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32話 火事にはご注意を

「シギャアアアアアアアアァァッ!!」


 顔の付いた古木の魔物、『キラーツリー』。

 複数ある幹の内、特に太い一本を腕のように振るい、俺達を薙ぎ払おうとしてくる。


「ふんッ!」


 俺はその一撃を、自らの腕で受けた。

 キラーツリー自体危険度の高い魔物ではあるが、それは『キラーアップル』を使途する広範囲に被害をもたらす戦略的な面が大きい。

 単純な近接戦闘能力ならば以前倒したデモンタウラスやワイバーンには及ばない。

 当然相手からのこの攻撃も難なく受け止める事に成功する。

 ────と思いきや、受けた枝が鞭のように大きくしなり、俺の身体に巻き付き足した。


「うおっ!」


 予期しない攻撃に、思わず怯み動きが止まる俺。

 そんな俺に、リリティアがすかさずフォローに入る。


「アッシュさん! 【ハイウインド】!」


 リリティアは手から発射した風の刃で、俺に巻き付いている枝を切断しようとする。

 が、思いの外キラーツリーの動きは素早く、枝は俺の身体を大きく持ち上げながら【ハイウインド】を回避した。


 更にキラーツリーの頭の辺り、つまり葉が生い茂っている場所から、複数の赤い果実が素早く膨れ上がっていく。

 果実が一定の大きさになった時、それらに突然あ狂暴な目と口が現れ、地面に向かって自然落下を開始した。


「きゃあっ! キ、キラーアップル……! 【ファイアー】っ!」


 突如現れた無数のキラーアップルに対し、リリティアは追い払うように火球を発射。

 いくつかは奇声を上げながら焼きリンゴと化したが、残りの個体は恐れも知らないのだろう、真っすぐリリティアの方へ跳ねながら向かっていく。


「ヌンッ!!」


 そこで俺は、上半身に全力の力を込め巻き付いている枝を内側から引きちぎった。

 空中で自身を支えていた枝を失う事で俺もまた地面に落下を開始する。


「リリティア!」


 その落下の途中で俺はいくつかのナイフを取り出し、リリティアに襲いかかるキラーアップル達の内、よりリリティアに近い数体に投擲。



「ギャッ!」

「ガッ!」

「アップリャ!?」


 ナイフは見事それぞれ相手に命中し、キラーアップル達はやはり奇声を上げて動かなくなった。

 そして残るキラーアップル達に対しては、リリティアが既に攻撃の準備を終えていた。


「もー! ……【フレアバアアァーン】っ!!」


 やや長い溜めから展開された炎の魔法。

 前方広範囲に対し爆炎を巻き起こし残ったキラーアップル達を一掃しながらキラーツリー本体にも炎を巻き込まさせダメージを与える。

 俺もちょっと巻き添え食いそうになったんだけど。危なくなかった? 今。

 それはそうと地面に着地した俺は、とりあえずリリティアの方へ駆け寄り声をかけた。


「大丈夫かリリティア」


「アッシュさんこそ、いきなり捕まっちゃいましたね」


 言うようになったじゃねーかこのヤロウ。


「でもありがとうございます、助かりました」


 そしてその後に真っすぐ礼、か。

 ……本当に言うようになったじゃねーかこのヤロウ。


「しかし驚いたな。お前魔法は風が得意じゃなかったのか? いつの間にこんな炎の大魔法を……」


「えへへ、凄いでしょ! ……出会った時と違ってアッシュさん、自分で火くらい吐けるようになっちゃいましたから……」


 ん? ……そう言えばリリティアと出会いたての時は、炎での攻撃も魔物肉の過熱もリリティアの魔法だよりだったな。

 そりゃ俺がデモンタウラスを食ってから火炎息吹も出来るようになったが。


「だから私! 炎の魔法も練習しました! これなら超強火でお肉焼けます!」


 ドヤ顔で語るんじゃねえ、俺に消し炭を食わしたいのかこのヤロウ。


「ギシャ……ギャシャシャシャシャアアァァ……!」


 会話をしている前方で半分焼け焦げ、今尚頭の辺りが燃え続けているキラーツリーが声を発しながらこちらに近づいてくる。

 こんな状態になっても戦意は衰えていないようだ。動物系の魔物と違って、恐らく恐怖の概念がないんだろうな。

 ……心がない分、機械のように旅人や他の生き物を襲い続ける生物なのだろう。

 放っておく理由も特にないし、遠慮なく引導を渡しちまって構わんよな。


「リリティア、じゃあさっそくコイツを超強火で頼めるか?」


「任せて下さい! ……もいっちょ! 【フレアバーン】っ!!!」


 再び巻き起こる大爆炎。

 今度のソレはキラーツリー本体に直撃し、その巨体を消し炭に変えた。


「やったー! やりましたよアッシュさん!」


 真っ赤に染まった景色を眺めながら無邪気にぴょんぴょんと跳ねるリリティア。

 指示しといてなんだけど、コレ不必要に燃え広がったりしない? 森消滅したりしない?

 ……という心配に天が答えたのか、炎はさほど燃え広がらずに沈火していった。


「うん、よくやったリリティア」


「えへへ! もっと褒めてくれてもいいですよ!」


 リリティアの頭をワシワシと撫でてやり、先に進もうと一歩歩いた時、俺の中からいつもの声が聞こえた。


 ──コイツを喰らえ──


 ええー……【暴食】さん、コレ、消し炭ッスよ? 勘弁してもらえません?


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