第16話 クレストからの旅立ち
あのあと、ニールさんに二つのスキルスクロールを鑑定してもらった。
一つは、生活魔法のライトという冒険者に人気の生活魔法で、その名の通り、光の珠を出したり、杖等の武器に付与すると松明のように使える優れものだ。
そして、もう一つは跳躍というジャンプが高くなるスキルでかなり地味だ…しかし、地味だが、冒険には役に立ちそうではある。
心の中で、魔法系スキルスクロールの確率が良いダンジョンだから、炎魔法とか覚えて、ボカァーン!と出来るかな?と、少し期待していたが…ざんねん…
まぁ、便利そうなので俺は両方取得したんだけどね。
スキルを取得したあとで、ニールさんに、
「クレストの街を出ます。」
と、告げると、彼はまた、テーブルに頭を擦り付け始めた。
いやいや、ニールさんのせいではないから…と焦るが、ニールさんはオデコとテーブルのディープキスを止めてくれない。
そして、オデコをゴリゴリしながら、
「私が至らないばっかりに…」
と、涙ながらに謝罪するニールさんをなだめるのが大変だったのだが、俺が、
「他の国も見て回りたいし、そろそろ防具も新調したいから…」
と言ったら、ニールさんは、何かを思いついたようで、
「3日…3日私に時間を下さい!」
と、言い残して急いで帰って行った。
まぁ、ゴリゴリを止めてくれたし、3日ぐらい構わないけど…
ー そして、3日後 ー
ニールさんがまた宿の部屋にやって来て、
「ポルタさんの力になりたくて、方々駆け回ってきました。」
と告げて、鍛治の盛んなガイナッツ王国という小さな国と、その国のモンドール伯爵領にいる腕の良い鍛治師の情報を地図で説明してくれた。
しかも、そのモンドール伯爵様に宛た紹介状まで…
「これは?」
と俺が聞くと、ニールさんは、
「鉱石解る君の実演販売の時のご婦人は、実はこのアルトワの伯爵婦人でして…
ポルタさんのファンに成ったが、あの日以来現れないポルタさんを探して、
(あの職員さんは何処にいるの?)
と店に問い合わせがありまして、今回の不祥事と合わせて事情を話しましたら、ガイナッツなら少々顔が利きますのでこれをと…」
紹介状の出所を教えてくれたが、
『やっぱり、あの奥様はお貴族様だったか…粗相な事してないよね…俺?』
と少し焦ったが、ファンに成ってくれたらしいからセーフだったのかな?
まぁ、お貴族様との接点など無かったから、後から聞けて良かったよ…もしも、先に知ってたら、緊張で固まってたと思う。
俺は、ありがたく紹介状を受け取り、
「ニールさん、くれぐれもあのご婦人に宜しくとお伝え下さい。」
とお願いすると、ニールさんは続けて、
「こちらは、店長と私からです。」
と言って二つのスキルスクロールを俺に渡してくれた。
ニールさんは、
「こちらは鉱物資源感知というスキルとアイテムボックスのスキルです。」
と、教えてくれたが…
『えっ、アイテムボックスって滅茶苦茶お高いスキルだよね?』
と驚く俺は、
「こんな、高いスキル…良いんですか?」
と聞くとニールさんは、
「ポルタさんにして頂いた恩に比べたら安いものです。
また、ダンジョンでスキルスクロールを手に入れたら、アイテムボックスに入れてみて下さい。
名前だけならば判別出来る筈です。
(この度は私共の職員が大変失礼をしました。)と、店長から伝言を預かっておりますので、」
と話してくれた。
そして、ニールさんは、
「鉱物資源感知スキルで示された場所を掘ってアイテムボックスに入れれば自動で、土と鉱物資源に分けてくれますので。」
と教えてくれた。
『なんと便利なスキルを…』
と俺がビックリしていると、ニールさんは、
「これで、良い装備を作って、早めに戻って来て下さいね。」
と涙を流してくれた。
泣いてくれるのか…嬉しいな…と、この世界で初めて旅立つ事を涙で見送られる事に幸せを感じていた。
あとは、ギルマスや夢の狩人の皆さんに挨拶まわりをしてから出発するのだが、ギルマスは、
「装備が整えばすぐ帰って来るんだろ?」
と、少し残念そうだったが、夢の狩人の皆さんは、
「そうか、それでこそ冒険者だ。
世の中は広いぞ、綺麗な景色に、強い奴、可愛いネェチャンに、新しい出会い…旅は良いぞぉ~!
