す。
速度が遅く、歩くのが嫌いな岩亀は一直線に住み処に向かうので、迂回や方向転換はあまり望めない…つまり、街に突っ込んできた岩亀は、倒さないと被害が出てしまうのだ。
スーパーの買い物カートサイズから、トラックサイズまで大小入り乱れて、ノッシノッシと街に近づいてくる。
毎年長い時間をかけて池までくるのだから、のんびり街を迂回して帰ればいいものだが、岩亀達は池で知り合った彼女に少しでも良い場所で卵を産ませたいらしく、池から一斉に、よーいどんでスタートして一直線で四方八方に大行進する習性なのだとか…
『いい加減に人里を避けて通らないと狩られると学習する個体はいないのだろうか?』
などと思いつつ俺を含めた、近接武器系の冒険者が等間隔で横一列になり待ち構え、魔法系は後方から支援する形で、そして弓使いの冒険者はもれなく今回偵察役だ。
そう、岩亀の甲羅は勿論、皮膚も岩の様に硬く弓矢はまず通らないからである。
弓使いの冒険者からの、
「小型多数、中型8、大型3来ます!」
の報告で冒険者達に緊張が走る。
『小型だけでお願います。大型は絶対ダメ、中型も許して…』
と心の中で祈る俺…
どう考え方ても俺では大型の亀は云うまでもなく、中型に対しても火力不足の気がするからである。
魔鉱鉄の片手剣を両手で握り待ち構えていると、どう考えても俺の前に小型が三匹とランドクルーザーみたいな中型が並んで行進して来る。
クレモンズさんの、
「では、皆、行くぞぉ~!」
の掛け声に、皆一斉に走り出すが、俺は
『馬鹿野郎!、中型が居るじゃねぇかよ!!』
と心の中で、誰に対してか解らない悪態をつきながら俺も渋々走り出す。
スーパーのカートサイズを先ずは狙い、横に回り込み首を狙うが、甲羅だけでなく皮まで岩みたいに硬い…
魔力を纏わせてギリギリ斬りつけられるが、ダンジョン産のアイテムと言えど、硬い物を切れば刃こぼれもする…
三匹倒せばもう…ボロボロだった。
しかし、俺の担当区画には中型がまだいる。
駄目で元々で中型に駆け寄り渾身の飛爪の一撃を首筋目掛けて打ち込むと、ガチンと見えない刃は相手の首筋に辺りでピタリと止まる…リーチが延びるスキルの為に剣そのものの切れ味が良くなる訳ではない。
ましてや、ボロボロな片手剣には荷が重く、心の中で、
『ガタ郎、イケる?』
と、一応聞いてみるのだが、相棒からの返事は、
『無理でやんすよぉ、小さいのでも首チョンパは無理でやんす!』
との悲しいものであった。
『でしょうね…』
と、何となく解っていた結果にションボリする俺だが、幸い岩亀は防御力に絶対の自信が有り、甲羅にすら引っ込まないし、反撃も鈍いので、攻撃を受ける心配は薄い…薄いが、こちらの攻撃手段も効果が薄い…
なまくらと化した片手剣を、アイテムボックスにしまい、替わりにゴング爺さん作の魔鉱鉄の槍を取り出して、魔力を纏わせて、亀の甲羅と皮膚の境目の比較的柔らかそうな一点を狙い突き刺す!
槍は見事に突き刺せたが、刺せたからといってこれからどうする?
これ以上ねじ込む事は出来なさそうだし、ミシン目の様な切り取り線でも作るには、何発突き刺さないといけない…
俺は潔くアイテムボックスに槍を片付け、次は替わりに魔鉱鉄の斧を取り出して魔力を纏わせて、首筋に振りおろす。
ザクっとイッったのは表面の薄皮一枚のみ…万策尽きた…
『岩みたいなモン、近接武器で壊せるかよ!?
大剣やハンマーならば何とかなったかもしれないけど…
魔法系の冒険者は大型に向かったし…どうするよ…岩なんか…岩?
