第18話 やっちゃ駄目なドッキリ
ガチンと壁面をツルハシで叩き、崩れた土をアイテムボックスにしまうと、〈土〉・〈鉄鉱石〉・〈魔水晶〉などと、分けてくれる。
その中のから土だけポイして、再び鉱物資源感知スキルを使い近付くの壁面をチェックしては砕くのを繰り返している。
ここは、ミルトの街から半日ぐらいの山の中の採掘ポイントで、出てくる魔物は硬くてデッカいトカゲのアーマーリザードと…
『よっ、社長!!
採掘ですか?オイラも手伝いますよ?!』
と話しかけてくるダンゴムシにガタ郎が、
『控えるでやんす!旦那様は、今、忙しいでやんす。
おとなしく見れない奴は帰るでやんす。』
と注意してくれるし、アーマーリザードも、出て来たと同時にガタ郎が首チョンパである。
ダンジョンに潜らなくても鉱物資源が手に入る場所だが、量は勿論、ミスリルなどの希少金属を求めるなら、鉱山かダンジョンなのだが、ゴングの爺さんに
「その装備で狩りに行く気か?」
と、聞かれて、「うん。」と答えたら、
「馬鹿野郎、駄目だ!
そこら辺で鉄鉱石と魔水晶拾ってこい!
大事なポルタをがっちり守る魔鉱鉄の装備を作ってやる。
アーマーリザードの皮も持って来いよ!」
と言われたので、絶賛採掘中である。
特許申請以来、えらく俺の事となると過保護な爺さんだが、本当に特許の時は大変だった。
〈ゴング式・衝撃吸収システム〉という名前の板バネの馬車の模型を手に商業ギルドに行って特許申請をしたのだが、特許使用料として、使用一件につき大銀貨二枚が入る計算になり、ゴングの爺さんと大銀貨一枚ずつ半分こする提案をしたら、
「ワシは名前を付けてもらっただけで十分じゃ!」
とか言い出して、
「そんな訳にはいかない!」
と、あーだ、こーだと話し合った結果。
特許使用料は半分こ、その代わりに、ゴング爺さんは俺の装備と、作って欲しい物があったら、鍛冶仕事として技術を提供して貰う事で折り合いをつけた。
そして、今に至る…
3日間ほど採掘に明け暮れたので、どれくらい必要か解らないが、まぁ何とかなるだろうと、一旦、街に帰る事にした。
山を降りて、一晩宿で休み、そしてゴング爺さんの工房に行くと、目の下にクマを作った爺さんが、試作の馬車を作っている。
そして、辺りを見ると、訳の解らない発明品が綺麗に無くなっていた。
ゴング爺さんは、
「ガラクタを鋳潰したんじゃ、サッパリしたじゃろ?!」
と笑っているが、少し寂しそうでもある…
しかし、爺さんは自信たっぷりに、
試作の馬車をコンコンと叩き、
「ワシはコイツに賭けておる、
コイツを仕上げて、商業ギルドに認められ、設計図を登録しなければ、特許が動き出さない。
最高の物を仕上げて度肝を抜いてやる…」
とやる気十分だが、俺が採掘している間ずっと寝ていないようだ…
『体に悪い、根のつめ方を…』
呆れる俺が、
「ゴング爺さん、先ずは確り寝て下さい。
今日は休みで、鍛冶禁止!
完成を前に爺さんが壊れちまうよ…」
と提案すると、
「いや、しかし…」
と爺さんはグズる。
俺は、
「爺さん、夜は確り寝る!
徹夜は、締め切りが迫った時しかしない!
