20話 自然の中の対人戦
「なんだ? 盗賊か!?」
矢が飛来してきた事実にイオスが叫ぶ。
盗賊だったらまだいいんだがな。後味的に。
矢が飛んできた方角は斜め上。つまり敵は木の上か。
俺は再び口から超音波を展開した。
さっきは周囲の情報が多すぎてどこになにがあるのか把握しきれなかったが、大体の方角さえわかればそちらに索敵意識を集中させればいい。
いる。木の上に三人。前方に四人。
「全部で七人だ! 地上に四人! イオス! 前方の四人は任せた! リリティア! 状況を見極めてどちらかをフォローしろ!」
「お、おう!」
「はい!」
二人の返事を聞くのが早いか動くのが早いか、俺は木の上に向かって大きく跳躍した。
もはやひとっ跳びで枝の上まで簡単に移動できるほどの身体能力が身についている。
「すご……!」
後ろからミトロのそんな声が聞こえたが、とりあえずそっちを向いている暇も意味もない。
飛来してきた矢は今度は地上ではなく木上の俺に向かって放たれ出した。
相手も混乱しているな。上から下に矢を降らすのとはわけが違う。枝や葉が邪魔になってロクに狙いが定まらねーよ。
その攻撃の殆どを無視し、たまたま俺に命中しそうな軌道のモノは短剣で打ち落とす。
そうしてさほど時間を置かずに相手への接近に成功。
弓矢を持ったむさい男が三人。
やはり、全員見た顔だ。
「く、クソ!」
「化け物め!」
接近を許して尚、弓矢を俺に向ける男達。
と言うかもうそれしか手段がないんだろうな。もともと木上での行動に長けているわけでもない。頑張ってよじ登って固定砲台になったに過ぎないのだろう。つまりコイツらは今から素早く逃げるという選択肢は取れない。
俺も身体能力が身についてからの木上の移動に慣れているわけではない。
が、Sランクパーティの下っ端として密偵の真似事くらいはしてきた。コイツらよりは幾分かマシだろう。
案の定相手の射撃は殆ど当たらない。
俺は素早く相手の一人に接近すると、思いっきり跳び蹴りをかました。
「うああああああああぁッ!!」
当然男は落下する。
数メートルの高さで下は柔らかい土の地面だ。生きているだろうが戦闘不能だろうな。
そこで俺はバランスを崩しそうになった。
っと危ない。俺まで落ちるのはマヌケだからな。着地さえしっかりすればまた上へあがる事も出来るが、弓矢の真下から行動を始めるのは流石に危険だ。
残りの二人はこちらに弓を向けて引き絞る。
どうせ当たりはしないだろうが、不用意な接近戦で落ちるのもごめんだ。木上移動の練習はまた今度やっておこう。
「はあッ!!」
そこで俺は一人に向かって右手のナイフを投擲し、もう一人には左手から生み出した雷撃を発射した。
「ぐわっ! ……あ!」
「ぐあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……ああッ!!」
それらの攻撃は両方が命中。俺の方が射的も上だな。
ナイフを受けた相手は弓矢を落とし、雷撃を受けた相手は落下して更なる悲鳴を上げる。
相手が残り一人ならもう仮に自分が落ちてもいーや。
俺は怯み、武器を持たない相手に接近を試みる。……が、地形の運が悪かった。
枝が邪魔で飛び掛かる事は困難。
やや迂回しての接近をしようとすると、その間に相手が腰から短剣を抜いた。
身のこなしは俺の方が上。しかし不安定な足場での接近戦となると相手の出方によっては俺に一矢報いる可能性もあるな。
「【ハイウインド】ッ!」
と、そこまで考えた所で地上から風の刃が飛んできて、残りの一人をなぎ倒し落下させた。
ナーイス、リリティア。
リリティアからの援護が来たって事は地上の戦いはもう終わったか?