よし、ポルタの新しい門出に乾杯だ!」
と俺を笑顔で送り出してくれたが…お酒が進むにつれて、ポロリと涙をながして、
「体に気を付けろよ…」
と、俺の背中をトンと叩いたあとは、無言でしばらく飲んでいた。
そして、冒険者ギルドの宿も引き払い、ガイナッツ方面の乗り合い馬車に乗りクレストの街を出る事に成った。
こちらに生まれて初めて、誰かに見送られての旅立ちかも知れないな…などと思いながら、見送りに来てくれたニールさんや夢の狩人の皆さんに手を振りながら、馬車に揺られて街を出ていく…
役一年お世話に成った街に別れを告げて旅立つ寂しさと、新たな場所を目指す期待にも馬車以上に揺れ動く気持のまま、馬車から小さくなるクレストの街を眺めていた。
クレストの街から約1ヶ月、少し雪がちらつく年の瀬に、何台か馬車を乗り継いで、やっとガイナッツ王国のモンドールの町に到着した。
入り口で門兵さんに身分証の提示をお願いされたので、ギルドカードを見せると、
子供で冒険者はまだ解るが、ついでに商人のカードも所持しているのは怪しいと疑われ、別室へ…
俺は咄嗟に紹介状の存在を思い出して、追加で提出すると、更に疑われた…
「誰から盗んだ?」
と、兵士の野郎に詰め寄られ現在絶賛取り調べ中です…
とても感じの悪い兵士さんが、
「いい加減楽になれ…田舎の母ちゃんも泣いているぞ…」
と肩に手を置き、グイッと圧力をかける。
いい加減ムカムカはしているが、当面楽になれそうにない…
「他に報告する事も有りませんし、
孤児院育ちで親の顔すら知りませんが?」
と、言ったら、
「親の愛も知らない孤児だから、物を盗んでも心が痛まないんだな…」
と、何とも失礼な事を言われた。
そして、遂に、俺の意見は何一つ聞いて貰えず、前世も合わせて、初となる牢屋に入る事と成ってしまった。
影の中でガタ郎が
『あんにゃろめ、旦那様に、失礼過ぎるでやんす!
今から飛んで行って首チョンパしてやるでやんすっ!!』
と興奮しているので、俺は、
『ガタ郎、ありがとう。
でも、これ以上問題を大きくしたくないから我慢してくれ…』
と心の中でガタ郎に語りかけた。
ガタ郎は渋々了解してくれたが、どうせ首チョンパするなら、俺が直接したいくらいだったのは云うまでもない!
そして現在、牢屋の中で横になりながら、アイテムボックスに入れていたパンを取り出して噛っている。
来る途中の町で買ったパンがこんなところで役に立つとは…マジックバッグになら肉料理など色々入っているが、装備と合わせて没収され、気まぐれでアイテムボックスを使ってみたくて放り込んだパンが二つ有るだけだ…
それにしても、捕まえたやつに飯も出さないつもりかなこの国は?と思っていたら、牢屋の外が騒がしい、
「兵士長、流石に酷すぎます。
食事を与えないなんて…」
と、誰かが怒っているようだ。
すると、今朝の腹の立つ兵士の声で、
「あんな孤児院出の小悪党は、腹が減ったらペラペラと白状するんだよ!
兵士長の俺様に意見するのか?