これを約束してくれたら、
馬車のシートにもって来いの座席のアイデアを教えてあげるから…」
というと、ゴング爺さんが、
「ポルタ!今、今教えてくれ!!」
と騒ぐ…
はい、はい、お爺ちゃん、寝ましょうね…と優しい気持ちで、俺は、
「ダーメっ」っと、キッパリ言って工房を出た。
下手に素材を置いて帰ると、また寝ないで今度は鎧を作りそうだから、素材も持ったままである。
紙や筆記用具を買って帰り、宿で思い出せる限り色々な知識を書き出してみた。
ほぼ、技術の時の授業時間のおさらいの様な紙の束には、〈スプリングマットレス〉や〈手押しポンプ〉に〈蒸気機関〉等々…
前世に有ったが、こちらで見たことの無い物を選び書き出し、色々な知恵の中でもゴング爺さんの再現出来そうな物を中心に幾つか選んで小出しにする予定だ。
でないと、一度に見せると不眠不休で鍛冶しまくりそうだ…
そして次の日、目の下のクマは無くなっていたが、楽しみにし過ぎて朝早くから待って居たのか、目がギンギンになっているゴング爺さんが出迎えてくれた。
俺が、約束通りアイテムボックスの中から紙束を出して、〈スプリングマットレス〉の紙を見つけて出すと、
「ポルタよ、さっきの紙の束はなんじゃ?」
と爺さんが騒ぐので、
「俺のアイデア集だよ」
と、答えると、
「見せろ!…いや見せて下さい。」
と頭を下げる爺さんに、
「駄目、駄目、まずは馬車から」
と言うと、
「う~ん」と唸りながら体をよじり、「意地悪ぅ~」と気持ち悪い声をあげる。
『キモいでやんす…』
とガタ郎も影からツッコむキモさ…
しかし、ゴング爺さんは、真面目な表情で、
「おかしいのぅ、孫娘にコレをヤられたら、ワシならイチコロなのに…」
と、不思議そうにしている。
『まだ、休息が足りなくて、正常な判断が出来ないのかも知れない…』
と俺が心配していたら。
ゴング爺さんは、俺のメモを見ながら、
「なるほど…こいつは大量の針金とこのぐるぐるの形状にするのが必要なんじゃな…」
と爺さんは見ただけで理解しているので、休息は足りているのかな?
と俺が考えていると、
「ポルタよ、これは普通の椅子や、ベッド等の家具にも使えると思うのじゃが…?」
と聞いてくるので、
「勿論出来るよ。」
と、俺が答えると、
爺さんは、
「アイツと、アイツも仲間に入れよう!」
と工房を出ていった。
そして、暫くして帰って来た爺さんは両腕に爺さんを1人ずつ抱えていた。
小太りの爺さんと、細い爺さんが、
「可哀想にこんな子供まで拉致してきたのか?」
と、ぶら下げられたままで、俺を哀れんでくれている。
しかし、ゴング爺さんは、気にも止めずに、
「この丸っこい爺さんが家具職人の〈マット〉で、このヒョロい爺さんが細工職人の〈ベルト〉だ。
この子供が、ワシの道を照らしてくれる神からの贈り物ポルタじゃ」
と紹介をしてくれたが、全員がハテナな状態だ。
だけど、そんな我々を置き去りにして、ゴング爺さんは興奮気味に、
「見てくれ、ワシの最高傑作…」
というと、新たに連れて来られた爺さん達は、
「ゴングの最高傑作って、パンを一口サイズに千切る機械じゃろ?」
「いやいや、背中を良い感じに掻いてくれる機械だろ?」
と口々に言っているが…なんじゃそのろくでもない機械は…と呆れてしまう。
しかし、新規の爺さん二人は
『まぁ、ろくなモンでは無いようだ!』
との意見で一致した様子であった。
しかし、ゴング爺さんは、
「フッフッフ!見よ!!」
と二人の爺さんに、ゴング式・衝撃吸収システム搭載の制作中の馬車の試作品を見せる。
二人の爺さんは、ゴング爺さんの説明を聞きながら、
「まともだ…」
とか、
「ゴングっぽくない」
と呟いている…
そして、ゴング爺さんは俺のメモを見せて、説明を始めると、2人の爺さんは食い入るように話を聞き始めて、ゴング爺さんの
「一丁噛まないか?」
との言葉に二人とも食い付き、そしてここに、馬車の足まわりから座席など車体の全てを作れるチームが完成したのだった。
…いやいや、ゴング爺さん!
俺の紹介もっと詳しくしてあげてよ…俺だけ街の街灯みたいな紹介のままだよ?…
ゴング爺さんが、二人を拉致してきてから数日、爺さん達は分業制で、ベルト爺さんが、ゴング爺さんと二人でバネを作っている。
針金からバネを作る道具から手作りだが、流石は長年の技というのか…凄い手際だ。
そして、マット爺さんは木材を加工してゴング爺さんの試作馬車に座席等を取り付ける準備をしている。
もう、放っておいても大丈夫そうだ。
ちなみに、スプリング自体も特許を取ったし、スプリングマットレスなどの実用新案も申請した。
これで、板バネやスプリングが使われる度にお金が入るし、スプリングを作る道具も特許を取ったので、スプリングベッドや、スプリングソファーの分の実用新案権でも収入が見込める。
三人の爺さんはイキイキと作業をしているので、邪魔するのも嫌だから、また山に採掘に出かける事にした。
採掘が楽しいのと、アーマーリザードの肉と魔石や爪などが思いの外高く買い取ってくれるので、当面の宿代になる。
ギルマスのクレモンズさんは、
「依頼は受けないのかい?」
と、聞いてきたが、
「装備がまだなので、装備の材料を採掘してます。」
と伝えると、
「何日も採掘に山にこもってるみたいだけど、まだ素材が集まらないのかい?
