表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王子は女騎士の腕の中で微睡む  作者: 小織 舞(こおり まい)
56/132

襲撃

こちらは本日二話更新した内の二話目です。読み飛ばしにお気をつけくださいませ。

 昨日は思い出したくもないくらい色々ありすぎて、眠った筈なのに疲れが取れていない。体は何ともないのに、全ての部位が重く感じてずるずると寝台から下りる。顔を洗おうか……。



 汲み置きの水も日に日に冷えていくように感じる。その冷たさが心地好かった。



「まさか二日酔いでもあるまいし……うん、無い筈。この体は大抵の毒は何とかなるから」



 いつになく独り言が出るのも疲れているからだろう。

 疲れて……ああ、恥ずかしい。



 酒に飲まれて失敗をしでかし、失言をして殿下との間に新たな醜聞の種を蒔いてしまうとは!



 何が引き際は心得ている、だ。

 肝心なことは何も言えないまま、己の浅ましい望みを口にして……!



 何故あの時、出た言葉が「愛してください」だったのだろうか……。頭を撫でられたのが嬉しかったのだから、「可愛がってください」でも「触ってください」でも良かったのではないだろうか?



 あ、「頭を撫でてください」が正解だったのかも……。

 昔、撫でてもらった……。そう、父に。アウグスト様がしてくださったのと同じように、父に撫でてもらったのだ。



 今頃どうしているだろうか。完璧な騎士、完璧な父親、完璧な……ひと。わたしみたいなのが居たから、出世も出来ず、今も独り身なのである。



 わたしがいつも足手まといで、役立たずだから……。早くに家を出て、一人で生きていこうと思った。でも、結局はそれも失敗続きだ。帰るのが心苦しいなぁ……。



 噂をすれば影、と言うが本当にそうだ。

 父から手紙が届いていた。



 何日も前のスタンプだ。どこかで迷子だったのだろう、汚れてクシャクシャだった。辛うじて、「今日の正午に王都の金物通り、裏手の店に寄る」とある。



 ……代筆を頼むくらい忙しかったのだろう。代筆者の名も併記してあった。



「ギュゼル様、今日はお休みを頂いてもよろしいでしょうか?」


「勿論よ、ルべリア。お父様がいらっしゃるんですもの、会ってこなくっちゃ!」


「ありがとうございます。あ、その仔は離さないでください!!」


「可愛いのに……」


「あんっ!」


「ひっ!?」



 ギュゼル様の腕の中でけだものが鳴く。……魔物めっ! ギュゼル様に噛み付く素振りでも見せたら切り伏せてやる!





◇◆◇





 お休みなので騎士服で出る訳にもいかず、私服で城下町に繰り出す。開襟シャツに革のベスト、手首にはナイフ、腰に背剣(はいけん)、革のズボン、そしてようやく届いた新しいブーツだ。



 足の指で操作すると刃が出たり入ったりする高度なギミックが付いているのだが、部屋で試しているのを婆やに見られた際……気持ち悪いものを見るような目をされてショックだった。……うぅ……。



 手紙にある時間より前には金物通りの裏手が見渡せる位置に陣取ったが、声をかけてくるのは女性ばかりだ。いつまで待っても現れず、正午を過ぎてちょっとお腹が減ってきた。父は時間に正確なのに、何かあったのだろうか?



 それとも……先程からこちらを窺う複数の男が示す通り、わたしがただ罠にかかっただけか。



 仕掛けるなら早く仕掛けてきてくれないだろうか、昼食を摂りたい。行くなら表通りに面した、羊肉の煮込みで有名な店が良いなぁ。まだ行ったことがないんだ。



「ルべリア・ラペルマか? おとなし……っぐぁあ!?」



 はい、一人目。

 背後から手を伸ばして来たので引っ張って壁にご挨拶。



「てめぇ!? ……げぼぁ!」

「あが……」



 二人目、三人目。

 二人で囲もうとしたのは評価するけど何故手ぶらなんだ。鞘付きの背剣で鳩尾を突く。わたしは優しいので、喉を突かないでやっている。



「おりゃあ!」



 また背後から。振りが大きくて遅すぎる。

 避けて無防備な頭を踏み、上へジャンプ。その時、もう一人別の男が角材を降り下ろしてきた。しかしわたしはもうそこにいないので四人目に角材が当たる。良い音だなぁ。



 五人目に回し蹴りを放って顎にぶち当てると、何と誰も動かない。……これで終わり?



 曲がりなりにも正規の騎士を襲うのに、まさかこんなに弱い刺客しか寄越さないなんて。あっけなさ過ぎる。



「死んでいないかだけ、確認しておきましょうか……」



 この手合いは捨て駒なので背後を洗っても意味はないだろう。

 だが、ま、罪は罪だし、裁判までは留置所にいてもらおうか。



「衛士さん、こっちです!」



 親切な人が衛士を呼んでくれたようだ。手間が省けた。路地に駆け込んできたのは、まだ若い女性が二人。確かに衛士の制服を着ている。



「お前、両手を挙げて投降なさい!!」



 あれ?

 これってもしかして……



「ひっ、先輩、この男……剣を持ってますぅ!!」


「手の物を捨てて! 大人しくするのよ!!」



 わたしが犯人ってことにされてる……。



「誤解ですから……。わたしは襲われて、反撃しただけですよ。ほら、剣は置きます」


「駄目よ、動かないで! 剣は捨てて!」



 えー。鞘に入っているけれど、落として曲がったりしたら嫌なんですが。



「何してるの、貴女たち。早く捕らえなさいな」


「隊長!」


「ユージェニア様ぁ!」


「……ユージェニア隊長?」


「あら、ルベリア。貴女どうして……」



 新米衛士二人の背後から現れたのは、女騎士を束ねる隊長格のお一人で、護衛騎士団“山猫の爪”の隊を一つ任されているユージェニア隊長だった。面倒見の良い姉御肌で、わたしのように落ちこぼれの下級騎士にも親切だ。



「わたしはこの男たちにいきなり襲われて、反撃しただけですよ」


「貴女がそう言うなら、そうなんでしょうね。さあ、二人ともこいつらを連れていきなさいな」


「しかし隊長、その男は……」


「彼女はルべリアよ。貴女たちの先輩騎士なの」


「えっ」


「きゃあん! 私のタイプぅ!!」



 一人反応がおかしいが、まぁ良いか。わたしはとりあえず男たちの連行を手伝って詰所に行く事となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