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魔王子は女騎士の腕の中で微睡む  作者: 小織 舞(こおり まい)
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報告と甘いショコラ

「それで?」


「はい、ショコラを買っていったのは、パンドーラ商会の者で間違いないと」



 アウグストはルベリアからの報告を受けていた。

 ショコラは『薔薇の歓び』の物で、季節外れのスミレの砂糖漬けの注文は珍しいので店員もよく覚えていたという事だった。



 おそらく、パンドーラ商会の者がショコラを買い、中に細工をして『星々の煌めき』の包みに移したのだ。それに偽のカードを添え、いつもの荷運び人を使わずにじかにショコラを届けた。



 そうすることによって、確実にショコラを届ける事が出来るし、また、中身を検められる事もない。



 検閲を避けて荷物を運ぶには確実なところからの証文が必要であり、城で言えばそれは王室からの許可証である。見せれば通れる便利な証文だが、偽造は容易ではないし、死刑がまずないこの国でも、これは即死刑になる重罪だ。



 セリーヌを問い詰めたところで言い逃れをするだろうから、すぐに行動を起こすのは愚策である。まずはパンドーラ商会をはじめ、セリーヌと懇意(こんい)にしている連中の裏を探るべきだ、とアウグストは言った。



「パンドーラ商会と言えば、絹織物など主に婦人服を取り扱っておりますね」


「そうか。確か……ログサム卿もよく利用しているとか?」


「ええ。彼はよく土産を持って城に出入していますね。二の姫の御生母様などとよく話しているように思います」



 トマスとアウグストの会話に割り込めず黙っているしかないルベリア。彼女の関心は昼食の献立は何かしら、という事だけだった。



 ここから先はルベリアの出る幕ではない。腹芸は得意ではないし、何より、どう調査したら良いのかさっぱりだ。



 昼食の時間が近く、お腹がくぅと鳴ってしまう。

 トマスとアウグストの視線を同時に受けて、さすがのルベリアも頬を赤くした。



「……昼を用意させよう」


「いえ、わたしは……!」


「良い」



 トマスが外へ伝えに行き、アウグストは椅子に腰かけたままルベリアを手招きした。



 ルベリアが傍に寄ると、アウグストは言った。



「私の膝に座るか、床に跪け」

「はい」



 ルベリアは迷わず床に跪く。

 それに若干面白くなさそうな顔をして、アウグストはトマスからの土産の小袋からリボンを取り去った。中には丸く成形したショコラが入っている。



「口を開け」



 ルベリアは中身に見当がついていたので、迷うことなく従った。アウグストの指が触れるか触れないかというところで、ショコラが口の中に落とされた。



 ルベリアが口を閉じて味わうと、甘くて柔らかく、そしてほんのりとブランデーの薫りがした。



「素直だな、お前は。まぁ、腹の足しにはならないだろうが」


「美味しいです」


「なら良い。まだあるぞ」



 二つ目のショコラもアウグスト手ずから与えられた。ひどく愉快そうなアウグストを見て、ルベリアは、「この(ひと)は私のことを犬か何かだと思っているのだろうか」と胸の内で呟いた。



「どれ、私も一口いただくかな」


「っ!」



 アウグストは椅子から降りるとルベリアの隣に膝をつき、そのまま彼女の唇に舌を這わせた。



 思わず仰け反るルベリアの頭を片手の掌で受け止め、アウグストは囁いた。



「口を開け」





◇◆◇





 静かな室内に二人の吐息と口づけの湿った音だけが響く。アウグストはルベリアを寝台に組み敷いていた。



 ルベリアに触れると(いん)()が体から抜けていく。そしてそれはルベリアも同じ様だった。二人の()が合わさって陽炎のようなゆらめきが立ち昇る。



 為すがままにされながらも時々身を捩って逃れようとするルベリアを、アウグストは決して自由にはしない。



 しかし何故か、アウグストの体調が良くなるのに反してルベリアはこんなに苦しそうなのか。ひとしきり快楽を貪って満足したアウグストは、ふとそんな疑問に駆られた。



 唇を離して、荒く息をするルベリアを見下ろした。顔を背けたその目許に光るものを見つけて、アウグストの心は乱された。



「どうした、ルベリア……?」



 女の涙にうろたえるなど、ついぞ経験のないアウグストであった。しかもちょうどトマスが帰ってきたところだったようで、部屋の入口から膨れ上がる殺気にアウグストの背に嫌な汗が滲む。



「ちが、違うんです……、今朝は少し走りすぎて、(よう)が足りなくて……」


「それで動けないと?」



 トマスの言葉にルベリアはこくんと頷いた。

 その瞳は真っ赤な輝きを帯びており、その名の通り(ルベリア)の色だった。



「お前、その目は……」


「見ないでください。……恥ずかしい」



 恥ずかしさを感じる部分がおかしい。と思ったのはアウグストだったか、トマスだったか。



 とりあえず、ルベリアはこのまま寝台に横たえておくことにした。



「しばらく横になっていろ」


「でも……」


「命令だ」


「はい」


「その首元も寛げてやろうか?」



 アウグストは軽口を叩いてルベリアの騎士服に手を伸ばしたが、その手首はトマスに捕まえられた。騎士のひと睨みに肩をすくめる王子。やがて三人分の昼食が卓ごと運ばれてくるまで、ルベリアはアウグストの寝台でしばし眠るのだった。

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