第10話 与えられる力
俺の心の叫びはガタ郎さんには届かったようで、彼は今も樹液の虜になっており、俺は、一対数百の構図のままで、俺だけが変な汗を流しながら蜂の軍団との対話するという虫嫌いにはハードな時間が始まった。
しかし、スズメバチよりデカいテレビリモコン程の大きさの蜂が、100匹以上集まると怖さのゲージが振り切り、
『あぁ、これだけ集まると、羽音だけで草刈り機みたいな爆音がするんだなぁ。』
と、現実逃避の様な感想が湧いてきた。
先頭の一際大きな蜂が、ストンと地面に舞い降りると、他の蜂達も地面に降り、俺に頭を下げる。
そして、先頭の大きいのが、
『我らがシビレ蜂の一族の仇を討って頂き有り難うございます。
私は、この一族の女王で御座います…我々は、あの黄色熊に幾度となく巣を破壊され、仲間を食われてきました。
住処を変えようが、跡を追いかけ、繰り返し…繰り返し…
数千居た我が子達も今は百余りまで減り、とても仇を討てる数は居らずに忌々しい黄色熊の巣の場所を知りながら…ただ、泣き寝入りするしかない我々に、あなた様が現れ、憎っき熊に天誅を加えていただたと報告を受け、飛んで参りました。
言葉を交わせずとも、御礼の気持ちを伝えたいと、一族全員で参りましたが、あなた様に近づけば近くほどに、我らが虫魔物の王の香りがするではありませんか!
あぁ、なんとお礼を申したら良いのか…』
と、うるうるとした、べっこう飴みたいな瞳をこちらに向ける。
正直、ただただ怖い…俺は内心ビクビクしながら、
「そうかぁ、良かっね。
いっぱい仲間を増やしてね。」
と当たり障りない言葉を蜂の女王にかけながら、
『俺って、王様臭いの?あとで、ガタ郎に聞いてみよう…』
などと考えていると、女王蜂は、
『王よ、我らが王に差し上げれる物は何もありませんが、せめて我ら一族の忠誠をあなた様に…』
と言っている。
「いや、要らないから、元気に繁殖してよ。あぁ、あまり果樹園の方々や、ご近所の人間は襲わないであげてね。
どうしても、なら、そうだ!ハチミツとかある?
黄色熊が狙ったりするくらいだから…」
と、ハチミツで貸し借り無しで去ろうと思いついたのだが、女王蜂は、
『申し訳ありません、王よ、
我らは蜜を貯める習性は有りませんので…ハチミツは差し出せません。
しかし、お時間を頂けましたらビックハニービーの巣を襲いまして…』
と悔しそうに項垂れ、略奪の決意を固めそうな蜂達に、
「いやいや、ごめん、君達の習性とか良く知らなかったから…
熊が襲うっていうからてっきり…」
と焦って撤回する俺に、女王蜂は、
『我らはの毒は、あの黄色熊には殆ど効かずに、少し酔っぱらうだけですので、娯楽の為に巣を定期的に襲われておりました…』
と、教えてくれた。
この世界のプーさんは、ハチミツより蜂本体が大好きなようだ。
しかも酔っぱらうから好って、熊の…ではなく人のプータローに近い習性でお酒が、大好きなダメな感じの生物なのかも…と呆れていると、遠くから「ブウゥゥゥゥン!」っと羽音が近づいてきて、
『待つでやんす!…うぷ…
旦那様への謁見は、この子分、ガタ郎さまを通してからに…げふぅ…うっ…してもらいたいでやんすぅ。』
と、ガタ郎さんが腹一杯状態で帰ってきた。
樹液満タンのガタ郎が、苦しそうにしながらも、
『げふっ…で、旦那様、これはどういった状況で…?』
と聞いてくる、俺が、
「熊に苦しめられて、困ってたけど、やっつけてくれて有り難うだってよ」
と俺が掻い摘まんで教えると、ガタ郎は、
『それは良い心がけでやんす。』
と感心して、なぜか蜂達に向かって自慢気に、
『シビレ蜂の一族よ、旦那様は偉大でやんす。
末代まで語り継ぐでやんすよ。』
と、ガタ郎が胸を張ると、樹液がフルチャージされた彼の胃が圧迫されたのか木陰にカサカサと走り込み、今、ガタ郎はエレエレしている真っ最中である。
きちゃないし、格好悪いよガタ郎…しかも、テイムしたからか、離れた場所でリバースしているガタ郎の嗚咽が聞こえ、最後には、
『アッシの、樹液達…サヨナラでやんす…』
と切ない台詞のあとで、彼は寂しそうに木陰から出て来た。
そして、
『シビレ蜂達よ、用が済んだら帰るでやんすよ!
