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他の男と仲良くしておいて今更幼馴染の俺に告白してきても遅いんだと言いたかったが手遅れなのは俺だった  作者: 古野ジョン
本編

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第14話 球を追いかける

 さて。球技大会はつつがなく進んでいき、俺たちのクラスは運よくトーナメントを勝ち上がっていった。俺はというと、外野フライをバンザイしたり大暴投をかましたりなどの失態はあったものの、練習の成果もあって人並みにはチームに貢献することが出来ていた。


 試合は早くも準決勝。この回を守れば勝利となり、いよいよ決勝進出である。マウンドに立つのは松坂という男で、中学までは野球をやっていたらしい。今は俺と同じ帰宅部員らしいが、その割には力のある直球をポンポン投げ込んでいくので、大した奴がいるもんだと感心しきりであった。


「いいぞ松坂ー!」

「ツーストライクだぞー!」


 内野の方からは松坂を盛り立てる声が聞こえてきていた。状況は二死二塁で、ランナーが還れば同点になってしまう。ここを凌げば決勝に進み、朱里にプレーを見てもらうチャンスが出来るんだ。レフトの俺だってちゃんと守らなければ。気合いを入れてしっかり姿勢を低くし、じっと打球を待つ。


「おらっ!」


 松坂は力いっぱいに白球を放り、勢い余って声を漏らしていた。しかし打者も負けてはおらず、思いきりバットを振り抜く。カーンと金属バットの快音が響いて、鋭く低い打球が左方向へと飛んできた。


(やべえっ!)


 三遊間を抜けそうな打球を見て、慌てて前進する俺。まずい、このままだとバックホームで二塁走者を刺す必要がある。しかし俺はイチローでも新庄剛志でも英智でもないのだ。帰宅部四年半の歳月で培った弱肩では限界が――


「っしゃあ!」


 だがその時、救世主が現れた。サードを守っていた洋一が豪快なダイビングキャッチを見せ、ボールを掴み取ってみせたのだ。洋一は雄叫びを上げつつ、勢いのままに立ち上がって一塁へと送球した。その華麗なサイドスローはまるで往年の長嶋茂雄である。いや、テレビでしか見たことないけど。


「アウトぉ!」

「よっしゃー!」

「ナイス菊池ー!」

「流石だぜー!」


 一塁塁審が右手を突きあげた途端、ベンチも含めてチームメイト全員が大盛り上がりを見せた。その輪の中心にいるのはもちろん洋一。やっぱりアイツはスターだなあ。親友の持つカリスマ性を認識しつつ、グローブ片手にトボトボとベンチへ戻る俺であった。


***


「いやー、おつかれ周平!」

「何言ってんだ、お前の方がよっぽど疲れてるんじゃないのか?」

「あはは、こんなの朝飯前だよ!」


 グラウンドの隅で休んでいたところ、スター様が隣に座ってきた。打ったり走ったり守ったりと大活躍だったはずの洋一だが、汗の一滴も見せずに飄々としている。流石は普段サッカー部で鍛えているだけはあるというか。全く参ってしまうね。俺たちは少し休憩した後に決勝戦だが、女子たちの戦績はどうなのだろう。


「そういや、女子は勝ってるのかな」

「おっ、気になるのか? 流石だな周平!」

「ちげえよ……おっ」


 その時、体育館の方からうちのクラスの女子が走ってくるのが見えた。どうやらバスケの結果を伝えにきてくれるらしい。ちょうどよかったな。いつの間にか他の男子たちも集まってきて、その女子の話に耳を傾けていた。


「こっちも勝ち上がってるよ! ちょうど決勝が始まったところ!」

「「おお~!」」


 どうやら近江と朱里の活躍で順当に他クラスを倒しているらしい。クラスメイトの活躍に男子も皆喜んでいる。……あれ? 予定ではもう女子の試合は全て終わっているはずの時間だが。同じ疑問を持ったのか、洋一がそのことについて尋ねていた。


