第11話 ゴブリン集落へ
さぁ、スキルも手に入れたし、次なるお仕事に出かける事にするぞ!と、クエストボードを見上げて目ぼしいお仕事を探している。
なんと、索敵スキルが手にはいり、ターゲットというスキルで、長距離攻撃の精度が上がったみたいなので、サーチ&デストロイのような戦法が取れるが、問題は俺の弓の腕前だ。
敵を見つけて遠距離攻撃をしても当たらないのでは話にならない…
と、いうことで、今回は弓の練習も兼ねて、クレストの周辺で出来る簡単な依頼をこなしながら、冒険者ポイントもチビチビ稼ぐ予定である。
「近場でお手頃なDランク向けの…」
と、お経の様にブツブツ唱えながら探していると、
『ゴブリン集落の調査と、討伐』
という依頼の紙をクエストボードに見つけ、俺はボードに近寄り詳細を読むと、
『最近よくウチの羊の放牧場の側でゴブリンを見かけるようになりました。
アイツらは、ウチのモコモコシープをいやらしい目付きで見ています。
奴らの住み処を探して、可能ならば倒して下さい。
いつウチの可愛い娘のようなモコモコシープが拐われて〈苗床〉にされるのでは?!…と夜も眠れませんので宜しく』
と書いてあった。
この世界のゴブリンさんは、
緑色の肌で子供くらいの背丈に子供以下のオツム、デカい鼻に醜い顔で、大人並みの腕力に、並外れた性欲…そして、種族的にオスしか居らず、他の生き物のメスに自分の子供を産ませる〈種族スキル・孕ませ〉というキモいスキルを持っている。
魔石もスライム程度のクズ魔石で、その他の素材に全く利用価値の無い不人気ターゲットだが、この全世界の女性の敵は、左耳を削いでギルドに提出すると、ギルドからサービスポイントがかなり入るポイント用魔物である。
しかし、奴らの恐ろしい所は、人間を苗床にした場合、少し賢い上位種や、下手をすると統率力と驚異的な強さの王様が産まれる事があり油断は出来ないので、女性冒険者はあまり関わらない上に、男性冒険者も苦労の割には儲けの少ないので不人気な依頼なのだ。
でも、俺はポイントは欲しい…
暫くソロで乗り込んでもこなせる依頼かな?と悩んだが、
『まぁ、割に合わない数や強さなら、奴らの集落だけ確認して戻ってギルドに報告すればいいという条件の依頼だから、ソロでもイケるかな…?』
と考えていると、ガタ郎が影の中から、
『旦那様、何匹居るか?、どんなヤツが居るかぐらいならば、アッシがちょちょいと影に潜って見てきやすよ。』
と言ってくれたので、今回はクレストの外れの牧場からの依頼を受ける事にした。
冒険者ギルドから、徒歩移動する事二時間程の草原地帯にある牧場についた。
石積の塀と木の柵で囲われた場所に、モコモコシープと呼ばれる毛量の凄い羊魔物の牧場で、羊毛は勿論、ミルクやチーズの様な乳製品も作っている。
この世界の一般的なミルクは牛ではない…なぜなら牛魔物はパワーが凄く飼うのが大変なので、よっぽど屈強な牧場主か、品種改良でよっぽど優しくて賢い牛魔物が居るか、または沢山のテイマーを雇って野生の牛魔物を使役したりしない限り成立しないので、牛乳はお貴族様に喜ばれる贅沢品なのだ。
モコモコシープ牧場のご主人から詳しい話を聞き、ゴブリン達が出現する周辺の場所や目撃する時間などを聞いて、俺はその方向に移動をはじめる。
ガタ郎を偵察として先行させつつ牧場周辺の草原を一時間程歩いた先にある小高い山の中腹に洞窟を見つける。
遠くから見ても、そこには見張りのゴブリンが居る事から、初見の俺にも『絶対にゴブリンの集落だ!』と解る状態で、今回の依頼であるゴブリン達の出所と確信した俺は、洞窟近くの岩影に隠れつつ近寄り、索敵スキルを発動させると、頭の中に自分を中心とした円が浮かび、敵の位置を赤い点で示す。
