第12話 強制参加
洞窟前の片付けも終了した数時間後、やっと目覚めた奥さまに、
「え~っと、Dランク冒険者のポルタと申します。
そして、隣で心配そうにしているクワガタは俺の相棒のガタ郎です。
えーっと、お名前は?」
と、当たり障りの無い所から話を始めると、奥さまは、キョロキョロと俺達と辺りを見回した後に、
「えー、行商人トークスの妻ライラと申します。
この度は、私を…わたしは…ひっく 、助かったのですよねぇぇ…っ…うぅぅぅ…」
と、泣き出してしまったのだけど、それも無理もない話である。
俺は、
「ライラさん、とりあえず、もうすぐ日が暮れますから、街に移動しましょうか。」
と促して歩き始めるのだが、布一枚でギルドまではキツいからと、依頼主の羊農家さんの家まで行き、馬車をお願いする事にした。
羊農家の女将さんは、ライラさんを見るなり慌てて、洋服を持ってきてくれ、ライラさんに貸してくれたので、彼女は何とか街を歩ける格好になったが、ご夫婦はこんなガキでは、女性のエスコートは厳しいからと気を利かせてくれた様で、羊農家の女将さんがライラさんのお世話をしてくれる事になった。
羊農家のご主人が出してくれた荷馬車に乗り、冒険者ギルドに向かい、なんとか夜までに到着して、ギルドの窓口で事情を話すと、ライラさんと羊農家のご夫婦は女性職員さんに連れられて奥の部屋に移動し、俺は別の窓口職員さんに、詳しい説明とゴブリンの討伐の証や魔石に、上位種の死体にゴブリン達が身につけていた装備、それと、巣穴で見つけた木箱を全て冒険者ギルドに提出した。
木箱は、行商の品やライラさん達の私物だったが、職員さんは、中身の確認をしながら、
「旦那さんは多分…」
と口ごもる…ゴブリンは女は拐って犯し、男は弄んで殺す。
冒険者でなくても知っている事実だ…
冒険者ポイントはかなり入ったが喜ぶ気にもならない、とても後口の悪い依頼に成ってしまった。
俺は、ギルド職員さんにライラさんの今後を聞くと、彼女はこれから教会の施設に入り、身を清めるという名目の、隔離期間を過ごし、ゴブリンの子供を宿して無いと確認出来てから解放となるらしい…
『あんな酷い目に遭って、尚過酷な…』
と、更に鬱になり、もう何だか、どっと疲れてしまい、羊農家さんに挨拶をして宿屋に帰ろうとする俺に、
「待て坊主、ヤバい事になってるから、話を聞きたい。」
と、マントを羽織ったオッサンに呼び止められた。
俺は、
「身も心もクタクタで帰って休みたいんですけど?」
と理由を告げて帰ろうとする。
しかし、マントおやじは、
「まぁ待て、話を聞いたら寝かせてやるから、ギルマスのお願いは聞くもんだぞ、坊主。」
という。
ギルマスと名乗るのマントのオッサンに、
「クタクタの子供を引き止めてまで、お聞きになりたい事とは?」
と少し嫌そうに聞くと、
「もう少し愛想良くできないのかぁ?坊主…」
と呆れているギルマスに、
「坊主でなくて、ポルタと呼んでくれたら、もう少しは愛想良くなるかもしれませんよ。」
と俺がいうと、
ギルマスは、やれやれといった仕草をしたあと、
「ポルタだな、私はここのギルドマスター、元Aランク冒険者、風魔法使いのエイムズだ。
ギルマスでも何でも呼びやすい様に呼ぶと良い。」
と自己紹介をしてくれたので、俺が、
「じゃあ、マントのおじちゃん、オイラに何の用だい?」
とアホっぽく聞くと、
「命令だ、以後ギルマスと呼ぶように。」
とギルマスに釘を刺された。
俺が観念して、
「では、ギルマスは、何を俺から聞こうと?」
