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53.似た者親子

その日、地球上に13機の人工衛星が落とされた、落ちたのでは無い、落とされたのだ。

アメリカはメキシコ湾、ヨーロッパでは地中海、アラビア海、日本海など北半球の洋上を中心に落下した人工衛星は、ご丁寧に地表3,000mの上空で爆発する、それはまるで巨大な花火のようであったと言う。

ちなみに本物の花火は一尺玉(10号)で高さ約300mで花を咲かす、それに比べればかなりの高度で爆破された事になる、それだけに目撃例もかなりの人数におよび、世界中に動画も拡散され、その日のニュース番組を賑わした。これを受けて、政府や世界各地の天文台も蜂の巣を突いた騒ぎとなる。




ダンッ!!


「くそっ、児島、ダイレクトラインで極東マネージャーを呼び出せ!」


隣に控えていた児島が、無言で大きなアンテナの付いた黒のスマホを操作すると貴子に手渡した。


トゥルルルルル、ピッ


『もしもし〜、何、この回線で連絡よこすなんて、あの花火って貴女の仕業?』


「おまえ、今何処に居る!」


『なによ、やぶからぼうに、苫小牧よ、カレーラーメン美味しいわよ』


「なんでそんな遠くに居るんだよ!! 今からそっちに行くからお前の青龍ふね貸せ!」


『………説明しなさいよ、社会人なのだから、ほうれんそうは大事よ』


「報復・連射・葬式?」


『報告・連絡・相談でしょ!!いいから説明なさい』







話は4時間前に遡る。




海底展望台から最初に通された応接室に戻って来た。児島さんの煎れてくれたお茶を飲みながら、先ほど見た海中の景色の余韻に浸っていると、貴子ちゃんが嬉しそうにすり寄って来る。


「へへへ、鉄郎君。柿ピー食べる、あ〜ん、なんちゃって」


「なんかえらく機嫌がいいね貴子ちゃん、ちょっと怖いんだけど」



貴子は上機嫌だった、鉄郎をラボに招きあ〜んして食べさせ合いっこして、2人で散歩(2人じゃありません)、海の綺麗な海底展望台で寄り添いながらおしゃべり。そりゃあ、恋愛初心者の貴子にしてみれば、2人の仲は今日一日でかなり進展した印象にもなろう。そしてそんな二人をジト目で見ている黒衣の少女。

貴子とは反対に不機嫌なのは黒夢だった、どうにもパパである鉄郎の世話を出来ていない、そのために生み出された身としてはアイデンティティの喪失である。


「パパのお世話は、ワタシがやる、ママはもう引っ込メ」


「あ゛ぁ〜ん、もう子供は寝る時間だろ、部屋に戻ってなさい、シッ、シッ」


皆さんも薄々お気づきだろうが、加藤貴子と言う人物は非常に飽きっぽいし、忘れっぽい、現時点で黒夢を作った目的を忘れかけていた、本来鉄郎の世話や護衛を目的に制作したのだが、完成した時点でその興味は急速に薄れてきている、貴子にしてみれば作っている時が一番面白いのであって完成してしまえば、その興味はすぐに次の発明に移る。文化祭などと一緒で準備期間が楽しいのだ。(個人の感想です)

天才科学者としてはそれでいいのかもしれないが、彼女に作られた黒夢としては溜まったものではない、ましてや黒夢は自我を持つまでに成長している、もはや道具や機械ではないのだ。


「ちょっと、貴子ちゃん、それじゃ黒夢が可哀想だよ」


「なに? 鉄郎君は妻よりも、娘の肩を持つの!」


「いや、誰が妻なのかな」


「チッ、あんな子供作らなきゃ良かった」


その場にいた鉄郎、麗華、児島が冷めた目で貴子を見つめる、こいつは絶対に親になっちゃいけないタイプの人間だなと、三人の考えが一致した。

貴子は鉄郎の冷たい視線に気付き、やばいと思うも精神年齢が子供なので、「私悪くないもん」と素直に謝ることが出来ない。

いや、お前、実年齢幾つだよと言いたくなるが、元々非常に大人気ない奴なのである。


「貴子ちゃん!その言い方は駄目だよ、黒夢にちゃんと謝って」


「うぐっ」


叱られた貴子の考えはこうだ、何故自分の作ったアンドロイドの所為で鉄郎君に怒られなきゃいけないんだ、怒りのベクトルは黒夢に向かい、つい八つ当たりの言葉を発してしまった。


「ぐぬぬ、黒夢! おまえなんかもう用済みだ! 明日からトイレ掃除だー!」



貴子の言葉に黒夢がカタカタと震え出すと、目が青く光り出す。



「馬鹿、馬鹿、馬鹿、ママのぶぅわカ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」


「むぎゃ!」


黒夢の真空飛び膝蹴りが貴子の顔面に見事にめり込む、自慢のバリアーもなぜか役に立っていない。


鼻血を出しながら綺麗に後ろに倒れて行く貴子を尻目に、黒夢はサッと鉄郎を脇に抱えた。


ダンッ!


「ちょ、くろむ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」


鉄郎を抱えたままフルパワーでダッシュ、その急加速のGは凄まじく、鉄郎の意識は一瞬でブラックアウトをおこす。身体を鍛えていなければ、ムチウチになっていただろう。そのまま部屋を出ようとした時だった。


「止まりなさい!!」


「クっ!!」


いち早く反応したのは児島だった、その両手に突然拳銃が現れた。超高速のクイックドロー。遅れて短めの学院のスカートがふわりと舞い上がる、太ももに巻かれたガンホルダーと一緒に薄いブルーの布地が目に飛び込んでくる。隣にいた麗華もわずかに遅れて駆け出す。


「もう、ママとはやっていけない、パパはワタシがもらっていク」


気絶した鉄郎を脇に抱えた黒夢に、箭疾歩で間合いを詰めた麗華の右拳が襲う。黒夢はその右拳を、片手で巻き込むように受け流し、そのまま投げ飛ばした。勢いよく壁に叩き付けられる麗華。


「「なっ!!」」


ここにきて黒夢は麗華の化勁(攻撃を受け流す技)までも学習していた、貴子の言っていたように1ランク上に強くなっているのだ、今の彼女に死角は無い、真の化物の誕生である。児島も鉄郎を抱えているため撃つことが出来ない、銃を構えていると、ふいに意識が朦朧としてくる。


「ちっ、ガスですか。親子揃ってやる事が似てる…………」


咄嗟に息を止めるが、身体に力が入らず崩れ落ちる。ガスマスクを付けてさえ効力を発揮する貴子謹製の特殊催眠ガスだ、その威力はすでに実証済みである、それは根性でどうにかなるものではなかった。


「大丈夫、チョット眠ってテ」



誰も動かなくなった部屋の中で、黒夢の瞳だけがチカチカと青く点滅していた。











「……はっ、鉄郎君」

「へっ、ここどこよ」

「油断しました」


眠りから覚めた貴子、麗華、児島の3人であったが、彼女達が目を覚ました場所は、洋上にポツンと取り残された船の上だった。

グリーンノアの脱出用に格納されていた「えのしま型掃海艇」、その周囲に研究所の姿はすでに無く、鉄郎の姿もそこには見る事はかなわなかった。

一瞬、呆然となるが状況を理解すると、貴子の中で沸々と怒りがこみ上げて来る。


ダンッ!!


「くそっ、児島、ダイレクトラインで極東マネージャーを呼び出せ!」



「鉄郎君は絶対取り返すぞ、待ってろよ黒夢ぇ〜!」

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