第14話 上手く行かない
実演販売ゴッコで鉱物資源鑑定メガネを売り切りてしまったので、店長さんの計らいで、魔法攻撃を弱めるフード付きマントを格安で譲ってもらった俺は、現在魔法ダンジョンに潜って、狩りをしている。
この、魔法ダンジョンの正式名称〈イルデダンジョン〉で、魔法を使う魔物がうろつき、魔物素材のドロップと合わせて、宝箱のドロップ率が他より多いダンジョンである。
ノーマルの宝箱だったらマジックポーションなどで、レアの宝箱なら魔法のスクロールやマジックバッグと夢のあるダンジョンなのだ。
基本、魔法を撃つ敵だと想定して、〈索敵〉と〈ターゲット〉による弓攻撃を主体で敵を倒して行く。
途中、ガタ郎が見晴らしの良い森エリアで樹液タイムの片手間にデカい鳥の魔物の首を噛み切り、倒している。
俺は〈パシュン〉と消えて出てきた、ドロップ品を集めて回ったりしながら、ガタ郎の樹液タイムに付き合い、ガタ郎さんは、鼻歌混じりにご機嫌な様子で、
『はい、首チョンパでやんすぅ~、フフッフゥーん。』
と魔物を倒しながら飛び回り、色々な木の樹液を摘まみ食いしている。
ひとしきり樹液を楽しむと、俺の影にチャプンと潜り、
『ご馳走さまでやんす。』
と満足そうだ。
そんなこんなで、5階層までやって来てのだが、ここまで、
土魔法〈ストーンバレット〉?を撃つ大ミミズや、
水魔法〈アクアショット〉?を撃つカエルなど…多分魔法なのだが、使い手の能力が低く、小石がペチっ、水鉄砲パシャみたいな微妙な威力の魔法を放つキモい魔物が多い。
強敵だったのが、風魔法〈エアカッター〉?を使う〈カマキリ〉だ…
少し痛い程度の風魔法を二回程度飛ばすが、魔力が少なくなったら接近戦に切り替える。
デカくてグロい…カサカサ近寄る俺ぐらいの背丈のカマキリに、
『勘弁してくれ』と心底思った瞬間に体が温かい何かに包まれた気がした。
多分、ブレイブハートのスキルが発動したのだろう。
上層階のモブキャラにさえ、土壇場の逆転スキルであるブレイブハートが発動する俺…恥ずかし過ぎる…
そして、ついでに解った事がある。
純粋なダンジョン産の魔物は、何かに操られて要るのか?、又は、元々なのか?…
たとえ虫魔物であっても俺に話しかけて来ないし、ガタ郎も、
『アイツら何言ってるのか解らないでやんす』
と言っていた。
つまりダンジョンの魔物はテイム対象外らしい。
ちなみに、ガタ郎はお肉ダンジョンに外から冬越しの為に入り込んだ、モグリの虫だったからテイムできたようだ。
『なんとも不思議だ…』
それと、もう1つ不思議なのが、このダンジョン、宝箱のドロップ率が凄い。
確かに、多いとは聞いていたが、
既にマジックポーションが三本とスキルスクロールが一枚…ただ俺にアイテム鑑定スキルなど無いので何のスクロールか解らない。
まぁ、出てきてくれただけでありがたい…装備している幸運の腕輪の効果もあるのかな?などと考えながら中間のセーフティーエリア迄ついたのだ。
このダンジョンも、お肉ダンジョンと同じで、下に行けば行くほど良いものがドロップする可能性が有るので、冒険者達は割の良い階層を目指して、10階層のボスを倒してメダルを手にしてから11階層から下で狩りをして、
帰りはまた10階層のボスを倒してメダルを手にしてから帰る、みたいな利用の冒険者が多い…なので今回は俺もボスまで頑張ってみようと決めて潜っている。
セーフティーエリアで休憩をとって食事をしていると、先に下の6階層に向かう十代の冒険者組が
「これより下の階層の魔物は一度に使える魔力量が上がるから、魔法の威力も強くなる!
