第20話 冬の仕事と採掘現場
あぁ、クレスト程ではないが、やはり冬場は依頼の量は減り、依頼の難易度は上がる様だ。
よってDランクの出る幕はほとんど無い。
…何だよオーガの集落の殲滅って、何処の軍隊に依頼するつもりだよ…オーガだって楽しく暮らしているだろうに…邪魔だからって…と、誰に向けてか解らない愚痴を言いながら冒険者ギルドの酒場で朝のランチを頂いている。
もう少しでCランクになれそうだで、ダンジョンもミルトの街から馬車で5日の場所にあるが、どうせクレストの街で味わった通り、冬場の稼ぎ場所に成っているので人口密度が高く、仕事に成らないのだろう…
さぁー困った。
採掘場のアーマーリザードも冬眠中だし、猪や鹿の魔物は猟師さんに近場の狩場は抑えられているので、変ないざこざは起こしたくない。
かといって、オーガやアイスワイバーンなんて相手にするほど馬鹿ではない。
消去法で残ったのは〈オークの集落の殲滅〉…ふざけるな!ソロで出来るか!!
これは完全に積んだな…
不労所得と少しの蓄えで何とか春まで過ごせるが、じり貧なのは変わらない。
あと、Dランクでも行けるのは、盗賊関係の依頼のみ、秋に収穫が少なかった農民が、食い詰めて盗賊になるから、冬場は盗賊が増える。
しかし、対人戦闘かぁ?
食い詰め農民をシバくのは趣味ではないが、生粋の盗賊は切り殺す必要が有るかもしれないけど、
対人戦闘は、パスしたいなぁ…
などと俺が、クエストボード前で、うーん、うーんと唸っていると、ギルマスのクレモンズさんが、
「ポルタ君、お仕事少なくて、困ってるようだね。」
と、声をかけてくれた。
俺が、
「猛者用の依頼しか有りません…この時期Dランクの皆さんはどうしてるのでしょう?」
と聞くと、クレモンズさんは、
「冬前から冬越しクランを組んで、ダンジョンのフロアを占拠して狩りをして二時間休憩を繰り返し、ある程度で次のチームと場所交代してを繰り返してるかな?
ソロは厳しいでしょ?」
と教えてくれた。
なるほど、あの組織はそういう成り立ちなんだ…と、納得はするが、同時に今からではどうとも成らないのが解った。
「はぁー」とため息をついてガッカリする俺に、クレモンズさんは、
「竜の釜戸っていう良い狩場があるよ。
片道1日ほどかかるから、寒くて大変だけど、現地に着いたら地熱で暖かいし、ヤバい敵はそんなにこの時期は居ない筈だから、オススメだよ。
金や銀、ごく稀にミスリルなんかも採掘出来るし、運が、良ければ宝石なんかも出てくる場所もあるエリアだよ。
絶対春までには帰らなきゃ強いのが出てくるけど…どうだい?」
と言われて
「ギルマス、場所を教えて下さい。」
と、頭を下げる俺に、待ってましたとばかりにギルマスは、ポケットから地図の写しを渡してくれた。
俺は、
「ありがとうございます、早速行ってきます!」
と冒険者ギルドを飛び出し、食糧の買い出しをしてから、ゴング爺さんの工房に寄って、しばらく留守にする挨拶をする。
ゴング爺さんは、
「気を付けて行けよポルタ。
帰ってくる頃には手押しポンプの試作品と、ポルタ専用の荷馬車が出来てるころだから楽しみにしとけ。
あぁ、あとミスリルと、金や銀は売らずに持って来い!
良いモン作ってやるからなぁ。」
と、見送ってくれた。
ゴング爺さんは今から向かう竜の釜戸という採掘場所を知ってる様だな…
ミスリルが取れるって知ってるみたいだし、実績も有るようで楽しみにだ。
と、ウキウキで来たのだが、
…すみませんでした。冬の登山を舐めに舐めてました!