自分の点から、門番の点の位置関係から、
俺の索敵スキルは現在、半径100メートル程の範囲を表しているらしい。
頭の中に現れた赤い点は全部で15…やって殺れない事はないが、実際の潜入捜査はガタ郎に任せる事にして、
「敵の反応は15だけど、洞窟が遠くまで繋がっていて、俺の索敵の範囲外まで伸びている可能性も有るから、中の様子を偵察して来てくれるかい?」
とガタ郎に頼むと、
『任せるでやんすよ、旦那様ぁ!』
と言ってから勢いよく、ブウゥゥゥゥンと飛んで行き、洞窟近くの手頃な影にチャプンと潜って、見張りゴブリンの目を掻い潜りつつ、影を渡って洞窟に入ったようだった。
『がんばれ、ガタ郎!』
と、俺は心の中で祈りながら待つこと30分程度…
ガタ郎偵察兵がブウゥゥゥゥンと帰還して、俺の影にチャプンと潜る。
そして、
『旦那様、全部で15で間違いないでやんす。
洞窟は中で三方向に別れて小部屋の様でやんしたから、何かの魔物の冬ごもり用のねぐらを乗っ取ったようでやんす。
入り口の見張りが二匹、
入り口の通路横に門番が二匹、
右の小部屋には六匹で、
左の小部屋で縛られた女性1と、二匹が交尾中でやんした…』
と、淡々と報告するガタ郎に俺は思わず、
『ちょ、ちょっと、言葉を選ぼうよ…えっ、苗床にされてる女性がいるの?…それはまずいなぁ…』
と、報告を遮り焦る…
人として放って置けない状況で、更に人が苗床となれば上位種が現れる可能性が高く、そうなってしまえば、洒落にならない被害が出てしまう。
悩む俺に、ガタ郎さんは影の中から、
『では、改めて報告の続きをいくでやんすよ。
左の小部屋で無理やりエッチされている熟女一名に…』
と、交尾をエッチと言い換えたり、熟女という新情報が飛び出すが、あえて俺は、ガタ郎の報告が終わるまでツッコまない事にした。
報告の結果、ようするにあの洞窟には、見張り2、門番2、控え6、お楽しみ中2、側近上位種2のリーダー1の、計15…少なくとも上位種が3に、人質の…熟女?が居る、厄介な案件に成ってしまった。
15匹はソロでも頑張ればイケる。
しかし、上位種3は、キングなど混じればソロはキツい…
かといって、苗床救出は早い方が良いし、ギルドに報告でサヨナラでは…人としてちょっと、どうかとも思う。
人質が居るから洞窟ごと潰す様な大胆な手は打てないし、
そして、あと、熟女って…なんだろう…『助けなきゃ!』って気持ちが、1割引されるフレーズ…
『聞かなきゃ良かった…』
しかし!、ここで助けなきゃ、人としてアウトだ!
『よーし、殺るぞぉ、殺ってやるぞぉ!
無事におばちゃんも助けてやるからなぁ~!』
と自分を奮い立たせながら俺は、
「ガタ郎、俺は入り口付近で、あえて目立つ様に戦って中のゴブリンを引きずり出すから、その隙にコッソリ入って人質の解放と救出を任せる。
出来るかい?」
と、ガタ郎に聞くと、
『任せるでやんす!』
と応えてくれた。
『さぁ、がんばるぞぉぉぉぉぉぉ』
と気合いを入れて、俺達は作戦を開始する。
小高い山を駆け上がりながら戦うのは不利なので、遠回りしながら洞窟の上まで回り込み、見張りに気づかれないように近寄りつつ、斜め上の辺りを陣取る。
新たに鍛冶屋で購入した新品の鋼の弓で、ゴブリンの見張りと、可能ならば入り口側の門番くらいは倒したい。
洞窟を見下ろす形で、弓を構えると、ターゲットのスキルの効果で構えた弓の先に、俺にだけ見える赤い点が現れ、弓の角度を変えるとそれは、ゴブリンな体に灯る…