そうか、岩か!』
と閃いた俺は、アイテムボックスに斧をしまい、替わりにゴング爺さんが気まぐれで作った魔鉱鉄のツルハシを握りしめて、甲羅の側面をブッ叩く。
魔力を纏ったツルハシが甲羅を砕き、少しずつ岩のような亀の装甲をひっぺがしていく。
亀甲側面に小窓が開いて、中の真っ赤なお肉が見えた時に、俺は勝利を確信し、再びダンジョン産の魔鉱鉄の片手剣を取り出して、飛爪でリーチを伸ばした切っ先を小窓から突き刺しグリグリしてやった。
流石の岩亀も中身の防御力までは高く無いようで、飛爪の効果で距離が離れるごとに半分ずつ弱くなる切っ先も、殺傷力を保ったままヤツの心臓に十分届いたらしく、突き刺した片手剣を引き抜くと、亀から吹き出す返り血を頭から浴びながら、俺は、『良かった…倒せた…』思う安堵感と、『二度とするか!』という怒りがこみ上げていた。
フラフラと歩く真っ赤な俺を見つけた回復担当の冒険者が駆け寄るのを俺は掌を見せて止めて、自分に向けてクリーンの魔法を使ってから、
『返り血のみで無傷ですよ。』
とアピールして、心配してくれた事に感謝の一礼を回復担当の女性に送りながら、
『もう、帰りたい…』
と心底思っていた。
そして、たぶん山の上で会った三人の先輩冒険者は、この事を知っていたから、「えっ!?本当に帰るの?」みたいな反応だったんだと今更ながらに理解し、
「それなら、そう言ってよぉ~。」
と、泣き言をこぼす俺がいた。
この街に来て初めての年だから知らないよ…先輩…
といった感じで、強制参加の岩亀レイドも終わり、現在、冒険者ギルドで亀の運搬や解体等で大忙しの中で、オッサン達が酒盛りをはじめている…
俺は、酒盛りを避けるように、お駄賃目当ての運搬をアイテムボックスを使い行っている。
中型はギリギリだが、小型ならかなりの量を運べるし、移動も街の近くなので、走って三往復程度で、案外早く俺の割り当ての亀は運搬し終わった。
解体職員のおっさんが現場で解体した中型も追加で運んだし、むしろ運搬クエストの代金だけでもなかなか美味しかった。
しかし、運搬のみのレイド参加は無い様なので、亀退治は多分これが最後だろう…もう、あんな硬いのは懲り懲りなのだ。
そして、翌日、ゴング爺さんの工房で岩亀の討伐でボロボロに成った装備一式をメンテナンスしてもらっているのだが、
やれやれと言った感じのゴング爺さんが、
「ポルタよ、この片手剣はもう寿命じゃな…中型の岩亀に勝ったのだから、こやつも本望じゃろう…」
と片手剣のこぼれた刃先を確かめながら言ってくる。
「固有スキルが相性良かったから残念だけど、仕方ないね…」
と残念そうにしていたら、ゴング爺さんが、
「スキルの移植なら付与師が居れば出来るぞ。
金はかかるがな…」
と言いながら、次の武器のチェックをはじめる。
俺は、驚きながらもゴング爺さんに、
「えっ!?そこのところ詳しく!!」
とお願いすると、ゴング爺さんは作業の手を止めて、
「なんじゃ、聞いた事がないのか?
スキル有りの武器とスキルを移す武器を用意すれば付与師の力量にもよるが、大概のスキルは移植できる筈じゃし、頼めば欲しいスキルを探して付与する事も可能だ。
しかし、このミルトに付与師が今は居ないんじゃよ。
多分もうすぐ帰ってくる予定なんじゃが…」
と話してくれた。
俺が、
「帰ってくる?」
と聞くと、ゴング爺さんは、ちょっと恥ずかしそうに、
「そうだ、ワシの息子夫婦と孫娘が帰って来る事に成ったんじゃよ。
馬車で大変になったから、息子の手も借りたいし…孫にも会いたいからの。
その息子の嫁が付与師なんじゃよ。
帝都に修行に出しておったが、王様からの要請で、戻ってくるんじゃよ。」
と作業をしながら、なんだか楽しそうに話す。
俺が、
「息子さんも鍛冶師なの?」
と聞くと、ゴング爺さんは
「あまり面白味はないが、魔物素材と掛け合わせた、実直で切れ味鋭い武器を得意としとるよ。」
と小さなインゴットをテーブルに並べている。
そして、
「ポルタが採掘してきた金属をインゴットにしてみたぞ、
ミスリルは剣一本分は無いかも知れないが、合金かミスリルコートの武器ならば一本出来るから、帰ってきた息子に打たせてみる予定だ。
銀と金は金細工職人の孫娘に腕輪などを作らせて、息子嫁にスキルを付与して貰えばステータス上昇アクセサリーも作れる。
ワシがポルタの為に何か作ろうと思っておったが、息子達の方が適任だろうて…」