と、ギルマスに質問するとギルマスは、急に真剣な顔で、
「提出したハンマーは間違いなく、ゴブリンジェネラルが所持していたんだな?」
と、静かに聞く。
俺は、
「はい、報告した通りに、ゴブリンジェネラルが巣穴から担いで現れました。」
と真面目に答えると、ギルマスは「はぁー」とため息を1つ吐いたあと、軽く目頭を押さえて、「ダダン…」と呟いた。
俺が、
「お知り合いの武器でしたか…」
と察して声をかけると、ギルマスは、
「昔、助けたガキが、俺を慕って冒険者に成ったが、CランクからBランクへの昇格を焦り、かなり無理をして、連続で依頼を大失敗し、パーティーが払う違約金を1人で肩代わりし、借金奴隷として、戦争に送られた…そんな馬鹿で、優しい漢の相棒のハンマーだ。
奴隷商人のキャラバンで北の戦地に送られたはずだが、多分キャラバンごと襲われ、男は皆殺しで、奴隷の女は苗床にされている確率が高い。
実は、ポルタの仕留めたゴブリンジェネラルとは別に、ここ数日で、3つのゴブリン集落を潰した報告が上がっているが、その全てで、ゴブリンジェネラルが群れを率いていた。
確実に馬鹿デカいゴブリンの群れが裏にいて、全てがその群れの分家だな…確実にゴブリンキングが頂点に君臨する上位種ゴロゴロのゴブリン軍団がいる…」
と、言ったギルマスが俺の肩をポンと叩き、
「という訳でDランクの冒険者ポルタをギルマス権限でCランク以上推奨のレイドへの参加を認める。」
と、高らかに宣言した。
「冗談じゃない!」
と、俺はゴネにゴネまくったのだが、ギルマスは、
「尚、ソロでゴブリンジェネラルを倒す奴を連れて行かない訳が無いからな…強制だから。
今日は休んで、明日準備したあと昼にギルド集合だから。」
と、小金貨一枚を俺に渡してきて、
「それで、弓矢とかポーションを買っておけよ。」
と、言って去っていった…
『勘弁してよ…。』
と、涙目のままマントおやじを見送る事しか出来なかった俺は翌日、強制的に冒険者複数参加のゴブリン掃討作戦に参加させられ、荷馬車に詰め込まれて、まるで出荷される家畜の気分だった。
夢の狩人の皆さんとも一緒なのが唯一の救いなぐらいで、オッサンを満載した荷馬車に揺られて、昨夜からゴブリン村を探してくれている偵察組の元に向かっている。
馬車の中で夢の狩人のメンバーから、
「ポルタ、水くさいぞ!
Cランクに上がったんなら言えや!!」
と、背中をバシバシされるが、俺が、
「いやいや、俺はまだDランクのままですよ。
マントおやじに無理やり参加させられました。」
と話すと、
「ギルマスにか?」
と驚かれたのだが、ゴブリンジェネラルのいる集落を潰したことを話したら、
「なら、仕方ねぇな…」
と納得されてしまった。
夢の狩人のリーダーさんに、
「キングも、ポルタが倒しちまいそうだな。」
と冷やかされたので、俺は、
「嫌ですよ、ゴブリンの巣穴に入るのは…俺は、外で溢れた雑魚を弓でプチプチ倒すために、弓矢を沢山買って来ましたので。」
と断固拒否した…のだが、何故だ!
現場に着いたら出入り口が複数あるゴブリンひしめく廃鉱山の一番遠くの出入り口からのアタックチームに配備された。
ギルマスに断固抗議したが、
「ソロで、ジェネラル倒せる奴は最前線に決まっている。
サブのサブぐらいの坑道で数は少ないから我慢しろ。」
と言われた…
『理不尽だ!』
まぁ、確かに、メイン坑道は双方戦争するくらいの人数が居るらしく、あの組に入れられなくて良かっとは思う。
しかし、サブ坑道も、見えてるゴブリンの数だけでも相当数いるし、良かっといえるのか?
