夏のバカンスは南の島で~おまけ
お久しぶりです
そして短いです
「というわけで、いろいろあったんです」
「そうなんだ。楽しそうだね」
始業式の日、放課後にいつものピアノ室でお土産と共に思い出話を伝えれば、シュウ君は楽しそうに笑っています。
まぁ、確かに最後の感想としては「楽しかった」で間違ってはいないのですけど、なんだか素直に頷きたくないような気もしますね。
「いいね。洞窟探検、面白そうだ」
「あれ?シュウ君もそういうの、興味あるのですか?」
何となく優雅にピアノを弾いたり読書したりとかのイメージが強かったので、少し意外です。
「結愛ちゃんの中のぼくのイメージっていったいどんななんだろう?」
びっくりした顔をした私に、シュウ君が苦笑しますが、別に気を悪くしたふうでもありません。
そういう鷹揚な所ですよ。
「なんか運動するにしても、大自然を駆け回るというより、スカッシュとかで爽やかに汗を流す感じというか……。海ではしゃぐより、室内プールで泳いでプールサイドで優雅に読書、みたいなイメージなんですよね、シュウ君って」
「それは……」
何となく自分の中のシュウ君像を口に出せば、今度こそ微妙な顔で黙り込んでしまいました。
「大人っぽいってことですよ?セレブっていうか」
「どっちかというとおじさんっぽいんだけど」
急いでフォローしようとしたんですけど、どうも失敗みたいです。
今度こそ微妙な顔で黙り込んでしまったシュウ君。
空気を換えるためにも、別の話題を振りましょう!
ナイスアイデアです!わたし。
「シュウ君はどんな風に過ごしたのですか?」
いきますよ~。
必殺!夏の思い出を聞かれたから聞き返してみる攻撃!
「……うん?語るほどのものはなかったかな?」
ニッコリ笑顔が返ってきましたがどこか目がうつろですよ?
どうしたんですか?
確かドイツに住んでいた頃の友人に会いに、家族で行っていたんですよね?
「しいて言えば、ピアノをたくさん弾いたかな? 後は掃除と世話に巻き込まれた」
「掃除と世話、ですか?」
予想外の返事が返ってきました。
遊びに行ったのではなかったのでしょうか?
「そう。不定期にピアノを教えてもらっている先生?がいるんだけどね。授業料がわりに身の回りの世話をしたんだよ」
「へぇ。住み込みのお弟子さんみたいなものですか?」
今どき授業料が身の回りのお世話、とか珍しいですよね。
そういえば、お父さんのご友人にピアノを教えてもらったって聞いた気もしますし、身内ゆえでしょうか?
「……弟子、なのかな? お手伝いさんというかマネージャーみたいな人がいるから、家事は大したことないんだけどね。急に日本の家庭料理が食べたいとか、海に沈む夕日が見たいとか言い出すから結構振り回された」
料理はともかく、夕日はどうしろというのでしょうか?
移動手段を用意しようにも運転はできないし、中学生の身では手に余りますね。
「自由な方なんですね……」
「……まぁ、悪い人ではないよ」
なんと返していいのか口ごもる私にシュウ君は小さく肩を竦めるけれど、ほんの少し目がほころんだから、きっと振り回されながらも充実した日々ではあったんじゃないかなって思うんです。
「まあ、いいや。せっかくだし何か弾こうか?」
気を取り直したように笑うと、シュウ君がピアノの方へと向き直りました。
何かと忙しそうなシュウ君とは学年も違うし、なかなか顔を合わせる事は難しんです。
それでも時間が合いそうなときは裏庭とかで会ってたんですけど、雨が降ったりとか寒い日とか大変だったんですよね。
そしたら、シュウ君がピアノ室を借りてきてくれたんです。
音楽室の近くに数部屋あるそこは三畳ほどの広さで、ピアノがあるだけの部屋です。
申請すれば昼休みや放課後に借りる事ができるんですけど、結構人気があって争奪戦なんですよね。
まあ、防音室だし冷暖房完備だし、居心地いいですからね。
ただし、防犯の意味もありカメラはつけられています。
無いとは思いたいですが、いじめの温床になっては困りますもんね。
とりあえず、主目的はピアノの練習とはいえ、複数で利用してちょっとおしゃべりするくらいは黙認されているそうです。
でもせっかくあるからと、シュウ君がピアノを弾いたり私に教えてくれたりして時間を過ごすようになったんです。
おかげで、何曲は弾けるようになりましたよ。
もっとも、シュウ君の演奏を聴いていると、私なんて本当に楽譜をなぞっているだけなんだなって思います。
努力だけでは超えられない壁ってあるんですよ。
シュウ君は自分程度では一流にはなれないよ、と笑いますけど。
シュウ君の演奏を聴いていると、なんだかその曲の情景が浮かぶし、ワクワクしたり切なくなったりするんです。
「じゃあ、修行の成果を聴かせてください」
「修行って……。じゃぁ、せっかくだし新しい曲を弾こうかな」
くすくす笑いながら、シュウ君がそっと指先を鍵盤に乗せました。
(うん。今日はキラキラの日だね)
こぼれだした音に私はそっと目を閉じて、しばしの夢の世界を存分に楽しんだのでした。
読んでくださり、ありがとうございました。
何やらランキングに入りました報告が来るようになって、長らく放置しているのに、目を通してくださる方がいる事に感動しております。
そして、自分の久しぶりに読み返したわけですが。
というか、お礼に何か書きたいと思っても久しぶり過ぎて細かい設定とどこまで書いていたかを忘れているというポンコツ作者でした。
イメージ崩してしまっていたらすみません。