気を引き締めろと先生が言っておられた。
皆も十分注意して確実に進もう!」
と気合いを入れてから降りて行った。
『そうか、同じ魔法でも一度に使える魔力量の差で威力が変わるのか…
ミミズ君は何発も小石を飛ばしたのは一度に使える魔力量が少ないからで、そこそこ痛い風魔法のカマキリは、魔力を沢山使ったから2発程度で打ち止めになり接近戦に成ったのか…』
と、納得しながら、マジックバッグのおかげで、まだホカホカのランチを済ませ、俺も下の階層に降りていく。
本来であれば、中間のセーフティーエリアを拠点に上や下の階層で狩りをするのだが、今回は攻略を頑張るつもりなので、とりあえず10階層のボス部屋を目指す。
流石に50階層あるこのダンジョンの完全踏破は無理だが、せめて10階層のボスくらいは倒したい…
俺は少し緊張しながらも、初めてとなる6階層に足を踏み入れると、そこは岩場のひらけたエリアだった。
俺の索敵スキルに引っかかる魔物の赤い点はあるが、数自体は多くない…多分、先ほどの十代パーティーが頑張った後だからだろう。
俺は内心感謝しながら、残された獲物を狩りながら進む。
このエリアの敵魔物の魔法は、カマキリレベルのちょっと痛い程度に上がったのみで、この階層は特に問題は無いようだ。
敵も適度に間引かれていて進み易い…しかし、ランダムで配置される宝箱は期待出来そうに無いが…まぁ、その分敵からの宝箱ドロップが多いので我慢だ。
炎魔法を打ち出す花の魔物…名前は知らないが、マリオのアレみたいな奴から、またスキルスクロールを手に入れた俺は、上機嫌で突き進む。
『普通に虫魔物が出なければ最高なダンジョンなのに…』
そして、時間は過ぎる…
皆様こんにちは、いかがお過ごしでしょうか?
俺は、今、ギルド酒場で女将オススメのアタックボアの野菜炒めを頬張っております。
魔法ダンジョンは、正直心折れて帰って来ました…
何故なら、ボス部屋前には、ずらりとテントが並び、ボスのリポップ待ちをしていたのだ。
一組6時間としても、四組で1日…見た限り少なくとも10日近く待つ羽目になる計算に青ざめ、順番待ちをしている先輩から、
「10階層が1番酷くて、下に一回でも行けたらマシになるら…」
と言われたが、そんなに、ここでのんびりしても仕方ない…
別に、このダンジョンで生計を立てる訳では無いから!と、開きっぱなしのボス部屋をスルーして、11階層に降りると、
索敵をかけても赤い点が出ない…
なぜなら、先客の冒険者達が全滅させて、現在休憩中だからだ。
普通の敵は約二時間サイクル、狩っては二時間休む…を繰り返す、お仕事現場の様な狩場に新参者が入る隙は無い…
10階層辺りは工場作業の様な場所になっており、冒険者的なまともに狩りをするなら、20階層30階層と潜らないと駄目らしいが、そんな階層の敵は強すぎる。
新人の中にはしびれを切らして下を目指すと、全て倒された階層を素通りする為に、敵の強さも解らず。
進んだ先でやっと遭遇した敵は強すぎて返り討ち…なんて、冒険者がゴロゴロ居るらしい。
マジでアホ臭いから10階層の転移陣で地上に戻った…という訳で、野菜炒めをやけ食いして宿に戻る事にしたのだ。
素材は買い取って貰えたが、大銀貨五枚程度…魔法防御のあるマントを買って挑んだので、正直赤字である。
まぁ、すぐに嫌になって帰って来た俺も悪いが、小金貨三枚のマントを買って、大銀貨五枚では駄目なのよ…
換金していないマジックポーションと、何だか解らないスキルスクロールがあるけど…
宿で寝る前に、ダンジョンショップで、スクロールの鑑定して貰おうと、トボトボと歩いてきたダンジョンショップにはダンジョンアイテムの買い取り窓口があり、鑑定だけでも一点につき大銅貨三枚で見てくれるし、鑑定してもらった後に買い取りも可能である。
窓口に並び順番を待っていると、前に人が居ないのになかなか呼ばれない…