……そうでもないみたいだな。押してはいるが数は同じ。相手も中々のものだ。
つまりリリティアは『地上の戦いは負けは無いけど、一見有利に見える俺の状況は一応危険がある』と判断を下せたわけだな。
もしくは慣れないチーム戦に仲間の背後から援護射撃がしにくかっただけかも知れないけど。
四人中一人を既に倒していているようだ。やはりイオスが強いな。チームワークに優れた仲間のフォローがあるとはいえ、前衛一人だけであの人数を相手している。なるほど守りを主体の堅実な動きをしている。我先にと敵陣に飛び込むのはあくまで後衛の仲間に攻撃をさせないためで、あの戦い方がアイツの本流か。
さて、では俺も加勢に行くか。
魔物を複数喰らい色んなスキルを習得した。初の試みになるが、もうアレが出来る事は感覚でわかる。
俺はあまり音を立てずに、相手の背後に回る様に地上に降り立つ。
木々は揺れただろうが戦闘に夢中な地上の連中はそれに気づかない。
イオスと接近戦をしている三人のうちの一人の頭に狙いを定め、
「へぶあっ!?」
背後から上段回し蹴りをかました。
「「「は!?」」」
吹き飛ぶ男を見て、三人が見事にハモる。
他の二人と、イオスの声だ。
そう、今の俺は目を凝らしてよく見ないと姿がわからない。カメレオンスライムの能力だ。
身体そのものを背景に混じらわせる能力かと思ったが、俺が纏う衣服にも作用されているようだ。
本家よりも同化能力は粗く、警戒されている相手にはすぐにバレるが乱戦の中であれば効果抜群だな。
呆然とする三人を余所に二人目を殴り倒し、三人目がようやく俺の存在に気付いた所でその男の腕に矢が命中。ミトロだな。
怯んだところでイオスが斬り伏せた。
◇
男たちはこの戦いで全員戦闘不能に陥ったが誰も死んではいなかった。半分くらいは死んだかと思ったが運が良かったな。
「アッシュさん大丈夫ですかあ?」
「ああ、ナイスな援護だったぞリリティア」
他愛のない話をしながらのびている男たちを順に縛っていく。
全員を縛り上げ終わると、イオスが口を開いた。
「コイツら……先日も見たぞ。今回の依頼で冒険者達が集まったあの場にいた連中じゃないか!」
ミトロとドーマも戦いの中でそれに気が付いていたのだろう。困惑の表情を浮かべている。
この三人はやっぱり予想していなかったか、この事態に。
「ああ、こういう依頼にはよくある事だ」
「え? どういう事?」
俺の言葉に反応するミトロ。
俺は前パーティにいた時から相当な数の依頼をこなしてきた。その中には今回の様な『成功報酬を極端に分配するケース』もいくつもある。
「ワイバーン討伐成功の報酬は一冒険者が目の色を変えるほどのものだ。それならこうやって『ライバルを減らした方が効率がいい』と考える連中が少なからず出てくるのさ」
俺の言葉にイオス達は驚きの表情を見せる。が、すぐにやるせなさを見せながらも納得したようだ。
「……コイツらはどうする?」
ドーマがまだ伸びている連中を見下しながら俺に聞いてくる。
「向こうから殺しに来たんだ。殺されても文句は言えない立場だろう。……殺したいやつ、いる?」
俺の問いかけに全員が首を横に振る。
ふむ、優しい奴らだな。前パーティではオリアやメイは積極的に殺してたけど。
ユナイトやプリエスはなるべくは殺さない主義だったがそれも状況や被害と相談して、だ。
「それなら身ぐるみ剥ぐだけで許してやるか。武器数個だけは残しておいてやろう、魔物に食われる可能性が減る」
そう言って慣れた手つきで嬉々として男たちを物色する俺に、他の四人は若干引いた。
が、俺の行動が正しいと感じ取ってくれたのだろう。すぐに同じように使えそうなものを回収し出す。
まだまだ青さは残るが良いパーティだ。
────────────
アッシュ・テンバー
『スキル一覧』
・【暴食】
・雷撃
・神経毒
・液体操作
・超音波
・火炎息吹
・色彩同化
────────────