こ、これは、し、死ぬやもしらん…と弱音をはいていると、影の中からガタ郎が、
『頑張るでやんす。
寝るなぁ!寝ると死ぬでやんす。』
と、叫んで俺を鼓舞してくれる。
俺は、
「あぁ、フレアウルフの毛皮で、ポカポカな防寒着を作ってもらったら良かった…
少し温暖な地域だから要らないかな?と全部の素材売るんじゃなかった…
で、ガタ郎は寒くないの?」
と、心配して聞くと、
『影に入っている限り大丈夫でやんす。
人肌ヌクヌク、寒さ知らずでやんす。』
とガタ郎が告白する。
「ずっこい、ずっこい!」
と、いじけるが俺に、ガタ郎は
『旦那様ぁ、考えてみて欲しいでやんす…虫には冬山はキツいでやんすよ。』
と…まぁ、それもそうだが…
「俺にも十分キツいよ…」
と愚痴を言ってはみたが、夜の冬山はマジでキツい。
俺は、
「もう駄目だ!」
と、諦めて、休める場所を探して、夜を明かす事にした。
そして近くに小さい洞窟?を見つけて、
「よし、あそこにしよう。」
と、呟き、近寄るが、
『あれ?なんかの巣穴じゃね?』
と思い、索敵をかけると穴の奥に赤い点が見える…
『マジかよ…巣穴かぁ…』
と、ガッカリするが、しかし、もう寒さでギリギリな俺は、
「お邪魔しまぁーす。」
と、巣穴に入ってライトの魔法を取得して以来久々に使ってみると。
明かりに照らされてグッスリ眠る、熊ぐらいデカいハリネズミがいた…
『何だよコイツ、寝ててもほぼ無敵じゃねぇ~か!』
と、熟睡中のハリネズミを眺める。
トゲが一本一本が槍の様だし、しかも、丸く成ってるし…
周りは枯れ葉や枯れ草で暖かそうだが、流石に添い寝するには少し相手がトゲトゲしい。
しかし他の穴を探すには寒過ぎる…
考えた末、二世帯住宅にリホームする事にした。
巣穴の周りで岩を沢山アイテムボックスに回収し巣穴にもどり、奥にいるハリネズミの手前に岩を出して塞ぎ、浅い洞窟にリホームした。
勿論奥にはハリネズミが、お休み中だ。
そして巣穴の中で焚き火をおこして暖をとる…
しかし、生活魔法の着火は本当に便利で、かじかむ手でも関係なく火がおこせるので有り難い。
焚き火にあたり少しは暖かくなったが、そうなると人間とは欲深いもので、外からの風が寒い。
岩で洞窟の入り口も埋めたかったが岩が足りないので、風避けを作るのがやっとだったが、風避けの岩のおかげで、何とか焚き火で暖はとれて、指先の感覚も戻ってきた。
しかし、外の寒さに負けそうな焚き火では芯から暖まらない…
ヤケクソで薪などを投入して、キャンプファイアーほどの焚き火を巣穴で燃やしてようやくポカポカしてきたが、凄い煙が出てしまい、今度は煙たくて巣穴には居れなく成ってしまった。
まぁ、一旦暖かくなったので暫く我慢は出来るし、洞窟の入り口側にいるだけでもキャンプファイアーはまだボーボーと燃えているので暖かいのでギリギリ入り口周辺でも凍死せずに過ごせそうだ。
しかし、暫くすると巣穴の奥からゴン、ゴンと暴れる音が聞こえてきた。
『まずい、ハリネズミが起きたか…』
と武器をアイテムボックスから出して構える。
しかし、音はすれど、出てくる気配がない…
一時間程、武器を持って立っていたが、アホ臭くなり、念のために索敵をかけると、赤い点が消えていた…
入り口側で夜を明して、巣穴の主の様子を岩をアイテムボックスにしまいながら見に行くと、キャンプファイアの火が床の枯れ葉に燃え移って広がった様で、可哀想にデカいハリネズミは焼かれたか?一酸化炭素中毒か?理由は解らないが天に召されていた。
ハリネズミをアイテムボックスにしまい、また山を上り始める俺の影の中でガタ郎が、
『寝てただけなのに…哀れでやんすね…』
と、ハリネズミを思いながら呟いていた。
そして、やっと着いた竜の釜戸は、湯けむり漂う温泉地帯だった。
既に先客の冒険者が数名いて、ガッチン、ガッチンと、ツルハシを振り採掘をしている。
到着したばかりの俺は、ゴング爺さん特製の魔鉱鉄のスコップをアイテムボックスから取り出して、
小川の側でザックザックと穴を掘っている。
これは、素材の採掘ではない!
