第17話 鍛冶師を探して来たのは
前もそうだったが、どうも俺は目的地には行けない星の下に産まれたらしい…
そんな訳で、ガイナッツ王国の第一騎士団の団長ボルトさんに連れられて、やって来ました、ガイナッツ王国の王都、ミルトの街…
一週間ほど前に、この街に来てから、わざわざモンドール伯爵の町まで移動したのに、まさか戻って来るとは…
門を抜け、街を進み、馬車は再び立派な門をくぐって進み、ガイナッツ騎士団の建物に到着した。
ボルトさんは、
「ポルタ坊、色々不安だと思うが、あと数日はここの医務室で様子を見てもらえ。
本当にすまなかった…酷い目に遇わされた国の奴の言うことは信じられないかも知れないが、どうか信じて欲しい…俺は味方だ。そして、あんな馬鹿とはじめに関わっちまったが、ガイナッツ王国の人間を嫌わないで欲しい…無理かもしれないが…」
と申し訳無さそうに話す。
俺は、
「はい、ありがとうございます。
アイツは、大嫌いですが、別に、ガイナッツの国を丸ごと嫌いにはなりません。
アイツが、ガイナッツの顔で、代表的な国民でない限りは…」
と、伝えるとボルトさんは、
「あんなのしか居ない国ならば、俺も嫌いになっている…俺が、騎士団の団長に成って守りたいと思える国だ。
良い奴もいっぱいいるよ。」
と笑顔で話しながら医務室まできたのだが、連れて来られた医務室には、凄くお綺麗な女医さん?が居た…
ボルトさんは、
「連れてきたぜ、シルビア!
おまえさんに渡されたスープも飲めたし、吐いてもいない。
ポルタ坊の体に異常がないか確かめてくれ。
弱ってるようなら数日頼む。」
と、俺を女医さんに差し出す。
女医さんは、首から下がった眼鏡をスッっとかけるのだが、
『えっ、上着を脱げば良いのかな…どうなの?』
と、俺がモジモジしていると、シルビアさんと呼ばれた綺麗な女性は、上から下まで俺を見ただけで、
「この子、滅茶苦茶健康よ。
とても監禁されてたとは思えないくらいに…」
と診断してから、俺に
「僕ぅ、牢屋で食事は出して貰えたの?」
と、優しく問いかける。
俺は、
「牢屋で食事の提供は一度もありませんでしたが、自前のを食べてましたので…」
とアイテムボックスからパンを1個出してみた。
すると、ボルトさんは爆笑し、
「あー、腹痛い、ポルタ、お前さん中々の役者だな、馬車の中で静かだから、てっきり衰弱してるのかと思ったぜ!」
と、楽しげだ。
俺は、
「悪いなぁ~。
食糧有りましたとは言えないなぁ~と思いながら、申し訳なくて下を向いてました。
ごめんなさい。」
と謝ると、ボルトさんは、バンバンと俺の背中を叩きながら、
「謝る事じゃねぇよ。
ポルタが一枚上手だっただけだ。
いゃぁ~、良かった!
流石はエイムズの見込んだ新人だ。」
と笑っているし、シルビアさんは、
「スープ、要らなかったわね。」
と呆れているが、俺は、
「シルビアさんの用意してくれたスープ、心に沁みました。
この国に来て初めて出合えた優しさでした。
ありがとうございます。」
と、頭を下げると、俺はシルビアさんにギュッっと抱きしめられた。
『何とは言わないが、これが幸せか…』
と思っていると、ガタ郎からも、
『旦那様…良かったでやんすね。』
と言われた。
そんな事が有りながら、現在、ボルトさんと共に王都ミルトの冒険者ギルドのギルドマスタールームに来ている。
理由は、俺の無事をクレストの街の冒険者ギルドに伝える為と、
ミルトの街の冒険者ギルドに俺を宜しくとボルトさんが言う為だ。
何だかよく解らない装置に向かって、このギルドのギルドマスター、優しそうなお爺ちゃんのクレモンズさんが、
「クレストの街、聞こえますか?
