28話 新天地での初依頼
ミスリーは俺とリリティアのすぐそばまで来ると少し申し訳なさそうに眉を顰めて口を開いた。
「ごめんなさい、椅子飛ばしちゃって。ケガ、ないかしら?」
ああ、そういえば最初にこっちに飛んできたな、スッカリ忘れていたぜ。
なるほど言われてみれば危なかったな。当たっていたら大ごとだ。
別に問題も無かったけど一応注意か文句でも言ってやろうか? そう考えているとリリティアの方が口を開いた。
「大丈夫です。飛ばしたのは相手の男の人たちですよね? お気遣いありがとうございます」
リリティアの方がしっかり見ていたようだ。やっべイチャモンつけるところだった。
「ああ、大丈夫だ。……さっきの奴らはなんだったんだ? 君は一体?」
「私の名前はミスリー。普段は冒険者やってて、一応Bランクよ。今は依頼の一つで用心棒やっててね、あの人に雇われてさっきの借金取り共を追い返していたの」
ミスリーはそう言って後ろに手を向ける。
依頼主らしき小男が困ったような笑みを浮かべながら自分の手を揉んでいる。
なるほどそういやたまにそういう依頼もあったな。
男たちの話を聞く限りは、金利はともかくそこそこ筋が通ってそうな話にも思えたが、まあそこは首を突っ込むべき所じゃないか。
仕事中、たまたま椅子が俺達の方向へ飛んだためミスリーは自分の責任ではないとはいえ俺達に一言声をかけに来た。ただそれだけ、特にこの場で話し込む必要はないだろう。
「そうか、俺達も冒険者でランクはDだ。またどこかで会ったらよろしく頼む」
そう言って立ち去ろうとしたが、相手から更に声がかかる。
「……ふーんアンタ達、おかしなスキル持っているみたいね」
「え?」
ミスリーの言葉に、リリティアが声を上げた。
「あ、ごめんなさい、余計な詮索だったわね。じゃ、私も仕事あるからこれで」
そう言ってミスリーは踵を返し小男の下へ戻っていく。
「……ねえアッシュさん、あの人、どうして私たちのスキルの事わかったんですか?」
……リリティアが感じた恐怖の感情。ミスリーが感づいた俺達のスキル。……未開洞窟でオルディエと出会った時も俺とリリティアはそれぞれ【暴食】と【色欲】がオルディエの【憤怒】に対して反応を示した……
「さあ、な……」
だが考えても明確な答えは出ないだし、追及するのも危険が絡むかも知れん。
俺達は当初の予定通り冒険者ギルドの方へ足を運ぶことにした。
◇
さて、気を取り直して依頼を漁った結果、一つの依頼を選ぶことにした。
「『迷子の猫ちゃん探し』ですか~。アッシュさん、たまには可愛いの選ぶんですね」
「ああ、今回コイツを選んだのは理由がある」
「え、なんですか? 猫ちゃん可愛いからですか?」
「この町の地理を知るためだ。それにはこういう依頼を選んでいた方が、裏道なんかを歩いているときに第三者が余計な詮索をしてきた時に答えられる」
「地理を知るため? 可愛い猫ちゃんも確かに裏道とかいそうですけど」
「ああ、この町に滞在するなら色々な側面を見ておいたほうがいい。……リリティア、お前の提案でこの町にやってきたんだから何か他に考えがあるなら言ってもいいぞ」
「あ、私もこの依頼がいいです。猫ちゃん可愛いですし」
「おうそうか、わかった。言っておくがまともに探す気はないぞ、見つかったらラッキー位だ」
「えー! 真剣に探さないんですか!? せっかくこんなに猫ちゃん可愛いのに!?」
「こんなデカい町でこんな小さな生き物を狙って見つけろって方が無理だ。あくまで地理探索の口実がメイン」
「むー、それなら私は頑張って探します。エルフですから耳良いですし、私も可愛いですし」
後半は意味がわからん。まあいいや。
話が纏まった所で何気なしに横を見ると、先ほど見た顔が目に入った。
「あークッソあの女め邪魔しやがって!」
「兄貴! 舐められっぱなしじゃやっていられねえ! なんとかしましょうぜ!」
あのジャラジャラした格好の銀髪オールバックは確か……なんとかファミリーの、ジャヴィッツとかいうヤツだったか。
さっきは5~6人いたはずだが人数が二人にまで減っているな。他の奴らはどこかに行ったか。
冒険者ってわけでもなさそうだが、ここは酒場も兼ねている。ああいう奴らも良く来るもんだ。
……この町の情勢も多少気になるし、もしもミスリーが俺達と同じ『大罪スキル』持ちなら何か情報が得られるかも知れんな。
「あれ、アッシュさん立ち上がってどこに行くんですか?」
「アイツらと少し話をしてくる」
俺はすぐにジャヴィッツ達が囲っているテーブルの空き椅子に座ると店員に向かって声をかけた。
「スマン! エールを三つ頼む!」
俺の後を追ってリリティアもパタパタと近づいて来て、俺の隣の椅子に腰を下ろした。
ジャヴィッツは俺達の方をジロリと睨みながら口を開く。
「……なんだい? 俺達に何か用か?」
「いやあ俺達二人はこの町に初めてきた新参者でね、アンタ達この町の事詳しそうだと思ってさ、色々聞かせてくれねえかな?」
ジャヴィッツは運ばれてきたエールを受け取ると「フンッ」と鼻を鳴らし口に付けた。
さっきミスリーにボコられて機嫌は悪そうだが、その状態でよそ者の話を聞く姿勢を見せたなら案外良いヤツかも知れん。
「ああいいぜ、何を聞きたいって?」
「このボベリウの町は昔に来たことがあったんだが、その時はただの田舎の村だった。それがここ数年で一気に発展したらしいじゃないか、どうしてだ?」
俺の質問に、ジャヴィッツはニヤリと笑いながら口を開いた。
「ああ、そいつぁー間違いなく俺達シザリックファミリーの功績だな」




