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魔王子は女騎士の腕の中で微睡む  作者: 小織 舞(こおり まい)
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お茶会 2

こちらは二話続けて更新した内の二話目に当たります。前話はイジメの描写があり、不快に思われる方は飛ばしてこちらからお読みください。

 離れに戻ると、奥様と婆やが驚いた顔で迎えてくれた。時間は思ったより経っておらず、お茶会は始まったばかりだそうだ。



 あまり待たせたらお二人が心配なさるので、部屋に戻らずそのまま客間に顔を出すことにした。下着を穿いていないことを、何とか気付かれないようにしないといけない。



「ルべリア、お帰りなさい!」


「っ、ギュゼル様……ただいま帰りました」



 ……不覚にも、ギュゼル様のお顔を見ただけで涙が零れそうになり、懸命に堪える。



「わぁ、ルべリア、その格好はどうしたの?」


「実は、服に紅茶を溢してしまいまして。代わりにお借りしたのがこの服なんです」


「ふふふ、似合うわよ」


「いえいえ、そんな……」



 セリーヌ姫殿下に服を剥ぎ取られたなど、本当のことは言えないので、何とか言い訳を繕う。これで誤魔化すことが出来ただろうか。



「確かに似合っているね。いつもの騎士服も素敵だけれど」


「王太子殿下! これは失礼しました」


「頭を上げて、ルべリア」



 王太子殿下に挨拶もなく、主人と話すなんて礼儀がなっていない。わたしは侍女の礼を取った。王太子殿下はお優しいから、多少の非礼も許してくださる、だがそれではいけない。わたしは頭を下げたままでいた。



「そうだ、ギュゼル。さっきの素描をルべリアに見せてあげたら良いよ」


「まぁ、素敵! すぐに取ってきますね!」



 ギュゼル様は若い兎のように跳ねて二階へ行ってしまわれた。



「ルべリア、もう頭を上げて……」


「いえ、殿下。わたしは客ではありませんので、お気遣いなく」


「いや……、その、見えてるから……」


「!!」



 消え入りそうな声で、王太子殿下はわたしの胸元を指摘してくださった。わたしは思わず胸元を掻き抱いた。



「ごめん、さっき気付いて……」


「……お見苦しいものを見せてしまい」


「いやいや! 本当にごめん。まさか……アウグスト?」


「違います……!」


「だったら誰が……」


「殿下の名誉にかけて、アウグスト様の仕業ではございません」


「分かったよ」


「…………」


「もしかして、誰かにイジメとか……」


「…………」


「……辛かったね」


「っ! ……っ…う…!」



 嗚咽を堪えるわたしの背を、王太子殿下は撫でてくださった。



「ギュゼルが戻ってくる。もう休むかい? ギュゼルには上手く言っておくよ」


「あ、あり、がとう、ございます……!」



 王太子殿下はわたしの髪にキスを一つ落とすと、ギュゼル様を追って二階へ上がっていかれた。





◇◆◇





 しばらくの間、二人は戻っていらっしゃらなかった。わたしは無事、騎士服の予備に着替えることが出来、茶会の席に戻った。



 ……一人になると、セリーヌ姫殿下の笑い声が耳に甦って、居ても立ってもいられなかったからだ。



「あら、ルべリア。もう着替えてしまったの? 勿体ないわ、せっかくの侍女姿だったのに……」


「わたしは騎士ですから」


「もう大丈夫みたいだね。さあ、ギュゼルの絵も見てやってよ。一日頑張っていたんだから」


「あら、絵も頑張りましたけどそれよりも、テオドールお兄様のモデルをする方が辛かったんですのよ。(わたくし)が描き終えても動くなと仰って、大変だったんですからね」



 お二人は仲良く掛け合いを楽しみながら、順に絵を見せてくださった。ギュゼル様のお描きになった絵と、王太子殿下が素描なされたギュゼル様。どちらも素敵な絵だ。



「凄いでしょう? テオドールお兄様の絵は本当に素敵なの」


「ありがとう、ギュゼル。あまり褒められすぎると勘違いしてしまいそうだ」


「本当に綺麗です。ギュゼル様が絵筆を握る、緊張した面持ちが初々しくて、まるで目の前で見ている気分になりますね」



 見惚れてしまうくらい素晴らしい素描だった。王太子殿下の腕前は、噂通り、卓越したものだ。



「額に入れて飾りたくなります。色はお付けにならないのでしょうか」


「色か……。人物画は素描の方が得意だね。彩色画では庭しか描かないんだ」


「うわぁ、それもいつか見せてくださる?」


「ああ、勿論。約束だよ」


「約束ね!」



 王太子殿下は、ギュゼル様と楽しげにお話になっておられる。

 わたしは、それもうわの空に、先程の茶会のことを思い出していた……。



 セリーヌ姫殿下とのやり取りの中で一つ明らかになったのは、アウグスト様とわたしとの間にただならぬ関係があるのではないかと噂が流れているということ。



 トマス殿が怖れていた事が現実になってしまっている。

 醜聞がアウグスト様の地位を脅かすなら、わたしはもう、アウグスト様のお側にはいられない……。



 それに、騎士としての誇りを捨てたわたしは、もう、アウグスト様に顔向けするのも心苦しいのだ。騎士章も無くしてしまった。



 一度、王都を離れてみるのも良い考えかもしれない。

 ギュゼル様もわたしさえいなければ、醜聞や陰謀とは無関係で通せるかもしれないし……。



 かも、かもと可能性の話ばかり。

 行く宛ても、実家しかない。もうどうしたら良いのか……。



「と、いうわけで。ルべリアを借りていくね」


「素敵! 良かったわね、ルべリア」


「え……?」



 自分の考えで頭がいっぱいであったわたしは、お二人の話がまったく耳に入っていなかった。王太子殿下はにこやかにお帰りになり、ギュゼル様は夕食会の御支度に取りかかられる。



「あの、先程のお話、ちゃんと聞いていなくて……」


「大丈夫、(わたくし)とお兄様で全部お膳立てするから!」


「え……」



 いったい何のお話なのか。

 急に貸し出されて、まるで役に立たなかったとしても、怒らないでくださいね……?

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