こちらは、ミルトの街のクレモンズです。」
と話すと、機械の向こうから、
「連絡、お待ちしてました。
して、どうなりました?坊主は…ポルタは?無事ですか?」
と、心配そうなマントおじちゃんの声が聞こえる。
クレモンズさんが、
「さぁ、元気な声を聞かせてやっとくれ。」
と、俺を装置の前に呼ぶので、俺は、
「マントおじちゃん、僕、大丈夫だよ。」
と、精一杯可愛らしく言うと、
エイムズさんは、
「馬鹿野郎、ギルマスと呼べと言っただろう…
無事で良かった…俺が、目をかけた若者が…ダダンに続いて、ポルタまでかと…
本当に良かった。」
と、涙声で話す。
ツッコんでくれるかとふざけてみたが、すごく気まずい…
次の言葉をどうしようか?と俺が悩んでいると、装置に向かい、ボルトさんが、
「エイムズ、心配することは無い、ポルタは中々の漢だ!
兵士に酷い目に遇わされたが、自分でしっかりと対応していた。
見上げた奴だよ。」
と報告すると、装置の向こうのエイムズさんは、
「てめぇが居ながらなんてザマだ!
無事だったのはポルタだからだ!
あと、その糞兵士に伝えておけ、ポルタに感謝しろって!!」
と怒ってくれた。
ボルトさんは、シュンとなり、
「悪かったよ…でも、何で感謝なんだ?」
と、装置に向かい首を傾げながら質問すると、エイムズさんの声が響く、
「ポルタは影の中に影アギトを飼っている。
その気になれば、見張りの兵士を全員皆殺しにして、鍵を持ってこさせる事も朝飯前だ。
ポルタが忍耐強くて良かったな!!」
と怒ってくれている。
『有難い…俺の心配をして本気でしてくれている…』
と俺が感動していると、ボルトさんは、ユックリ振り向き、消え入る声で、
「マジか…?」
と聞くと、出番とばかりにガタ郎さんが、
『マジでやんすよぉ~』
と、元気に影から飛び出し、機嫌良くガチガチとアゴを開け閉めするガタ郎さんに、完全に固まるボルトさんと、フォッフォッフォと楽しそうに笑うクレモンズさん…そして、何だか気まずい俺という、ギルドマスタールームはかなりカオスな状態だった。
そうして結局、ガイナッツの国での拠点はミルトの街の冒険者宿に決まった。
まぁ、装備の新調と、可能であればサスペンション付きの荷馬車を作ってもらい移動を楽にしたい!という目標は変わっていない。
腕の良い鍛冶師も、騎士団の鎧も担当したゴングさんという鍛冶師さんへの紹介状をギルドマスターのクレモンズさんと、騎士団長のボルトさんに書いてもらった。
少し気難しいらしいが、紹介状が二通もあれば何とかなるだろう…
この街での初仕事の前にゴングさんという鍛冶師の親方に挨拶に行こうと、クレモンズさんに教えてもらったメモを頼りに街の外れの鍛冶工房に来たのだが、何とも活気が無い工房だ…
「ごめんくださぁーい」
と声をかけるが、返事はない…
「留守かな?」
とも思うが、建物内が少し温かい
「鍛冶仕事をしてるのかな?」
と思い引き続き、
「ごめんくださぁーいっ!!」
と叫ぶと、奥でもぞもぞ動く影が見える。
そして、
「るっせーぞ!こっちは今寝たとこだ!用があるなら一昨日来やがれ!!」
と、ご機嫌斜めな爺さんが現れた。
また、キャラの濃い爺さんが出て来たな…と思いながら、
「起こして申し訳ありません。」
と頭を下げると、
「坊主、謝るぐらいなら帰んな!」
と髭面の爺さんがハンマー片手に俺にボヤく。
俺は、二通の紹介状を爺さんに渡すと、爺さんは紹介状の中身に目を通して、
「けっ、また鎧の注文か!