旦那様は忙しいんでやんす!!』
と、なぜかシビレ蜂達に八つ当たりしている。
ガタ郎さん、器の小ささが目立つから静かにしようか?
と、残念そうに俺が可哀想な子を見る目でガタ郎を眺めるていると、女王蜂が決意した様に、
『王よ、お願いが御座います。
我らに何卒、お力を…この山一帯で安心して暮らせる力をお与え下さい。』
と頭を下げる。
まぁ、あの黄色熊夫婦にボコボコにされるのならば、同じぐらいの強さの黄色熊は、この山の何処かには他にも要るだろうし、下手をすればもっと強い魔物も要るだろう…
蜂達の数がすぐに戻る訳でもないし、戻ったとしても食われる未来を繰り返すのであれば、可哀想と言えば可哀想だよなぁ…と考えてながら、
『なぁ、ガタ郎さん、はどう思う?』
と、虫代表としての意見をガタ郎に聞くと、
『アッシは良いと思いやすよ。
別に連れ歩かなくても魂の繋がりがあれば、蜂が倒した魔物の経験値もちょっとだけ旦那様にも入りやすし、
女王の力を共有して、すこし強くも成りやすよ。」
と答えた。
「うーん、じゃあ、現地担当ということで配下になってもらいます。
俺の仲間として皆に守って欲しいお約束は、何もしていない人間を自分側から襲わないって事だけです。
これが守れるならば、名前をあげる。」
と、女王蜂に提案すると、彼女は、
『畏まりました。
我らが、身も心も王に捧げます。』
と頭を下げたので、俺は手をかざして、女王蜂に向かい
「マリー!」
と、呼ぶと、すべての蜂が光りだす。
そして、光りが和らぐと、ただ、デカいだけの女王蜂は、大きさそのままで、だいぶ人間に近い見た目になり、妖精のようは雰囲気になったが、あのべっこう飴みたいな瞳は変わらず、こう言ってはアレだが、別の意味でキモい…
〈恐怖、蜂女!〉みたいな見た目の妖精さんと、若干虫感が、弱まったその他の蜂達が居た。
妖精風の女王が、
「シビレ蜂改め、トラップ・ハニービーのマリー。
陛下の為に忠誠を捧げますわ!」
と言っている。
ハニートラップじゃないの?と考えていると、マリーが、
「ビックハニービーを使役し、蜜を集めさせ、その蜜を狙う魔物を返り討ちにする、トラップ・ハニービーですわ。」
と教えてくれた。
「そうなのね…
ボンキュッボンな体に成ったからつい…色気で惑わす系かと思ったよ。」
と、俺がいうと、マリーは、
「それも出来ますわよ。」
と、言ってホホホッと笑うが、俺が驚いたのはその内容ではなくて、
「…いや、マリーさん?」
と、確認も兼ねて彼女を名前を呼ぶと、
「はい?」
と不思議そうに小首を傾げるマリーさんに、俺は静かに、
「喋ってるよね?…普通に」
と聞くと、マリーは
「オッホッホ、陛下。
口が有りますもの、喋りますわ。」
と答え、ガタ郎もウンウンと頷き、
『喋れるのは少し羨ましいでやんす。』
と言いながら近くの木にしがみつき樹液を舐めている。
俺は、また、吐いちゃダメだよ…と心配しながらもガタ郎を眺め、喋る女王蜂のマリーは、この山一帯で帝国を作ると仲間の蜂達と張り切っている。
名付けたのはマリーだけだったのに、他の蜂達まで進化したのは、もれなく彼女の娘だったかららしいが、娘達は口元が蜂さん寄りで喋ることは出来ないのだが、しかし、近づくと念話で、
『王さまぁ』とか『パパぁ』などと俺にすり寄ってくる…マリーより蜂感が強いので、まだ少し怖いが、それよりも、どことなく夜の雰囲気を感じる集団に成ってしまった。
別れ際には、
『絶対、絶対、また来て下さいね。』
と、すがりつかれ、俺的には最初より虫感が少ないからセーフだが、その分お水感が増したので、ある意味アウトな魔物になっているのを確認しつつ、