掘れば、掘るほど湧き出る温泉に小川の水も引き込み調節をする。
アイテムボックスにハリネズミの時の岩がまだ入れっぱなしなのを思い出して、取り出して並べていく作業を続け、結局到着初日は、この岩風呂作りに全て使ってしまった。
しかし、風呂の側にテントを張り、夕方近くから景色を眺めながら入る風呂は格別だった。
調子に乗って少しはデカい風呂を作ってしまったのが少し体力の無駄遣いだったかもしれない…すると、採掘を終えた先輩方が小川にで泥を落としに来たところ、風呂に浸かる俺と目が合う…
たまらず先輩冒険者は、
「凄いの作ったな!」
と声を上げ、俺は、
「どうです?先輩方も入りますか?」
と誘ってみたのだが、
三人の先輩冒険者は、
「いいのか?」
と口を揃えて聞いて来たので、
「温泉が湧くのが楽しくて、デカい岩風呂つくりましたからどうぞ。」
と答えると、先輩達は少し暖かいだけの小川からポカポカの岩風呂に移動し、装備を脱ぎ捨て、そして、「お邪魔します。」と声をかけてから三人はチャプンと湯船につかる…
先輩冒険者は、
「凄いな、採掘せずに何をしてるのか?と思ったが、これは最高だ…貴族にでも成った気分だよ。
お湯に浸かるとは贅沢な事を思いついたな坊主。」
と言ったので、
「初めまして、Dランクのポルタです。」
と自己紹介する俺に、先輩方は、
「おっと、すまないCランクのトニーだ。」
と、背の高い冒険者が応え、
「俺もCランクのマイルズ、宜しく」
とガッチリ体型の冒険者が返し、
「こんな格好で自己紹介も何だが、Cランクのチャックだ。」
と背の低い冒険者が少し照れながら挨拶してくれた。
四人で湯船に浸かっていると、
トニーさんが、
「Dランクで、ここまで来たヤツを初めて見たよ。
ポルタは何歳だ?」
と聞くので、
「12です。」
と答えると、マイルズさんは、
「スゲーな、俺なんか12っていったら、まだFランクだったよ…」
と驚き、チャックさんは、
「俺なんか、12なら鍛冶師の見習いしてたけど、モノに成らなくて逃げ出したばかりのGランクだな…」
としみじみ答える。
俺は、
「先輩達は、Cランクなのに冬の狩りとか行かないんですか?」
と、聞くと、トニーさんは笑いながら、
「あんなふざけた内容の依頼は一流冒険者様に任せりゃ良いの!」
とグ~ンと伸びをして、
マイルズさんも、「うん、うん」と、同意する。
チャックさんが、
「ギリギリ行けそうなオーク狩りも、あんなの最低だ。
ゴブリンよりタチが悪い…
オスも、メスも居るのに、苗床の女も、玩具扱いの男も巣に居る可能性があるから気苦労が倍だ…」
と、顔を洗いながら言っている。
『ひぇー、行かなくて良かった。』
と思っている俺に、トニーさんは、
「ポルタくんは冬越しクランに入らなかったのかい?」
と聞くので、
「その文化を知らなかったんです。
昨年は雪ウサギ狩りとか、なんやかんやで何とかなりましたし…まぁ、知った所で多分行きませんけどね。」
と、俺がいうと、マイルズさんが、
「こんな気持ち良いのはダンジョン労働者には味わえないから、ポルタ君は正解だよ。」
と笑い、チャックさんも頷いている。
結局そのあとも、焚き火を囲んでご飯をたべて、暖かいこの周辺の木で樹液タイムを楽しんでいたガタ郎を紹介すると、三人とも固まるという、お約束のくだりが有ったものの、和やかな夜は更けていった。
ー 翌朝 ー
寝ずの番をしてくれたガタ郎にリンゴをあげると、
『冬場は樹液の出が悪いでやんすし、ここら辺は暖かいけど木があまり無くて一巡りしたけど満足出来なくて困ってやしたから、リンゴが一番有難いでやんす。』
と言っていた。
俺は、
「ごめんね、お腹空いてたんじゃない?」
と、アイテムボックスからミカンも取り出して、ガタ郎に渡すと、
『やったー!嬉しいでやんす。』
と喜んでいた。
そして俺は、支度を整えて竜の釜戸での、初採掘に挑む、鉱物資源感知を使うと、あちこちから反応があり、ゴング爺さん特製の魔鉱鉄のツルハシや、スコップが唸る!
カチ割った岩等をアイテムボックスに放り込むと自動で仕分けてくれるので、〈岩〉や〈土〉は捨てて、次から次へと採掘ポイントを渡り歩く。
先輩達も泥だらけで土を掘り返しては、メガネをかけて確認したりしている…
おっ!あれは、鉱石解る君では?と懐かしのダンジョンアイテムを駆使して採掘を行う先輩を見て、自分は何と楽が出来ているのか…と改めて知ることが出来た。
1日、土にまみれて、泥んこでテントに戻り風呂に入る。
勿論、先輩方も一緒に…
ワイワイと食事をし、また翌朝から採掘を始める。
たまに現れる鳥魔物はガタ郎が寒くない地域内ならば片付けてくれるし、よく分からない毛むくじゃらの軽自動車程のカピバラみたいなのは、手出ししない限りは襲ってこない様で、暖かい地面を探し、昼寝して帰るだけだ。
平和な採掘現場で1ヶ月近く頑張り、
「もう少し頑張る」
と言った先輩方を残して下山する事にした。
俺は正直、効率が良すぎて罪悪感を覚えてしまったからだ。
先輩方に、
「温泉は自由に使って下さいね。」
と、声をかけてから手を振り、ミルトの街を目指して歩きだした。
しかし、暖かい温泉地ですっかり忘れていたが、帰りも滅茶苦茶寒かった。
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