41話 「月のものと妻」
「ただいま」
別邸から朝になって寝殿から転移して、俺は先ほど公爵邸に帰り着いた。
「お帰りなさいませ、ケーネスト」
妻が青い顔をしつつも出迎えてくれた。
今は朝の10時くらいだ。
「顔色が悪いな、アレンシア、具合が悪かったのか?」
行けたら行くと言いつつ、せっかく新しく出来た別邸の様子見にも来ないと思ったら。
「まぁ、少し……」
「そういえば君はその、月のものが来た時はお腹とかは痛くなるのか? 人によっては痛みはなくて眠くなるだけと聞いたけど」
「痛みがあったらどうだというのです? 代わってくれる訳でもないでしょうに」
妻はじとっとした目で俺を見た。機嫌も悪そうだ。もしや今まさに生理中なのでは?
「もちろん代われはしないけど、かなり効くと思う鎮痛剤を持ってきたから」
「かなり効く鎮痛剤?」
多分、日本の市販の鎮痛剤だから、効くんじゃないかな?
「これだ、ダンジョン産だからさ。えーと、多分30分から1時間くらいで効果は現れると思う。人によってはあまり効かない可能性もあるし、効くまでにかかる時間も違うだろうが」
ダンジョン産といいつつ、実は日本産だ。
「そんな訳のわからない文字の書かれたものを」
妻は日本の薬のパッケージを見て不審がっているので、俺は日本で仕入れたラムネ菓子も取り出した。
「いや、鎮痛剤の名前が書いてあるだけだよ。このようにして押し出して中のものを取り出す。あ、コチラはお菓子の方なんだよ、薬はどこも痛くない俺が飲んでももったいないだけだし」
と、説明しつつ俺が見本として開けて見せたのは薬ではなくラムネ菓子の方。
「お菓子?」
「ああ、こちらはお菓子だから噛み砕くけど、薬は水と一緒に飲み込むんだぞ」
そう言って俺は妻の目の前でラムネ菓子をコリコリと音を立てて噛み砕き、食べて見せた。
「……」
「その薬を疑うなら今度頭なり腹なり痛くなった時は私が自分で、君の目の前で飲んでみせるから」
「そうですか……」
「君は顔色が悪いから、今日は無理せずにゆっくりするといい」
そう言って青い顔をしたアレンシアと別れて俺は着替えをする為に自室へと戻った。
◆ ◆ ◆
〜 アレンシア視点 〜
「奥様、大丈夫ですか?」
正直、侍女が心配するように、実は私は月のもので先日から腹痛があり、そのせいで先ほど気を使って声をかけてくれた夫にもきつく当たってしまいました……。
なんて可愛げのない女だと、我ながら思います。
「水をちょうだい、このダンジョン産とやらの薬を飲んでみるわ」
私は夫が先ほどくれたお土産のお薬の箱を開けました。公爵家の主治医の用意した薬でさえたいして効かないから仕方がなく侍女に水を頼みました。
「はい、ただいまご用意いたします」
「あの人が同じくダンジョン産のお菓子を平然と食べてらしたから、きっと……大丈夫なのでしょう」
「はい、どうぞ、お水です」
侍女の用意してくれたグラスの水を口に含み、薬を取り出して飲み込みました。
そして夫の出迎えも終わったので、私はドレスを脱いで楽な部屋着に着替えました。
今すぐベッドに横になりたいけれど、とりあえずソファに布を敷いて座りました。
お尻の方から血が漏れて服を汚さないか心配だからです。
その時、ノックの音が聞こえて入るよう促すとメイドが紙の袋を持って入って来ました。
「こちらを旦那様から、奥様へ渡して欲しいとのことです」
渡されたそれには走り書きのような手紙が付いていて、紙袋の中身はまた見慣れぬツルツルした袋に入った四角く軽いものが出てきました。
ツルツルとした包装は簡単に手で破れ、中には白く四角いものが二つ折りに畳まれ、沢山詰まっていた。
手紙にはこれは生理用ナプキンというもので、月のものが来た時に下着を汚さぬよう、血を受け止める為に下着に貼り付けるものだと、絵として描いたものつきで説明がありました。
私は 袋の中身を一つ取り出して触ってみました。
「柔らかいわね……これを……私の股の下につけろと?」
「こ、これはまた、珍妙な贈り物ですね」
「とりあえず下着や服をなるべく汚したくはないから、使ってみるわ」
……つけてみました。
「奥様いかがですか?」
「素材が柔らかいから痛くはないわ。使い捨てと書いてあるわね……数時間経った後、捨てて新しいのと取り替える、もしくは出血が多ければすぐ新しいのと取り替えてもいいとか」
また夫の手紙を見て、詳しい説明書きを読みました。
そして半刻ほど過ぎたら、腹痛は無くなっていて、あのお薬が効いたのかもしれないと思いました。
「奥様、お顔の色がよくなりましたね」
「あの人のくれた薬が効いたのかもしれないわ」
……今度会ったら、夫にお礼を言うべきよね。わざわざ私の体調を気遣って下さったのだし……。
私はぼうっとため息を一つついて、走り書きのようなあの人からの手紙を、大切な文用の箱にしまいました。