か
『ビックハニービーとやらを配下にする能力があるので、ハチミツをそのうちくれるらしいから、秋にでも見に来るかな?』
と考えつつ、熊退治より大変なイベントを何とか済ませて、果樹園のオーナーに黄色熊の討伐確認と、樹液のお礼と、マリー達の話をして、
「悪さをしないので、いじめないで下さいね。」
とだけお願いをして、クレストの街に徒歩で帰る事にした。
しかし、冒険者ギルドに依頼達成の報告をするまでが、お仕事だけど、町までかなり遠い…黄色熊の討伐や蜂達との会話よりも、結局、徒歩での帰り道が一番キツかった。
ギルドに黄色熊の夫婦の討伐を報告して千ポイントちょっと…Cランクまでは、集落からの帰り道並みに遠い。
そんな訳で、冒険者ポイントはまだまだなのだが、黄色熊の毛皮はその鮮やかな黄色な事から、お貴族様から大変人気で、毛皮はオークションにかけられたおかげで、肉や、肝などとあわせて、大金貨六枚という大金が手に入った。
俺の噂を聞いた、春になり冒険者としてのお仕事モードで頑張っている夢の狩人のメンバーから、
「黄色熊が二匹と知ってたら、俺らが行きたかったよ…」
と残念がられた。
キラーベアーに、黄色熊…俺は熊に縁があるようだ。
思わぬ金額の収入も手に入ったので、何か良いアイテムか、スキルスクロールを買うために、ダンジョンショップに行くと、主任に成った店員さんが、俺を見つけて飛んできた。
「よっ、福の神のご来店ですね。
黄色熊のご予算で、本日は何をお探しで?」
と言ってくる。
俺が、
「情報は武器でしょうが、詳し過ぎませんか?」
と少し怖くなり聞いてみると、主任さんは、
「ポルタさんの情報はわざと集めさせてますからね。
また、ナイスアイデアで助けてもらえるか、または、お困りの際は颯爽とお助けに行けるようにと…
まぁ、オークションの結果からもうすぐお見えになるかなぁ~と、今回はお待ち申し上げておりました。」
と、ニコニコしている。
俺が、
「小金貨三枚のヤツは順調ですか?」
と聞けば、
「お見合い市場ですね。
貴方と埋もれた逸品の出会いの場!運と縁がモノをいう!!
とのキャッチフレーズで、今では楽しみに見に来る観客まで現れています。」
と主任さんが言っていた。
そりゃ何よりで…まぁ、人気ならば良いんじゃないの?
と俺は安心しながらダンジョンショップの店内を見回して、予算内で良いアイテムがないかと歩き出すと、主任さんは、
「で、本日は何をお探しで?」
と商いモードになる。
俺が、
「そうですねぇ、大金貨五枚程度で…」
と言ったとたんに、主任さんは、
「最大六枚ですもんね。」
と、どこで仕入れた情報なのか、黄色熊で稼いだ金額を正確に答える。
どこまで知っているんだ?主任さんは…と少々怖くなるが、主任さんは、既に俺のスキルも虫嫌いのインセクトテイマーという事も知っている。
このペースならガタ郎の事も知っているのだろう…たぶん…
そんな俺の心を知ってか知らずか、主任さんはニコニコしなから、
「もう私、ポルタさんが大金を手にしたと聞いて以来、方々に手を回して予算内でオススメのスキルスクロールやアイテムを探しておきました。
しかも、お偉いさんから〈ポルタさんとは仲良くしておけ〉と業務命令も出ておりますので、ある程度…いや、私の出来る範囲目一杯のサービスをさせていただきますよ。」
と、心強い言葉をくれた。
『サービスは、大好きです。』
俺は心の中で喜びながら、
「では、そのオススメとは?」
と聞くと、主任さんは、待ってましたとばかりに、
「では、私のオススメ!