『いやいや、後方支援が良かったに決まっているよ!』
と焦る俺の抗議も虚しく、渋々ではあるが、魔法使いのオッサンの率いる魔法主体パーティーと、斧使いの髭面のオッサンのゴリゴリ肉弾戦パーティーと一緒に、空気穴程度に掘られた非常口の様な狭い通路に突入する事になる。
前衛は斧使いパーティー、後衛は魔法使いパーティーで、間に挟まれた俺は、索敵要員だ。
正直、メインの方はもう、戦闘が始まっているらしく、騒がし音が聞こえているが、俺の索敵には100メートル程先に敵の反応があるが、その反応も10程度だ。
流石に俺でも、あまりのメイン組との敵の数の差に、少しは悪い気がしている。
皆に、
「100メートル先に敵の反応、数は10程度です。」
と報告する。
『旦那様、ちょいと見てきやしょうか?』
と影の中からガタ郎が提案してくれたので、皆に、
「従魔を偵察に行かせます。」
というと、魔法使いパーティーのリーダーが、
「えっ、少年はテイマーだったのですか?
魔物は見当たりませんが…」
と質問されたので、俺が、
「ここに居ますよ、じゃあ、偵察お願い。」
と、俺の影に入っているガタ郎に指示をだすと、影からチャポンと相棒が現れて坑道の奥を目指して移動していく。
斧使いのパーティーが
「おい、影アギトだよな…アレ…」
「恐ろしいもんをテイムしてるんだな…」
などと、怖がられたので俺は、
「ウチのガタ郎は良い子なのでご心配無く。」
と言っておいた。
それからすぐにガタ郎がカサカサと帰って、そして、俺の足元の影にチャプンと潜る。
『何で影を渡って帰って来なかったの?』
と心の中で俺が聞くと、
『旦那様の後ろの魔法使いの杖の明かりのせいでやんすよ。
それより、旦那様、ヤバいでやんすっ!
この先は大当たりで大はずれでやんす。』
と報告してくれた。
『はて?大当たりで、大はずれ?』
と、頭を傾げながら俺は、恐る恐るガタ郎に報告をお願いすると、ガタ郎の話では、この穴の出口は、この鉱山の奥の広場の上部に繋がっており、デカいゴブリンが、
「女どもを端に固めろ!」
とか、指示を出していたらしい…
『喋ったら、もう、それはキングなのよ…』
と、理解した俺が頭を抱えて、ため息をつくと、周りの冒険者たちが、何事か?と心配して聞いて来たので、俺は、
「相棒が偵察した結果、この先は鉱山の大空間の上部に繋がっていて、広場に喋るゴブリンが、女どもを端に固めろと指示を出していたそうです。」
と伝えると、周りの冒険者も頭を抱えてた。
「じゃあ、何かい?
この先は敵陣の本部で、苗床にされた女性とゴブリンキングが、側近達といると…」
と、斧使いの冒険者がボヤきながら俺を見つめる。
そして、暫く「う~ん…」と唸ったあとで、斧使いさんは、
「よう少年、この先はキングのいる部屋の上部…
つまり、キングの頭上を取れるんだな?!」
と聞く、俺の影の中からガタ郎が、
『ギルド宿の旦那様の部屋くらいの高さでやんす。』
と、追加で報告してくれたので俺が、
「ギルド宿の二階くらいの高さの位置に出るらしいです。」
と伝えると、肉弾戦チームは、
「飛び降りれない高さではないな…」
などと言い出し、魔法チームは、
「高さのアドバンテージは大きいな…」
などと言っている。
『嫌だよう…皆がヤル気だよう…
キングとやるの?側近も多分上位種だよ…』
と渋る俺の気持ちは誰にも届かなかった様だった。
読んでいただき有り難うございます。
頑張って投稿しますので応援ヨロシクお願いします。
〈評価〉や〈感想〉もお待ちしております。
皆様の応援がエネルギーに成りますので、
よろしければ是非お願い致します。




