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魔王子は女騎士の腕の中で微睡む  作者: 小織 舞(こおり まい)
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魔女の宴

「さあ、二人とも。わたしの目を見て、もっとよく顔を見せて……。今のわたしは理想の男に見えている筈……。さぁ、騒がないで。わたしの言うことを聞きなさい。

 セリーヌ、衛士にここの鍵を開けさせて。ここに入って話がしたいと言うのです」

「はい、レオンハルト……」



 そうか、姫殿下の目にはわたしが婚約者殿に見えているのか。

 ほどなくして、不審に思っているのが顔にありありと出ている兵士が牢の鍵を開けた。兵士が完全に見えなくなり、聞き耳を立てていたりしないのを確認してから、わたしは二人を招き入れた。



「二人ともこちらへ。セリーヌ、ピンを借りるよ」


「はい、どうぞ。レオンハルト」


「ありがとう。そこのお前、服を全て脱いで渡しておくれ 」


「はい、お父様……」


「うわ……」



 聞かなかったことにしよう。



 わたしはピンで手錠を外し、囚人服を脱ぎ始めた。侍女も隣で脱いで、わたしのために畳んでくれている。……ちょっと申し訳ない気持ちになる。例え、セリーヌ姫殿下のところでわたしを無理やり着替えさせた侍女だとしても……。



「や……、レオンハルト? まさか……!」

「大丈夫、セリーヌ。そこで見ていて」

「あん、お父様ぁ」



 裸のわたしたちを見たセリーヌ姫殿下が、何か誤解して騒ぎそうだったので宥めていると、侍女が甘えた声で抱きついてきた。ふにょんとした感触が脇腹に……。侍女がキスしてきたので、それに応えてあげることにした。彼女が甘い声を出すと、セリーヌ姫殿下の方が怒ってわたしと侍女を引き剥がした。



「レオンハルト! この、浮気者!」


「ごめん、セリーヌ。向こうからしてきたんだ」


「もう!」



 何という女たらしのセリフ。

 わたしはめげそうになる自分を励まして、侍女の下着と服を身に着けた。これで良し。胸がすごく余るのを気にしてはいけない!



 もうここに用はないので、わたしはさっさと片付けることにした。侍女に頭の上からすっぽりと囚人服を被せ、手錠をして、牢屋の戸を閉めた。



「ここで大人しくしているんだよ。わたしが帰るまで一人で慰めていなさい」


「はい、お父様……」



 これでしばらくは暗示が続くな。



「セリーヌ、ここから逃げよう」


「ええ、もちろんですわ」


「では、鍵を閉めてほしいと言って衛士を一人呼んできておくれ。そうして、わたしが良いと言うまで静かに待っていてほしい」


「わかりましたわ。愛しい、レオンハルト……」



 セリーヌ姫殿下は、指示通り衛士を一人連れて戻ってきた。鍵を閉めようと屈み込んだ無防備な首に一撃入れて気絶させると、侍女の居る牢に放り込んだ。さて、もう一人だ。わたしは頭巾を深く被ると、地下入口までセリーヌについて行った。





◇◆◇





 衛士はわたしたちを見てそのおかしさに気付くと、槍を構えて声を上げた。


「止まれ! なぜ、なっ!?」


 わたしの命令通りにセリーヌ姫殿下が衛士を突き飛ばす。

 姫相手に反撃など出来ず、衛士が尻餅をついたところで顎を蹴り上げて意識を刈り取った。



「うん、死んでない」



 喉仏を蹴り潰さなかったのだから、感謝してほしい。

 彼を見張り用の椅子に座らせて、壁に背をもたせかけると、うん、それらしく見える。これである程度ごまかせるだろう。大事なのは、露見しないことではなく、手間をかけさせることにある。



 わたしたちは外に出た。

 ここは城の中央部、貴族も滅多に入れないエリアである。人目は、無い……。わたしは、柱の陰に姫殿下を誘った。



「愛しいセリーヌ、アウグストとテオドールは遠ざけた……次はどうするんだったかな?」


「嫌だ、忘れてしまったの? しようのないひと……」



 姫殿下は、「テオドールお兄様はまだ王都にいらっしゃるけど」と前置きし、これからの計画をペラペラと喋った。



 ……そうか、ギュゼル様のお命を狙っていたのはこの女だったか。


 

 殺意が胸に沸き上がる。

 ギュゼル様はこの女を、お姉様と慕っていらっしゃったというのに。



「セリーヌ。ギュゼルと国王はまだ生かしておけ。別の使い途を思い付いた」


「でも、計画が……」


「いつでも殺せるさ。なぁ、頼むよ、セリーヌ。可愛い(ひと)……」


「あん……だめ、もう。わかったわ、レオンハルト」



 ……少し強めに暗示をかけておこうか。



 わたしはセリーヌの舌を吸い、ドレスの上から細い腰を撫で上げた。



「あ……んん……んむぅ!」


「セリーヌ、ギュゼルと国王はわたしのために取っておいてくれ。君なら出来るだろう?」


「はぁ……はぁ…………ん、わかったわ」


「それから……、アウグストの奴が『全てを白状しろ』と言ったら、わたしたちの計画を洗いざらい話してやろう。もうどうせ止められはしないんだ。奴の間抜けな面を拝んでやろうじゃないか」


「それは良いわ! さすがレオンハルトね。愉しくなってきちゃう!」



 馬鹿な女だ……。



「セリーヌ、わたしはまだ表舞台に立つには早すぎる。王家の抜け道に案内しておくれ。後で迎えに来るよ、わたしの、女王陛下」


「お待ち申し上げていることよ、レオンハルト。次に会うときには乾杯しましょ」


「わたしたちの未来に」


「私たちの愛にも」



 わたしはセリーヌの案内で抜け道まで無事に来た。これで城下町の何処かに出るだろう。……まだ力は残しておいた方が良いが、暗示のためにも(よう)()を注いでおくことにする。セリーヌはわたしの口づけを受け入れ、気をやった唾液を美味しそうに飲み下した。



 …………吐き気がするな。わたしにも、彼女にも。


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