一つ目は、スキルスクロール、〈ブレイブハート〉です。
もうヤバイって時に、確率で自動発動するスキルです。
勇気が溢れて、力が湧いてきますし、精神攻撃の恐怖状態からの回復ができます。
不確定要素があり、人気があまり有りませんが、次にご紹介するアイテムと合わせれば心強いスキルになること間違いなし!
では、その2つ目、〈幸運の腕輪〉で、その名の通り、運気上昇効果の腕輪です。
全ての確率を微妙に上げる効果を持ちますので、ブレイブハート自体の発動確率がそこまで低く無いので、微量な確率上昇でも十分かと…
既に身につけておられる〈平常心〉と合わせると、更に不意な虫にも安心な自動スキルですよ。」
と説明してくれた。
俺は、
「それは凄い、でも、お高いんでしょ?」
と、合いの手を入れると、主任さんは、自信に満ちた表情で、
「まだ、驚かないで下さいよ、
今ならなんと、〈索敵〉のスキルスクロールと、遠距離攻撃に最適な〈ターゲット〉のスキルスクロールをあわせて、大金貨六枚で…」
とノリノリでオススメしてくるので、俺も、
「うーん、六枚かぁ…
もう少し何とかなりませんかぁ…?」
と、主任のノリに全乗っかりすると、主任さんは、
「ヨシ!私も漢だ、精一杯頑張って、大金貨五枚でどうですか?!」
と提案してくる。
しかし、ここで俺はお決まりの追撃をかける。
「えーっ、主任さぁん、
オマケもお願いしますよぉ~」
とおねだりすると、主任さんは、
「今回だけ、今回だけですよぉ、
なんと、もうこれを付けちゃおう!スキルスクロール〈高速移動〉だ。
もう許して、これ以上は店長に叱られちゃうかも…ごめんなさい店長!」
と楽しそうだ。
影の中から見ていたガタ郎も、
『お二人とも楽しそうでやんすね…』
と、呆れぎみだ。
すると、楽しく通販チャンネル風の遊びをしていた俺たちを見つめる男性がもう一人…
その男性はユックリと俺達に拍手をし始める。
すると、主任さんは、
「て…店長…」
と、冷や汗を流している…
主任は少しふざけ過ぎた事を悔やんでいた様であったが、しかし、店長さんは、
「面白かったよ。
主任…今のやり取りを資料にまとめて、魔法ダンジョンから買い取ってダブついている〈マジックポーション〉と〈生活魔法〉や売れ残る指輪やブレスレットを売り尽くしてみろ、
頼んだぞ、在庫処分室長!」
と笑って去って行った。
主任さんは、何が起きたのか理解出来ずに暫くポカンとしている。
俺が、
「主任さん?室長さんかな?
おーい、帰って来てくださーい。」
と肩を揺すると、
「母さん、やったよ。
おら、出世しただよ…」
と、一点を見つめながら涙を流している。
そして、主任さん?は、
「ポルタさん、あとは宜しく、
大金貨五枚です。
私、今の流れを覚えている間に書類にまとめたいので、」
と焦りながら、商品を俺に渡して、会計を済ませる様に促し、
俺も、カバンからイソイソと大金貨五枚を渡しつつ、
「数量限定とか、今から何時までとか、区切りを設定した方がいいよ。
出来るだけスパッと綺麗な値段か、
198(いちきゅっぱ)みたいに端数が有っても響きが良かったり、大金を払ったとしても小銅貨二枚でもお釣があれば、スパッと価格の200より、物凄く得した気分になります。
では、頑張って下さい室長さん。」
とだけ伝えて帰ろうとしたのだが、主任さんに、
「やっぱり来て下さい。」
と、別室にドナドナされて色々と相談に乗ることになってしまったが、相談料として売り出し予定のマジックポーションと、生活魔法の〈クリーン〉と〈着火〉と〈水生成〉のお出かけ三点セットに、魔力微上昇の指輪で手を打った。
かなりお値引きしてもらった上にお駄賃までもらって、かなり得をしたので、少しでも彼の出世のお手伝いが出来る様にと、俺の知る通販番組的な知識を惜しみ無く伝えたのだった。
読んでいただき有り難うございます。
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