19話 各人の活躍
翼竜ワイバーン。
奴が住処にしているという小さな山に俺達5人は訪れていた。
山の中は木々が密集している。どこから何が襲いかかってくるかわからない。
そのため以前の洞窟内のように口から超音波を発してその反響で物陰から襲ってくる魔物などに警戒しようとする。
が、うまくいかない。
超音波自体は出ているのだ。しかし物の位置が上手く把握できない。
理由はすぐに分かった。木々が密集しているとはいえここは屋外。
必ず当たる壁に覆われた室内と違って超音波の方向によってはどこまでも飛んでいく。
また草や木の葉は常に風で揺れているため形をうまく把握しにくい。
蝙蝠等の超音波を元々使う生き物はこうした屋外でも問題なく活用している。鍛錬すればこういった場所でも機能しそうだが、今の俺ではまだ難しいみたいだ。
そしてこの技は燃費が悪い。余裕がある時ならともかく他のパーティとチームを組んでいる今、無駄に消耗する事はしない方がいいだろう。
「どうしたアッシュ、大口開けながらマヌケ顔して」
弓使いのミトロが声をかけてきた。コイツ意外と毒舌だな。
「魔物を警戒しようと……いや、なんでもない」
超音波が出せることは言っていないし、特に言う必要もないだろう。
魔物が出かねん山の中で『大口を開けて油断している男』でいいやめんどさいし。
しかし、言いかけて止めた俺の言葉にドーマが反応した。
「魔物……? 【アンチクリア】!」
ドーマは先端が折れ曲がった木の杖をかざしながら大声で叫ぶ。
すると数メートル前方に突如何かが現れた。
全長1メートルにも満たない柔らかそうな半球体。数は4体。
目の様なモノがジッとこちらを見つめており、その身体はプルプルと震えている。
「カメレオンスライム!? こんなに近くにいたのか!」
イオスが叫びながら剣を抜く。お、おう。そうみたいだな。
カメレオンスライムはさほど狂暴なわけでもなければ戦闘能力自体が高い魔物というわけでもない。
が、この擬態能力が厄介で気が付かないうちに接近を許し、先制攻撃をされいらない被害を受けることが多い。
個体によっては酸を持っている事もあり、その場合はそのまま暗殺されかねない危険生物だ。
「く! コイツらに気が付いていたのかアッシュ! 私とした事が索敵能力で負けるなんて!」
「流石はアッシュさんです!」
ミトロとリリティアもそれぞれ口を開いた。
別に下がってもいいと思った俺の株がなんか知らんが上がったようだ。
そしてこのカメレオンスライム、相手からの攻撃手段はせいぜいが『飛び掛かる』程度のもの。
動きも速くなく姿さえ現しているのなら苦戦する相手ではない。
「はぁッ!」
「たあッ!」
「【ハイウインド】!」
「【フルフレイム】!!」
イオスがすぐに接近に斬りかかり、ミトロは矢を番え発射。
リリティアが風の刃を生み出し、ドーマは炎の筒で攻撃。
瞬く間に四体のカメレオンスライムは殲滅された。
イオスの剣技の練度は高い。誰よりも先に前線に踏み出す度胸も良いな。
ミトロも矢を番えたと思ったらすぐに発射した。殆ど狙いを定める時間を使っていないにも関わらず標的のど真ん中に命中させる技術は、中距離弓使いとして一流だろう。
リリティアが手を広げながら魔法を展開しているのに対して、ドーマは殴り飛ばすように拳から熱線を発射したな。てか魔法の杖は使わんのかい。
あ、俺だけ何もしてねえや。お前らの動き見たかったってのもあったけど皆行動早すぎ。リリティアまで働いたってのに。
「すまないアッシュ……大口開けてマヌケ顔しているなんて言って……アレは何かコイツらを探知するためのものだったんだな?」
いやスマン、ホント大口開けてマヌケ顔していただけだわ。完全にドーマの功績だ。
せっかく株が上がってるし黙っとこうか。……いや、ちょっと後ろめたくなってきた。やっぱりここは正直に話そう。
「いや、俺は何もしていない。いち早く色彩同化解除魔法を使ったドーマのおかげだ」
俺の言葉にイオス達は感心したような表情を浮かばせる。
「アッシュ……君は本当に人間が出来ているんだね」
「私、正直アンタの事舐めてたよ……たった二人であの未開洞窟の奥まで行ってくるわけだ」
「立ててくれた事、感謝する。だがオレも手柄を横取りするほど横着者ではない」
「流石です! アッシュさん!」
偉く誤解されてしまった。今日は何をやっても株が上がる日なのかも知れん。
てかリリティア、お前はそろそろ付き合いも長くなってきたんだし本当はわかっているだろ。さっきから真顔で褒めたたえるの止めろ。
話はそこそこにカメレオンスライムの死体の近くを通ろうとした時、またもや俺の中から声が聞こえた。
──『コイツを喰え』──
マジっすか【暴食】さん。こんなよくわからん生き物俺に食わすの? 今俺の株メッチャ上がってるんだけどそんな所見せたら大暴落しちゃうよ? 勘弁してくれない? でもなんかコンニャクみたいで美味そうに見えてきた。よし、食おう。
「ちょっと待ってくれ」
一声かけると、俺はもう動かないカメレオンスライムを一つ拾った。
イオスが斬り捨てて半分になっているヤツだ。
ドーマの炎魔法で倒した個体は殆ど溶けている。火を通すのは得策ではない。
塩でも振って食ってみるか? いや、そもそも塩が合うかどうかもわからん。動物型の魔物と違って味がイマイチ予想できん。
よし、とりあえずそのまま食ってみるか。
モグ! クッチャクッチャ!
……おお、なんと、甘い!
これは飯ではないな。甘味、デザートだ。そのまま食っても十分いけるが砂糖をまぶすと良さそうだな。
確かあったはず……よしあった。
……うん、美味い! コンニャクというよりゼリーだな。しかも弾力もあり噛めば噛むほど少しづつ味が変わり、その変化も中々楽しい。疲れた時や休日の午後の一息の際に食いたい味だ。
なるほどスライムはデザートかぁ。今度本格的に甘味との組み合わせを考えとこう。
……気が付いたらイオス達三人が驚いたような顔でこちらを見ている。
こんな事にはもう慣れているリリティアだけは真顔だった。
「……食うか?」
スライムを差し出す俺。
三人は顔を引きつらせて後ずさった。
「いや、遠慮しておくよ……」
「私も……いい」
「オレも……」
「アッシュさん流石です! ……あ、違ったか」
まあそうだよね、どう見ても変人だよね。株が下がるのはわかっていた。でもゴメンな。食わずにはいられなかったんだ。あとリリティアお前は後で説教な。
と、そこまで思った時に前方から、つまりイオス達からすれば背後から殺気が放たれるのを感じる。
「危ない!」
俺は素早くそちらに駆けだした。
イオス達が実に滑らかに道を開ける。オイ、そんなに避けるな。傷つくだろ。
だがその動作自体は正解だ。
数瞬前までイオスがいた場所に、つまりは今俺が立っている場所に矢が飛来する。
俺はソレを短剣で叩き落した。
「な!」
「え……?」
「なに!?」
三人がそれぞれ驚愕の声を上げた。
魔物が襲いかかってくるならいざ知らず、矢が飛んでくるとは予想もしていなかったのだろう。
リリティアは素早く攻撃が来た方向に視線を向け身構える。
「まだ来るぞ! 警戒しろ!」
俺の言葉を聞いて、他の三人もようやく戦闘態勢に入った。
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