第15話 マリーの願いと俺の決意
お金はマリー達が生産し、オーナーが販路に乗せた蜂蜜の代金だった。
マリー達はビックハニービーというキウイフルーツ程もある蜜蜂を使役する事ができる能力を有する。
そしてマリー達はその蜂蜜を狙う魔物などをビックハニービーの巣に集めて返り討ちにし、その魔物を食べるトラップ・ハニービーなのだが、結果的に魔物から巣を守ってもらったビックハニービー達から蜂蜜が贈られるらしい。
本来ならは、その蜂蜜はただの餌としてマリー達仲間で食べるのだが、なんと、俺の為になんとかしたいと、ご近所になった果樹園のオーナーに相談した結果がコレになったみたいだ。
果樹園を荒らす魔物退治にもマリー達が役立っていることもあり、快く蜂蜜の出荷の段取りと販路を作ってくれたらしい。
蜂蜜の販売用の壺等はオーナーが用意してくれて、一度周辺に売ったら、反響が大きく、このペースなら、一年に何度か出荷出来る予定なので果樹園と同じ位の収益を上げる計算になると報告を受けた。
食卓に乗せれるサイズの壺に入った蜂蜜で、大銀貨2枚ほど…
現在、ビックハニービーが困らない程度の蓄えを残した余剰分ですら壺百杯以上、まだまだビックハニービーの巣も大きくなり、数も増える。
「これからどうするのがよいか?」
とオーナーから相談を受けたのだが、マリー達は俺のお小遣いくらいに思っているらしいが、金額が金額だし…
それに、オーナーさん達の協力があればこそである。
俺は考えた結果、販売用の壺の購入金と、蜂蜜を絞り小分けにする職員さん賃金を抜いた儲けをオーナーとマリー達で折半してもらうことにした。
それではオーナーが、
「我々が貰いすぎだ」
と言うので、俺は、
「今から各国を旅する予定ですが、マリー達を連れて大移動をするわけにはいきません…
なので、オーナーにお願いが有ります。
マリー達の事をお願いしたいのです。
今は、山で自由に巣を作っていますが、誰でも入れる場所では、いつ蜂蜜を狙った人間を返り討ちにしてしまい、討伐対象になるかも知れません…なので、マリー達の取り分で近くの山を購入して欲しいのです。」
とお願いすると、オーナーさんは、
「よし、了解した。
経費と人件費を、抜いた上がりを折半し、半分はマリーちゃんの山の購入代金とします。
もう半分を折半して、
半分は、娘のポプラの一家が、蜂蜜販売の管理費として、そしてもう半分をポルタ君に、マリーちゃんの達の協力に対する対価として、商業ギルドでポルタ君に口座を作ってもらって振り込む…それならば手を打ちますが、どうします?」
と俺たちの取り分を上げてくれた。
俺が、
「良いんですか?」
と聞いたら、オーナーは、
「果樹園の従業員の臨時収入にもなり、
果物の受粉はビックハニービー達が、そして警備はマリーちゃん達が魔物を倒してくれるし、それに、娘婿が蜂蜜の担当として今、ヤル気になっているし良いことばかりだ。
それなのに、マリーちゃんの1番の願いの、ご主人様の為に稼ぎたいって気持ちを無視出来ないよ。
お望みならば、警備費用としてもっと出しますが?」
と言ってくれた。
俺は、
「では、それでお願いします。」
とオーナー達に頭を下げ、そしてマリーに、
「ありがとう、マリー、皆で住める山を買ってゆっくり暮らせるね。」
というとマリーは、
「そうですわ陛下、私達が陛下の戻る場所を作りますわ。
ポプラさん山が買えたら、見晴らしの良い場所に家を建てて欲しいのですわ。
我々と陛下の愛の巣ですわ!」
と俺にまた抱きついてきた。
今回はブレイブハートは発動せず、それどころか、マリーが俺の為に頑張ってくれた事を知って、自然に頭を撫でていた…
マリーは嬉しそうにしていて、ガタ郎は、影の中から
『贔屓でやんす!』
とブー垂れている。
はいはい、ガタ郎さんはまた今度ね…いざとなったらブレイブハートがあるし…100%虫のガタ郎さんもナデナデしてやれる筈だ。
という事で、この地で暮らすマリー達の窓口として、ポプラさんと、現在蜂蜜を運搬中の旦那さんが就いてくれて、定期的にマリー達からの仕送りが貰える様になった。
マリーは、
「向こうの山まで全部買って、陛下の国を作りますわ!」
と、やる気を出している。
「いやいや、皆が安心して暮らせる程度で良いからね。」
と、俺は言ったのだが、マリーは
「はい、安心できる広大な土地に、城を建てて陛下のお戻りを待ちますわ!」
と言っている。
ポプラさんが、
「マリーちゃん達だったら出来るわ。
何年かかっても一緒に頑張りましょうね。
お城は管理が大変かも知れないから、頑丈な家にしましょう。
その代わりに、庭にはお花畑のある素敵なお家に…ね。」
と、ナイスな軌道修正してくれた。
『ありがとうございますポプラさん。』
と、俺は心の中で感謝を伝え、ポプラさんに任せておいたら大丈夫だな…と確信した。
オーナーさんは、早速お金を分配し、俺に小金貨五枚を渡しながら、
「ポルタくん、旅をするのも若い内は良いけど、早めに帰って来ないと、本当に安い山を買い占めて国が出来てしまうぞ。」
と、笑っていた。
マリー達は蜂蜜販売のお仕事を手にいれたし、ご近所とも上手にやっていけそうで安心した。
これで、心置きなく引っ越しできるな…
マリー達のおかげで、不労所得が入る事になって、商業ギルドに登録して口座も開いた。
俺は今、Dランク冒険者とFランク商人の蜂蜜農家という二足のワラジを履いているが、片足は完全自動歩行ワラジである。
そして、商業ギルドの通帳もギルドカード方式で、帝国全土で出入金が可能だったので、これで、どこに行っても大丈夫なのだが、困った事に別に行く宛もない…
一度くらいは、この沢山の国々をまとめている帝国の都に行ってはみたいが、ここから馬車で約1ヶ月、腰の痛みに耐えながら過ごす自信がない。
しかし、ダンジョンが盛んで、まともにダンジョンにソロが潜れないうえに、頼みの綱のダンジョンショップがまともに使えなくなったアルトワ王国からは出るつもりだ。
だけど…馬車旅がねぇ…
サスペンションが入った馬車は無いもんかね?