「ねえ、女子の試合って遅れてるの?」

「あっ、そうなの! ちょっと予定通りに進んでなくて」

「ああ……そうなんだ」

「うん! じゃあ私、戻るから!」

「そっか、わざわざありがとな」


 女子は体育館の方向へと再び走り去っていった。他の男子が決勝戦に向けてベンチへと向かう中、俺と洋一は顔を見合わせる。……これじゃあ、朱里は試合を観に来られないじゃないか。その時、俺の気持ちを汲んだのか、洋一は申し訳なさそうに口を開いた。


「……ごめんな周平、せっかく頑張ってたのに」

「い、いいって! お前が悪いわけじゃないんだからさ」

「いやあ、そうじゃなくてさ。梅宮さんにも悪いなあって」


 心底残念そうにしている洋一を見て、少し困惑する。どこまで良い奴なんだコイツは。普通なら「まあ仕方ない」で済ませる場面なのに、ここまで自分を責める人間もそうそういないだろう。


「なあ、洋一」

「なに?」

「お前、どうしてここまでしてくれるんだ?」

「えっ?」

「この間のさ、朱里のこ……告白もそうだけどさ」


 自分で言っててちょっと恥ずかしくなった。俺の話を聞いた洋一はきょとんとしてこちらを見ている。


「別になんでもないよ。お前と梅宮さんがうまくいけばいいなって」

「えっ、それだけ?」

「親友の恋を応援するのに理由がいるの?」

「……お前って、すごいな」


 洋一はさも当然といった感じで言い放った。イケメンにしか許されなさそうなセリフをイケメンが言うのだからすごい。いったいどうして俺はコイツと親友になれたのだろう。人間としての格が違いすぎる。


 しかし、しかしだ。コイツにだって己の恋はあるだろう。中学時代からの付き合いだし、洋一だって人並みには恋愛に興味があることは知っている。「彼女が欲しいなあ」と愚痴をこぼしていたのも聞いたことがあるしな。……だけど、よく考えれば具体的な恋バナをしたことはない気がする。誰が好きとか誰と付き合ってるとか、そういった話はしてくれないからな。この間見舞いに来てくれたときにも聞いてみたけど、結局はぐらかされたし。


「洋一、一つ聞いていいか」

「なんだよ、改まって」

「お前こそ、好きな人とかいないのか?」

「えー? 前にも話しただろ、そんなパッと思いつかないって」

「そっかあ……」


 洋一はそう言ってほほ笑んだ。その笑顔はいくらか作り笑いのようにも見える。やっぱりはぐらかすんだな。だけど近しい女子がいないわけでもあるまい。それこそ……同じ部活にもいるはずだ。


「近江とはどうなんだ?」

「えっ……」


 ――その瞬間、作り笑いが消えた。動揺する洋一を見たのはいつぶりだろう。それもこんなにはっきりと虚を突かれているのは初めて見たかもしれない。あまりの変貌に俺まで驚いてしまい、一瞬だけ時が止まったように感じられた。やがて洋一はハッとしたような表情になったあと、再び微笑んで口を開いた。


「由美とはそんなんじゃない。違うよ」

「へえ……結構仲良しに見えるけどな」

「別にいいだろ。同じ部活なんだから」


 洋一は投げやりに答えた。コイツにしては珍しく、なんだかいらついているようにも見える。……まずいことを聞いたかな。名前で呼び合っているくらいだし、親密なのかと思っていたけど。どちらにせよ失礼をお詫びしないとな。親しき仲にも礼儀ありだ。


「悪かったよ、勝手なこと言って」

「い……いや、俺の方こそ。気にしないでくれ」


 形式的には俺に謝っているが、むしろ洋一が自らを宥めているように聞こえる言葉だった。うーん、洋一がここまで取り乱すとはな。なんだか気まずくなっていたところ、タイミングよくクラスメイトたちの呼ぶ声がした。


「菊池ー、嶋田ー、試合だぞー!」

「オッケー、今行くー!」


 洋一はいつもの声色で元気よく答え、立ち上がった。そして何事もなかったかのように俺に手を差し出し、掴むように促してくる。


「さ、いくぞ周平!」

「よっしゃ、行くか!」


 そうだ、今から始まるのは決勝戦。活躍する姿は見せられなくとも、優勝したと聞けば朱里も喜ぶだろう。洋一の手を借りて立ち上がり、グラウンドへと駆ける俺であった――

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