ワシは、世界が驚くような大発明がしたいんだ。
金を稼ぐ為にやった仕事で名が売れちまって、ずっと鎧の仕事ばかりだ…」
とブツブツ言いながら俺の体を触って、
「坊主に鎧をこしらえても、数年で装備出来なくなる…どうしてもなら成長仕切ってから来な、
その時、ワシが生きていたらもう一度話を聞いてやろう。
クレモンズに宜しくな。
あと、騎士団のボルトの奴には、修理くらいで持ってくるなと言っておけ…じゃあな。」
と、けだるそうに工房に消えてゆく…相手にされなかった俺は、少しムキなり、
「なーんだ、街一番の名工は、客を選ぶのは仕方ないにしても、客の話も聞かない頭の硬い爺さんだとは…」
と言ったら、
「何を!?」
と肩をいからせて近付く髭面爺さんに、俺は、続けて、
「こんなカチカチ頭では、俺の考えた揺れにくい馬車のアイデアを教えても実現も出来ないだろうから、他の鍛冶屋さんを巡るかな…」
と、わざとらしく帰ろうとすると、爺さんは、
「坊主、話をしよう…
おじちゃん寝起きでちょっと機嫌が悪かったようだ…ごめんね…怖かった?」
と、ドンドン腰が低くなる爺さんに、
『なんでやんすか?この爺さん…』
と、ガタ郎さんですら引く程の変わり身の早さである。
髭面の爺さんは、
「外は寒いだろ?さぁ、入って暖ったまりながら、馬車の話をしよう。」
と、嫌らしい笑顔で話す。
『怖い…』と俺は思いながらも、
「いえいえ、お構い無く、他の鍛冶屋さんに急ぎますので…」
と、わざと大袈裟に帰ろうとすると、爺さんは、
「ワシがこんなに頼んで居るのにか?」
と、キレだした。
しかし、俺が、
「何を言ってる爺さん!てめぇは、一度たりとも頼む言葉を口にしていない!
てめぇが客を選べる様に、客もてめぇに頼むかを選べるんだ。」
と言ってやったら
「ぐぬぬぅ。」 と、唸ったのちにシュンっとなって、
「すまなんだ…確かに、客に対して失礼だった…」
と言い出した。
あまりの爺さんの感情のジェットコースター具合に、
『爺さんの情緒が心配でやんす。』
とガタ郎が心配し始めている…
爺さんは、
「じゃあ、達者でな」
と、俺を見送る爺さんに、俺は近づきスッと手を出して、
「ポルタです。
宜しくお願いします、ゴングさん。」
と、握手を求めた。
それから爺さんの工房で、中学の時に車好きの技術の先生から習ったサスペンションの授業を思い出して、爺さん相手に板バネサスペンションや、ついでにタイヤ1つずつバラバラに動くバネのサスペンションの話を図を交えて説明してやると、
「少し待っとれ!」
と言って工房の奥に消えて、カンカン・ガンガンと何かを作っている。
俺は、手持ち無沙汰に成って辺りを見ると、訳の解らない発明品がゴロゴロしているのに気がつき、それらを見て回る。
爺さんは鍛冶のセンスは有るかも知れないが、発明には向いて無いのかな?…と思える何だかガチャガチャした物を眺めていると。
工房の奥から、
「おぉ、凄い!
えっ、嘘…やだ…ナニコレ!」
と、聞こえてくる…
『マジでナニやってるんだ?あの爺さん…』
と俺まで引いてしまっているが、暫くして静かになった工房から、ドタドタと爺さんが帰って来て、
ズザザァー!と滑り込み、その勢いのまま土下座をしている。
見事な勢いと綺麗な形のスライディング土下座だ…と感心していると、
「頼むポルタ殿!この技術の特許にワシの名前も記して欲しい。」
とお願いされた。
俺が、
「何言ってるんです?」
と、いうと、
「やっぱり駄目かのう?」
と悲しそうなゴングさんに、
「共同開発どころか、〈ゴング式・衝撃吸収システム〉でも構わないよ。」
と、答える俺に、
「本当?本当に本当!?」
と、迫る爺さん…
だって、個人用の揺れない荷馬車が作って貰えれば目標達成なのだから別に構わない。
「本当に本当ですけど…」
との俺の返事を聞くと、ゴングさんは、
「早速行くぞ!」
と言って俺を連れて何処かに向かう…
いや、馬車もだけど、防具も何とかしたいのだけど…と思う俺だったが、しかし、鼻息の荒いゴングの爺さんは止まらなかった。
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