少し弓を動かすと、点もズレる事から、
『レーザーポインターみたいだ!着弾位置に赤い点か見える!!』
と、ありがたいスキルの効果を知り、これなら射ち損じが減る事を理解した俺は、弓を引き絞り、ゴブリンの胸に赤い点を合わせて射ちだすと、次の瞬間、胸に矢を生やしたゴブリンが静かに倒れている。
すぐさま二発目も、もう一匹の見張りゴブリンに合わせて射ちだすと、次はコメカミに矢を生やした、お洒落なゴブリンが洞窟の入り口近くでドサリと倒れる。
流石に今の一撃で、見張りの異変に気がついた門番が様子を見るために出てきて、変わり果てた見張りの二匹を確認すると、
「グゲ、グゲ、グゲー!」
と騒ぎだしてキョロキョロしている。
門番の二人にも矢をプレゼントすると、
ガタ郎が、
『では、救出に向かうでやんすよ。』
と飛び立ち、俺は、イケるところまでこの場所から弓で戦う予定だ。
武器を持ったごゴブリンがワラワラと出てきて、俺は先頭の奴から1匹、2匹と矢を放ち倒した所で、遂にゴブリン達に襲撃位置が見つかり、
「グゲぇ~」
と鉄の剣と鉄の盾、それに兜をかぶった一回り大きなゴブリンが、『アイツを殺せぇ!』みたいな雰囲気の指示を出していた。
俺は、
「アイツはゴブリンナイトか?!」
と、上位種の登場に少し不安を口にしながらも、弓を、剣と盾に持ちかえて、坂道を洞窟に向かい下っていく。
こん棒や木の槍のゴブリンには負けはしないが、問題はナイトと、まだ見えない上位種とリーダーだ。
坂を下りながら残りの控えゴブリンは倒したが、ガタ郎の報告にあった、お楽しみ中の2匹は出てくる気配が無い。
『ガタ郎さんが噛ったかな?』
と思いながらも、ゴブリンナイトまでたどり着き、一撃を入れようとすると、横から火の玉が飛んできた。
「ゴブリンメイジってやつか?はじめまして!」
と、俺は驚きながらも、何故か余裕が有るのは〈平常心〉と〈ブレイブハート〉と、〈高速移動〉のスキルで、落ち着いて攻撃に対応出来ているからだ。
『上位種を複数か…この場合はメイジからだな、』
と判断して、ナイトを無視してゴブリンメイジに向かい走る。
ゴブリンメイジは慌てて、
「ぐげぁ!」
と、叫びまた火の玉を放つが、俺はぶっつけ本番だが、魔鉱鉄の片手剣に魔力を流しながら火の玉を真っ二つに切り裂いて、そのまま止まる事無くゴブリンメイジの首をはね飛ばした。
遠距離攻撃の恐れが無くなったので、ゴブリンナイトとの勝負に移ろうとすると、洞窟から
「グルォォォォ!」
と、叫び声が響き、デカいハンマーを担ぎながら、ノッシノッシと、ナイトよりもデカい個体が現れた。
しかし、俺は少し安堵した。
喋らないところを見ると、資料で見たゴブリンの最上位種、ゴブリンキングでは無いようだ。
ゴブリンジェネラルとかかな?
まぁ、後は上位種だけだろうし、救出はガタ郎さん任せで大丈夫だからと、俺は目の前の2匹に集中する事にした。
しかし、簡単で無いコンビが残った様で、ゴブリンナイトと、ゴブリンジェネラルは共闘して俺に襲いかかる。
俺と切り結ぶナイトと、つばぜり合いの最中に足の止まった俺へと、ハンマーが降り注ぐ。
正直、高速移動スキルが無ければ話に成らない状況に、
『通販チャンネルごっこで主任さんをノセて、オマケしてもらえて良かったよ…』
と、俺の冷や汗は現在パンツまでグッショリ状態だが、二匹の攻撃は止まない…
ジェネラルは、凄い力だけのバカだが、ナイトはかなり技巧派で、戦う上で、ジェネラルよりも、ナイトが厄介だ。
『早めにナイトを殺らないと…』
と…いや、決してダジャレではない…ほんと、ホントだよ!