それに、同時に空いたカウンターの女性二人が何やら揉めて居るようで、俺の後ろで並ぶオッサンが、
「早くしろよ!」
とイライラしているが、揉めている職員の二人は、
「人生がかかっているのっ!」
と言い返している。
更に空いた三人目の男性職員さんが、「次の方」と俺を呼ぶと、揉めていた二人が男性職員さんに詰めより、
「何抜け駆けしてるのよ!あんたも出世狙い?」
と言っている…
『まさか俺が原因か?』
前では職員が…後ろではお客が、険悪なムードになる。
たまらず列を離れて立ち去る俺の背中に、
「あっ、ちょっと!それはズルい!!」
と女性職員の言葉を受けるが、俺は立ち止まらずに宿に向かう。
ニールさんの出世話が大きく成った弊害か…ダンジョンショップの中だけの俺の福の神扱いが巻き起こしたイザコザにうんざりしながら、
『もう、帰って寝よう…』
と、しょんぼりしつつも呆れて宿に戻った。
ー翌日ー
何かヤル気が出ないが、宿でゴロゴロするのも嫌ななので、クエストボードを眺める…
魔物が活発に活動する季節を前に、今はBランクなどの上位者用のクエストが並び、
Cランクの依頼はパラパラとある程度で、Dランクの依頼は壊滅的だ。
『だから皆ダンジョンに集合してたのか…』
と、納得とガッカリが同時に俺に訪れた。
『この街も変わっちまったなぁ、住み難くなった…拠点を移すか…?』
と考えていたら、
『引っ越しでやんすか?では、一度マリーに会いに行って欲しいでやんす。
流石に配下に挨拶も無しで引っ越しは可哀想でやんすよ。』
とガタ郎に言われて、
『それもそうだな。』
と、マリー達に会いに行くために数日がかりで果樹園の村に歩いて向かった。
馬車を借りると、魔法ダンジョンの稼ぎが半分近く飛んでしまうので勿体ないからと、渋々歩いて向かったのだが…疲れた…
果樹園に着くと、前回より人が増えて居るようで、感じの良い女性が、
「何かご用意ですか?」
と聞いてくる。
俺が応えようとした時、
『王様ぁ~』
『パパぁ~』
『しゃちょサーン〉』等と四方から、虫感が薄れたとは言え、蜂と人間を合体させた様な虫魔物に抱きつかれた。
思わずブレイブハートが出たのは許して欲しい。
なんか、身内相手に恐怖を覚えて、ブレイブハートを漏らした事が恥ずかしい…
しかし、俺が〈漏れイブハート〉したのは気付かれて無いようで、涼しい顔で、
「皆久しぶり、マリーは居るかい?」
と俺がいうと、
『呼んでくるぅ~』
と、皆飛んで行った。
感じの良さそうな女性は驚きながらも、
「もしかして、マリーちゃんがよく話している、王様ですか?」
と聞いてきた。
俺は、
「インセクトテイマーってスキル持ちの冒険者、ポルタです。」
と名乗ると、女性は、
「あら、失礼しました。
この果樹園の娘ポプラです。」
と丁寧な挨拶をしてくれた。
「父を呼んで来ますね。」
と、いわれたが…オーナーには特に用事はないんだけど…と思いながらもしばらく待っていると、マリーが物凄いスピードで現れた。
「王よ、ご帰還を心からお喜びいたします。」
と丁寧な口調だが、俺の胸に飛び込みグリグリしてくる。
腕が四本の妖精…そう、虫っぽいビジュアルの妖精だ…と、自分に言い聞かせて、胸にすがり付くマリーに、
「元気だったかい?」
と、声をかけるとマリーは、
「はい、家族も増えて賑やかに…分家も出来て我が一族も安泰です。」
とにこやかに話すが口元は人間っぽいが、目はべっこう飴みたいに一色…髪の毛の間から伸びた触覚がアホ毛みたい…
ある意味上出来で、ある意味残念な、所々に虫感を残した姿に、よく解らない感情が芽生える。
そうこうしているとオーナーが、杖をついて現れて、
「久しぶりです。お待ちしていました。」
といってドサッっとお金の入った袋を渡してきた。
ん…なんですか?コレ…
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