昔よりも鉄が少なく成ったのかねぇ?」
とクレモンズさんは腕を組み考え込んでしまった。
これは長くなる…?と思ったので、俺は、
「行ってきまぁーす!」
とだけ挨拶をして、さっさと出掛ける事にした。
ー そして、数日後 ー
ゴング爺さんに現在叱られている。
馬車の御披露目に間に合わなかったのと、アホ程素材を持って帰って来たからだ。
持ち帰った素材を前に、
「軽鎧なら小隊1つ分出来そうじゃぞ?!」
と言われて呆れられた。
馬車の御披露目会は商業ギルド主宰で、貴族の方々や、騎士団の隊長達と、なんとガイナッツの王様達まで居たそうだ…
『留守してて良かった…』
と俺は安堵していたのだが、王様の命令で他の工房の鍛冶師も複数ゴング爺さんの工房に指導を受けにきている。
当面ガイナッツは馬車の制作に力を入れるらしい。
『まぁ、気に入って貰えて何よりだよ。』
習いに来て居るのも一流の職人で、要点だけで十分理解するし、片手間でも指導できるから、ゴング爺さんはようやく鎧に取り掛かってくれるらしい。
俺の体を採寸して、
「一週間で仕上げてやるが、微調整もあるからたまには顔をだせ。
それと、騎士団のボルトが、明日迎えに行くから宿に居てくれだとよ。」
と言ってきた…
『マジか、嫌な予感しかしないよ…』
と、怪しむ俺が、
「ボルトさん、何の用か言ってました?」
と恐る恐る聞くと、ゴング爺さんは作業しながら、
「なんだか、モンドール伯爵がどーだの、こーだのと言ってたが…良く解らん。」
と言って、作業を続ける。
『な~んだ、モンドール伯爵の所のゴタゴタの結果報告か何かか…』
と納得して宿へと帰った。
明けて翌日…
『何故だ、何故こうなった…!』
現在、俺は変な汗でパンツまでグッショりさせながら、
「で、でぃ…Dランク冒険者のポルタと申します。」
と、きらびやかな大広間で、王様の前で十人程の貴族に囲まれ片ひざをついている…
『ボルトさん…恨みます…これは人としてやっては駄目なドッキリです…』
と、俺を罠にはめた張本人に、『下痢にな~れっ!』と、ささやかな呪いをかけていると、王様は、
「うむ、私はガイナッツ王国、国王、アルファス・ファン・ガイナッツである。
此度は、我が国の者が大変失礼をした。
許してほしい…
正式にアルトワ王家にも謝罪を送っておるが、返事が来るのは春であろう…
アルトワ王国よりも温暖ではあるが、寒い時期にそなたの様な成人前の子供を牢屋に何日も…
やはり、詫びて済む話ではないな…」
と、深刻な顔の国王陛下に、俺は、
「王様、そんなに気にしないで下さい。
あの兵士のやり口は全く許せるものでは有りませんし、それを、監視する責任のあるモンドール伯爵にはキッツ~イいお仕置きを望みますが、その他のガイナッツの方々にはとても良くしていただいて居ますので…
それに、食事もアイテムボックスに入ってましたし、野宿用の布団も出せました。
中々快適な牢屋生活でしたので…」
と伝えると、王様や貴族の方々がホッとしていた。
そして、安心した様子の王様は、しみじみと、
「目の前に居るのは少年なのだが、話す内容やモノの考え方…とても子供とは思えぬな。
ゴングの親父さんは、そなたの事を知恵の神の使徒と話していたしな…」
と話した。
『ゴングの爺さん…なんという事を…』
と少し爺さんを恨んだが、王様が、
「よし、本人からの許しも出たから皆のもの楽にしてくれ、
いゃぁー、ポルタ君が怒ったままだと、絶対アルトワも許してくれないし、モンドールの首くらい飛ばさないと収まらないかと心配していたんだよ。
小さい国だから1人でも欠けると大変なんだよね。」
と、王様は王様モードを止めたようだ。
1人まだ変な汗をかいている俺に、
「ポルタ君も楽にしてよ、お茶にしよう!」
と声をかけてくれた。
『お茶かぁー、もう帰りたいのですが…ダメ?』
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