23話 食事の後で
ワイバーンを食った後、俺の中での新たな力の発現を感じ取っていた。
ワイバーンから習得できるスキル、それはあの炎のブレスだと思っていた。それならばデモンタウラスのものが既に俺の中に宿っている。であれば今回は得られるスキルはないだろうと思っていた。
が、目を閉じて集中すれば、周辺広範囲の生物の鼓動のようなものが聞こえてくる。
なるほど帰宅中のワイバーンが隠れている俺達にすぐに気がついたのはこのスキルのおかげか。
ワイバーンのように常時発動とまではいかないようだが、これならば生物に関しては超音波以上の索敵機能を誇り燃費もいい。というかちょっと意識を集中するだけで消耗するものがほとんどない。
超音波のようにモノの形なんかはわからないから使い分けが重要そうだな。
「あー食った食った! ごちそう様!」
「美味であった。ごちそう様である」
「美味しかったですアッシュさん! ごちそう様!」
ワイバーン肉の食事を終えた後、皆がが盛大に満足そうな声を上げた。
料理したものを美味しく食ってもらえるというのは作った側として喜ばしい事。
その後俺達は協力して後片付けを行った。
といってもワイバーンの残骸はギルドに持って帰る素材以外は捨てていくし、鍋や食器を水場で洗う程度のものなのだが。
それが終わった後再び同じ場所に集まると、今度はイオスが声を上げる。
「ミトロ、ドーマ」
仲間二人に対しての声かけ。
その二人はイオスの言葉の意味を理解しているようだ。二人とも軽く笑いながら返事を返す。
「ああ、文句ないよ」
「オレも異論はない」
知らんうちにこの三人で何かを話し合っていたみたいだな。三人とも真っすぐ俺とリリティアの方へ視線を移してきた。
さて、どんな話が飛び出してくるか。
「アッシュ、依頼報酬の分配の事だが、『ワイバーンを仕留めた者が誰かに関わらず俺達に8割』だったよな」
ああそう言ったな。何を今更。もっと欲しくなったか?
「あれだけど、流石にそんなに貰えない。何せここまでの魔物や他の依頼参加者との戦いもワイバーンとの戦いも、殆ど君達の功績だからね」
「それに加えてアンタらが欲しがっていたワイバーン肉も私らごちそうになっちまった。とてもじゃないけどアンタらに利益が無さ過ぎるだろう」
「精々が人数等分の6:4……5:5でも構わん」
なんだそんな事か。いらん遠慮しやがって。
一通り発言を聞くと俺は立ち上がった。そして顔を綻ばせ声を上げる。
「いいや分配は当初の予定で構わないぜ? 依頼報酬は、な」
その言葉に三人は怪訝な表情を浮かべた。
◇
「な、なんだこれは……!?」
今俺達が立っているのは、ワイバーンが住処にしていた洞穴の内部。
そこで見た物に、イオス達は絶句した。
金銀財宝。一つや二つじゃない。五人がかりでなんとか持っていけるだけの相当な量だ。
「やっぱりな。翼竜ってのはこういった光物を貯め込む習性があるんだ。食う訳でも使う訳でもないから理由はわからん。ただの趣味なのか金属からエネルギーでも貰っているのか。それでアイツは俺が出会ったことのあるワイバーンのなかでも速度もブレスの威力も優れていた。力のある個体ならば相当な量を貯め込んでいると思ったよ」
ワイバーンの住処を判別できることは稀だ。大抵の場合、倒す時はヤツの散歩中になるからな。その為この事実を知っている冒険者は少ない。
しかしそれにしても多いな。大当たりだ。
「は、ははは! これだけで一財産じゃないか! アッシュ! アンタこれを知ってたのかい!」
「うむ……! この財宝の前では依頼報酬の額など霞む……!」
驚く三人を尻目に俺は思考する。
五等分でもいいが、相当な恩は売れたようだ。さっきドーマもああ言ったしちょっと欲張っても文句は出ないだろう。
「じゃ、コイツはチームで半々って事で俺達が5割もっていってもいいよな?」
「……世話になりっぱなしだね。文句ないよ」
顔を綻ばせたままのイオスの言葉に他の二人もうなずく。
ワイバーン討伐は大成功。財宝を持って無事帰還した。
依頼をこなし美味いものも食えた。
予想外のスキルも習得して財宝も手に入れた。
何事も万事上手くいっている。
全てに満足する俺はこの時まだ、リリティアの変化に気がついていなかった────
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アッシュ・テンバー
『スキル一覧』
・【暴食】
・雷撃
・神経毒
・液体操作
・超音波
・火炎息吹
・色彩同化
・索敵
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