ん?!…無かったら作ればいいのか!?
うーん…でも、馬車を作ってもらうのにもお金がかかるし、何より、そんなワガママな注文を聞いてくれる鍛治師さんにも心当たりが無い…と、積んでは崩しを繰り返しながら考えて、結局、
『鍛治が盛んな国に行くのが良いのかな…?』
との結果になった。
正直、馬車よりも冒険で少しくたびれてきた装備を新調したいくらいだが…
ヨシ、鍛治の盛んな国に拠点を移して、成長に合わせた装備を作って貰うのが第一目標で、仲良くなった鍛治さんがいたら馬車の相談でもするかな…?
何しろ、サスペンションの理屈は解るが、この世界の技術で作れるかは解らない。
まぁ、こんな防具とか作れるから大丈夫とは思うが…
ガタ郎さんが樹液タイムから帰って来たらクレストの街の図書館にでも行って近隣の情報を調べるかな?
ギルドの資料室より詳しい情報が有るだろうからね。
と思いながら、ギルドの宿屋でのんびりしていると、コンコンコンと俺の部屋の扉がノックされた。
?ガタ郎ならば空いている窓から入ってくるし…誰だろう?と思いながら、
「はい。」
と返事をすると、
「ポルタ様、先日のお詫びに参りました…」
と元気の無いニールさんの声が聞こえた。
入り口のドアを開けると、ほぼ二つ折れのニールさんの背中が見えている。
俺が、
「どうしたんですか?
とりあえず、話し難いので顔を上げてくれませんか?」
とお願いしたら、ニールさんは、ソーッと顔を上げてから、
「大変申し訳ありませんでした。」
と再び折り畳まれた。
『体、柔らかいな…』
と感心してしまうが、話が進まない。
俺は、少し呆れながら、
「だから、ニールさん…話し難いから頭を上げてくださいって。」
とお願いすると、ようやくニールさんはお話モードに成ってくれた。
部屋に招いてテーブルに案内したのだが、椅子に腰かけるなりニールさんは、
「この度は、私共の買い取り窓口職員が大変失礼を致しました。」
とテーブルに頭を擦り付けている…
『もう、注意するのも面倒臭い…そのままでいくか?』
と、一旦放置してみたのだが、それからもニールさんはテーブルにおでこを擦りつけたまま、
「ポルタ様を見かけた職員が興奮し、担当を巡り争った事を後から聞かされ、大変恥ずかしく、また涙の出る思いでございました。
日頃の恩を仇で返してしまい、どうお詫びをすれば良いかと…
窓口の職員は、ポルタさまのお気の済むように、退職でも何でもさせる準備が店長と出来ております。」
と言っている。
俺は慌てて、
「おいおい、ニールさん!穏やかじゃないよ、退職とか止めてあげてよ。」
というが、ニールさんは、
「如何様な処分でも!」
と相変わらずテーブルにおでこを擦りつけている。
もう、そういう趣味なのかな?と、思うくらい顔を上げないニールさんに、
「じゃあ、窓口女性職員さんには向こう1ヶ月ダンジョンショップ内のトイレ掃除業務追加と、今回、あの職員さん達を現場で止めなかった上司や他の窓口の職員さんも合わせて、ダンジョンショップ周りの道の清掃作業などの奉仕活動一回!
以上です。」
と処分をお願いした。
ニールさんは、やっと顔を上げて、
「それだけで…?」
と、質問してくるのだが、俺はニールさんの真っ赤になったオデコを見ながら、
「鑑定して欲しかったのが駄目になったくらいで、退職とかは変でしょ?
でも、次からは無いように指導はして下さい!
はい、おしまい。」
と、俺が言うと、ニールさんはやっとホッとした様で、表情が和らいだ。
「寛大な処分、ありがとうございます。」
とまたオデコをテーブルに擦り付けそうだったので、
「オデコ、真っ赤ですからもう擦りつけないでください。」
と、先に注意すると、ニールさんはテーブルにあと1センチの所で止まり、ユックリと起き上がった。
気まずそうに笑うニールさんと目が合うと、何だか変な感じがして、俺はプッっと吹き出してしまった。
それから二人で笑い合っていたら、いつの間にか空いてる窓から帰って来ていたらしいガタ郎が影の中から、
『二人してヤバいキノコでも食べたでやんすか?』
と心配していた。
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