良い度胸だな!」
と、聞こえる。
『最悪だ…アイツ終わってんな…。』
と、心の中で呟く俺に、ガタ郎も影の中で半分呆れながら、
『今からでも遅くないでやんすよ。
あの、ムカく奴だけでも首チョンパするべきでやんすよ。』
と、言っている。
騒がしい外の会話を聞いて、もう真面目に捕まっているのもアホ臭くなってきた俺は、
『ガタ郎、頼みがあるんだけど、』
というと、
『首チョンパでやんすか?』
とワクワクしだすガタ郞さんに、
『いやいや、そこのテーブルのマジックバッグを取ってきて。』
と頼み、マジックバッグから食糧をアイテムボックスに移し替えてから、再びガタ郎に、バッグを元の位置に返してもらい知らぬ顔で牢屋生活をエンジョイすることにした。
多分、アイツはご飯をくれそうにないし、俺の身元確認なんて、片道1ヶ月の距離…最悪2ヶ月かかるかもしれない。
正直マジックバッグの中の食糧で2ヶ月はキツいが、行けるところまで我慢してやる…と思っていた5日後にドタドタと人が雪崩れ込んできた。
「クレストのエイムズのギルドから来た冒険者はどいつだ?」
と言いながらムッキムキのオッサンが入って来たのだが、クレストから来たけど…エイムズって誰だっけ?…探されているのは俺で良いのかな?と、俺は少し自信無く手を上げて、
「はい、クレストから来ましたが、エイムズさんって名前は、聞いたような、聞いて無いような…」
というと、ムキムキのオッサンは、
「えっ、知らないのか?ギルマスだぞ!」
と、驚く。
俺は、
「あぁ、たしかそんな名前だったな、あのマントのオッサン…」
と、思い出すと、ムキムキのオッサンは、急にガッハッハと笑い、
「そうそう、ダサいマントのオッサンだ。
間違いない、すぐに出して貰おうか?」
と、感じの悪い兵士に言うと奴は、
「まだ、取り調べが…」
などと騒いでいるが、ムキムキのオッサンは、
「うっせぇ、汚い口を閉じろ!
てめぇが、ろくに調べもせずに罪もない冒険者を監禁してるのは知っている。
これまでの罪人も、食事を与えずに、飢えさせて、食事と引き換えに罪を認めさせ、有りもしない手柄を立てて来たことは調べがついている!恥を知れ小悪党が!!」
と、怒鳴る。
ムキムキのオッサンの合図で、感じの悪い兵士は揃いの鎧の騎士に取り押さえられて、続け様にムキムキのオッサンは、一緒に入って来た身なりの良いオッサンに、
「てめぇも、てめぇだ!モンドール伯爵さんよぉ?!
他国とは言え、同じ帝国の伯爵婦人からの紹介状が有りながら、なぜ直ぐに自ら確かめに来なかった!」
と、ガチおこだ。
『あのアホそうなオッサンが、モンドール伯爵かぁ…』
と俺が眺めていると、アホそうなオッサンは、
「いゃぁ~、父上が亡くなってしまって、アルトワ王国に嫁いだローゼッタおば様の紋章も文字も本物か判断できなかったのだ…」
と言い訳している。
カッコ悪いアホのオッサンに向けて、
「てめぇみてーに、昔から人のせいにばかりして…手紙を読んで、自分で何とかしようと何故しない?!
てめぇに、昔のダチが目にかけている有望な新人を任せる訳にはいかねぇ!
この件はガイナッツ王国第一騎士団が預かる。
いいな!!
てめぇは、おば様とやらに詫び状でも書いておけ!
正式なルートで抗議されたら外交問題だぞ?!
伯爵名義で紹介状を書いたのに、投獄されたとあれば、先方の伯爵様を馬鹿にしたも同然…てめぇ自身も処分が有るから覚悟しておけ!
あーあ、先代の親父さんは出来るお方だったのに…」
と言って、ため息をつくムキムキのオッサンに連れられて馬車に乗せられドナドナされる俺だが、ムキムキのオッサンが馬車の中で具の無いスープを渡してきて、
「よく頑張った、坊主
モンドールの所の兵士が1人、俺の騎士団に報告してくれてな…クレストの街の冒険者ギルドに、王都の冒険者ギルドから通信魔道具で確認したら、身元はすぐにわかったというのに、奴らは…
坊主ユックリ飲めよ、5日も飲まず食わずでよく耐えた。
急に飲んだら胃が受け付け無くて吐いちまうからな…」
と心配してくれるが…
『ワザワザ、スープを用意してまで迎えに来てくれたのか…』
と、思うと『結構しっかり食べてました。』とは言い難い…
俺はかなり気まずくて、黙ったまま馬車に揺られるのだった。
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