椿 7
彼の世界はこの世界とは違う、青い空や広がる森林、きれいな川、精霊がいると聞いても、信じてしまうほど自然が綺麗だった。
「エド、エドゥァルド、帰れるの?」
エドァルドの名前は手を触れていると呼べるのに、言葉にすると言いにくい。
「エドでいい、はっきり言って今すぐ帰るには魔力が少し足りない。それに、偶然飛ばされてきたため自分の世界がどこなのか分からない。」
あんなに綺麗な場所から、ほとんどがアスファルトで覆われたこの町に来て大変だろう、それに、知った人が一人もいないこの世界。
自分が両親を一度に喪った時のどうしようもない寂寥感を思い出す。
どうにもできないどうしてあの時出発する両親を止められなかったのか後悔と、一人残されたさみしさ、呼吸ができなくなるような孤独感。
「帰る場所が見つかるまでここにいたらいいわ。」
エドが帰る時、またあの孤独感を味わうかもしれない、でも今度は彼が故郷に帰れる喜びもきっと分かち合える、死んで二度と会えないのとは違う。
「ありがとう、本当にいいのか?」
「大丈夫よ、部屋だって沢山あるし、扶養家族が一人増えたって、でも近所の人にはなんて言おう。」
古い住宅地の分近所づきあいが多い、時に煩わしいと感じることもあるが、両親が亡くなった時は本当に助けられた。
今だって、ずいぶん気にかけてもらっている。
「アメリカに嫁に行った母さんの姉の息子って事でいい?でも、いくら外国の人って言ってもその髪の色は目立つかも。」
ふっと風が吹いて、目の前のエドァルドの髪が短い茶色になった。
「これでいいか?私にはこの国の通貨を持っていないが、これを換金できないか?」
見たこともない金色に輝く500円玉くらいの宝石を掌に載せて差し出された。
「綺麗、でも、駄目だわ、測定器にかけられたらこの世界にないものだとすぐ分かるもの、そうしたら大騒ぎになる。」
「そうか、私にできる事を教えてほしい。」
しゅんとして掌の宝石を見つめる、そしてそれを亜弓の手に渡した。
「換金は無理でも貰って欲しい、私の世界でもこの大きさは珍しいものだ。」
「ありがとう、大切にするね。」
希少価値があるものなら断ろうと一瞬思った、でももし自分がエドの立場なら、ただ世話になるだけは心苦しいと思う。
貰うことでこの家で暮らす事に、遠慮が少しでもなくなればいいと思った。
「とにかく、これ以上雪が積もる前に一緒に買い物に行きましょう、沢山買わなきゃいけないから郊外のショッピングセンターまで車を出すわ。」
「車?あるのか?」
「ええ、父の車が、」
父のカジュアルな服とコートを着せる、靴はブーツでも何とか様になる、剣を持って出ようとするエドァルドを説得して部屋に置いて出た。
玄関横にある車庫のシャッターを開ける、エドァルドはわくわくしながら見ているようだった、昨晩ネットで見たのか、なんだか異世界人とか、ドラゴンとか言っても子供のようだ。
まだ道路には積っていないけど、この調子だと通行が途絶える夜になったら道路にも積りそうだ。
久しぶりの運転に緊張しながら車を出した。
「亜弓はどうして一人で暮らしているかい?飾っている絵は両親?」
「あれは写真よ、」
ネットで得たにわか仕立ての知識では、まだ穴がたくさんあるらしい。
「両親は3年前結婚20周年記念の旅行中バス事故で亡くなったの、」
今でもその事を考えると苦しい、でも時は優しくてえぐり取られたような傷も少しずつ癒えてきた、でも、今でも時々もうこの世にはいない姿を探して目覚める事がある、苦しくて自分も一緒だったらどんなに良かったかと、涙が止まらなくなることもある。
きっと、私が彼を入れたのは自分と同じ孤独感を感じていたのかもしれない。
「エドの御両親は?心配していない?」
「竜はあまり子供が生まれない、寿命の1000年で一組の夫婦に一人多くて2人、生まれて50年から80年ほど一緒に育てられ、それからは番が見つかるまで男は一人で暮らす者がほとんどだ。だからすぐには心配などしないと思うが、心語が届かないと心配になるだろうな。」
「ごめんなさい、そうだよね、誰だって、ドラゴンだって家族は大切だよね。」
正体がドラゴンと聞いても、実際目にしているのは人間の姿なので実感は伴っていなかった。
なのに、寿命が1000年って、亜弓は動揺していた。
ありがとうございます。
12月二年末の話で、1月に正月、、って感じで実際の月に合わそうと思っていたのに、まだ1日いや、一晩しかたってない、、