と、馬鹿な事を考えている余裕があるのもスキルのおかげだろうが、正直かなりピンチの俺は、次のナイトへの攻撃で仕掛ける事にした。
ゴブリンナイトに向かい、斬り込むと見せかけて、あえて盾でゴブリンナイトをカチあげ、相手の構えを崩す。
ゴブリンナイトが、『マズい』と間合いから飛び退いて仕切り直そうとしたところに間合いの外から飛爪を入れた。
無駄に戦いの知恵があるナイトだから引っ掛かる作戦で、ゴブリンナイトの体は上下に分割され、叫び声すら上げずに、驚いた顔のまま固まっていた。
代わりに馬鹿力でゴリ押しタイプのジェネラルが、威嚇の叫びを上げているが、虫対策スキルで精神攻撃耐性ばっちりの俺が、ビビって萎縮するはずも無く、ジェネラルがハンマーを振り上げて、お留守に成っている胴体目掛けて、飛爪を振り抜く。
すると、ゴブリンジェネラルはハンマーの重みで、上半身だけ後ろに倒れて、戦いは終わった…
返り血でドロドロの自分の体に、ダンジョンショップでアイデア料として貰った生活魔法の〈クリーン〉をかけると、汚れが全て足元に拭い落とされた。
『地味に一番便利かも…』
と、生活魔法の効果に感心していると、
『旦那様ぁ、終わったでやんすかぁ~?』
とガタ郎が帰ってきた。
そして、その後ろには素っ裸で、顔を隠した女性が…
『って、顔じゃ無くて、もっと隠す所あるでしょ?』
と呆れながらも、
「もう大丈夫ですよ。」
と優しく声をかけ、ついでに彼女に〈クリーン〉もかけて、マジックバッグから野宿用の布を取り出して渡した。
布を受け取り体に巻き付けた女性は、やつれた感じではあったが、綺麗な奥さま風の方だった。
のだが、顔から手を離した女性はホッとしたのもつかの間、辺りの血の海を見て、「ひぃ!」と、小さく悲鳴を上げて気を失ってしまった。
「マジかー、どうしよう?」
と、困り果てる俺だが、いくらスキルで強化されているとはいえ11歳の少年が、背丈や腕の長さ等から、成人女性を引きずらずに運べる訳もなく、
とりあえず、その場に寝かせて、ガタ郎に警備をさせ、
「女性を移動せずに、バッチいゴブリンを片付けるか…」
と諦めて、俺は討伐の証としての左耳の回収と、上位種の魔石や装備の回収とゴブリン達の死体の処理を始めた。
しかし上位種は一応ギルドに持って帰るとして、ガタ郎さんの倒したゴブリンの死体も洞窟内から回収して燃やさなければ、エサとして他の魔物を呼んだり、それこそゾンビ化なんてしたら洒落にならない。
松明を持ち洞窟に潜ると、なんとも言えない匂いに襲われた。
我慢しながら各部屋を確認して進み、お楽しみ部屋らしい空間で2匹を回収した後、
リーダーのジェネラル達の部屋に行くと、木箱が幾つか有ったので、マジックバッグの口を木箱に直接近づけて、グッと押し付けると、シュルンと収まった。
あとは、小汚ない布しか無かったので、外にでてきた俺は、
「あぁ、空気が美味しい…」
と、新鮮な空気を堪能した後に、マジックバッグから採掘に使えるだろうと購入していたスコップを取り出して穴を掘り、キャンプ用の薪や、近くの燃える物を組み上げてからゴブリンの死体のを乗せて、生活魔法の着火を使い、臭くて汚いキャンプファイヤーを始める。
また、汚れた自分にクリーンの魔法をかけて、パチパチと焼けるゴブリンを見ながら、
『クッせーし、きったねぇーなぁ…食欲が失せるよ。
皆がヤりたがらないのが良く解るわ…』
と、散々後悔しながらゴブリンがしっかり灰になるまで焼き上がって埋めれるのを待った…風上にいても微かに臭い焚き火を眺めながら、ご褒美のリンゴに噛りつくガタ郎と、その横でスヤスヤと眠っている奥さま風の女性と共に…。
『はぁ~、早くかえりたい。』
読んでいただき有り難うございます。
頑張って投稿しますので応援ヨロシクお願いします。
〈評価〉や〈感想〉もお待ちしております。
皆様の応援がエネルギーに成りますので、
よろしければ是非お願い致します。