と、息子達の技術に対しての信頼と、自分の力量の天井を痛感したようなゴング爺さんは、嬉しそうでいて、少し寂しそうに語った。
ゴング爺さんは、メンテナンスが終わった武器を並べ、
「当面は魔鉱鉄の斧と槍で戦えるか?」
と聞くので、俺は、
「ゴング爺さんのナタもあるから大丈夫だよ。」
と答えると、ゴング爺さんは、
「ならば、頑張って稼いでスキルショップでスキルや、武器屋で移植用のダンジョン産武器を買える様に稼いでこい。
あと、馬魔物の買い付けも予定しておけ、荷馬車が完成しとるからな。」
と工房から送り出された。
そうか、ダンジョン産武器に付いているスキルを移植すれば、切れ味上昇や修復なんかも手に入るかも知れない…
しかし、お金をどんだけ稼がなきゃ駄目なんだろう?とすこし不安に思いながらもギルドに依頼を探しに行く。
俺が、冒険者ギルドに行くとクエストボードに、
『トレント素材の納入依頼、
貴族用の馬車の素材にトレントの素材をお願いします。』
と書いて有った。
窓口で詳しい話を聞くと、納入制限なしで、幾らでも買いとってくれるらしい。
普通の木に擬態して不意をつく魔物らしく、索敵が有れば先手必死で倒せるが、何しろ木、丸々一本を森から運び出すのが大変で思ったほど素材が集まらずに困っているらしい。
「これだ!」
と、思わず声を出してしまったのだが、どう考えてもめっちゃ俺向きの依頼である。
アイテムボックスと、マジックバッグをフルで使えばかなり稼げるし、当面のメイン武器で斧もナタも有るから切り出しには困らない。
いける!いけるぞ!!と興奮しながら、
「この依頼をお願いします。」
とカウンターで手続きをして、この時期トレントが居るミルトの森の奥に向かうのだが…
俺はすっかり忘れていたのだ。
春が近づき、このシーズンも帰ってきてしまった…
頭の中に、RPGのテキストのように、
『蝶々魔物が仲間に成りたそうにこちらをみている…仲間にしますか?』
と、表示されてるのでは?と思える程に、俺の前にホバリングしながら蝶々が見つめてくる…
そして、
『王様、私をどうかあなた様の配下にしてくださいまし…毒、麻痺、色々できますわ!』
と、ついには俺の足元着陸してひれ伏す布団サイズの蝶々…
「モスラかよ…」
と呟く俺に、影から飛び出したガタ郎が、
『えーい、売り込みは、このガタ郎様を通してもらうでやんすよ!』
と割って入る。
蝶々はこのガタ郎に対して、
『ガタ郎様ですか?はじめまして。
ワタクシ、どうしても王様の為に働きたいのです。
ガタ郎様の様な立派な配下になれます様に努力いたしますので、どうか、ガタ郎様からも、王様にお口添えを…』
と、頭を下げる蝶々にガタ郎は、
『旦那様、良い娘でやんすよ。』
と、すでに、この蝶々のペースに飲まれている。
「おい、頑張れよガタ郎!」
と俺が、ツッコむが、
『ガタ郎様、お口添えありがとうございます。』
と蝶々に感謝され、
『いやいや、アッシは本当の事しか言わないでやんすよ。』
とガタ郎は照れている…
まぁ、芋虫は基本駄目だけど、蝶々はギリギリ我慢が出来る範囲だ、目や足や、くるくる回る口の管さえ直視しなければだが…
この蝶々は口も上手だから配下希望の虫の対応担当でも良いかも知れないが…と、俺が悩んでいると、
『大丈夫でやんすよ、旦那様があぁなる時は、仲間にしようか悩んでる時でやんす。』
と言っているガタ郎と、
『まぁ、嬉しい!、ガタ郎様のおかげですわ、ありがとう存じます。』
と、蝶々に言われて、
『そんな事ないでやんすよ。』
と、ますます気を良くするガタ郎…
俺は少し呆れながら、
「じゃあ、ガタ郎の部下的な位置ね。」
と、いうと
『うわぁーい!』
と喜んでブァッサブァッサと飛び回る蝶々と、何故か自慢気なガタ郎に、俺は諦めて、
「名前を付けるよ。」
と蝶々にいうと、
『はい!』
と答えて、足元にピタリと止まった。
俺は手をかざして名前を考えるが、もう、蝶々といえば、昭和な俺はこれしか浮かばなかった。
「ミヤ子。」
と名付けた瞬間に、布団サイズの蝶々は光りだし、座布団サイズに縮んだが、羽は美しいステンドグラスのように変化した。
光りが落ち着くと、
「告死蝶のミヤ子、王様のお側に末永くお仕え出来ます様に身を粉にして働きますわ。」
と深々と頭を下げたが…
告死蝶って、滅茶苦茶こえ~名前だな…あと身を粉にしなくてもリンプン凄いよ…。
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