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18話 再会

 『翼竜討伐』の依頼のため訪れたのはとある町。

 背中に翼で自在に宙を舞い、強靭な力と獰猛な性格で人を襲う空飛ぶ魔物『ワイバーン』がこの町の近くに出現したらしい。

 で、そこで待っていたのは十数人の冒険者達。


「うわー、いっぱい人いますねー!」


「報酬も高かったからな、しかし、この人数で山分けとなるとさほどでもなくなる」


 俺の最大の目的はワイバーンの肉。金は重要だが二の次なので別に構わんが。


「お、まだ他の参加者がいたのか……ってアランじゃないか」


 ん? この平々凡々としたなんとも特徴のない顔の男は確か未開洞窟で出会った……


「イオス、だったか。また会ったな」


「ああ、数日ぶり。君たちもこの依頼を受けてたんだな。……エルフさんもこんにちは、今日はちゃんと話聞いてくれるみたいだね?」


 イオスがリリティアの方へ顔を笑顔を向けた。

 当のリリティアは服装が普通の物になってからは人ごみの中でも悠々と歩いている。それでも注目を集める辺りは流石はエルフ。いや流石はリリティア、か。


「は、はい、こんにちはイオスさん。私リリティアって言います……よろしく、です……」


 挨拶はしたものの、以前の格好を見られたことを思い出したのだろうか、またリリティアは恥ずかしそうに俺の後ろに回ってしまった。

 その様子にイオスは「ははは」と笑いながらも本題に移してきた。


「それでさっき、『報酬が山分けだと嬉しくない』とか言ってたけど、そうでもないみたいだよ?」


 別に嬉しくないとは言ってないが。二の次だし。


「どういう事だ?」


「今回の依頼、どうもワイバーンを仕留めたパーティが総額の半分を貰えるらしい。だからみんな一獲千金を狙ってやる気を出している」


「一丸になってやるわけではなく、個々のパーティで早い者勝ちを狙えってか? あの空飛ぶ化け物を相手に?」


「逆にワイバーン相手になあなあでやられても困る、って考えだろうね。まあ、仕留めなくてもある程度の報酬は入るから、そこまで躍起になる事もないとは思うよ。でも、今回俺達はライバルという形になりそうだね」


 ふうむ、躍起になることはない、か。

 俺は構わんが、つまり仕留めれなければ報酬が半分だろ? 躍起になる連中、出てくると思うんだがなあ。

 そこで俺はあるアイディアが浮かんだ。


「なあイオス、お前らのパーティはどんな奴らがいるんだ? あとお前パーティリーダーだっけ?」


「ん? ああ俺がリーダーだ。パーティは俺含めて三人で、前衛の俺と後衛に弓使いと魔法使いがいる。どちらも頼りになる仲間で、いつも名ばかりリーダーの俺を立ててくれるよ」


 後衛重視、か。そして前衛を一手に担いリーダーも務めるのがイオス。

 謙遜しているようだがその人望と実力と高いはずだ。

 肩をすくめて笑うイオスに、俺はとある提案をした。


「前の洞窟探索依頼の時はせっかくの申し出を断ってしまって悪かったな。なあ今回の依頼、俺達で組まないか?」


 その提案にイオスは目を丸くして驚いた。



 席を外していたイオスが率いる他のメンバーと顔を合わせて挨拶をする。


「こんにちは、イオスから話は聞いたよ。私はミトロっていう名前だ、弓使いやっている、よろしくね」


 弓矢を携えた軽装な格好をしたショートヘアの女がミトロ。

 気さくそうなヤツだが、その眼は狩人のソレだな。是非その弓術、実戦で見せてもらいたいものだ。


「……名はドーマ。魔法使いだ、よろしく頼む」


 こっちの口数の少ない男が魔法使いのドーマ……って筋骨隆々だな。どんな魔法撃つの?

 袖の無いダボダボなローブにトンガリ帽子、このアンバランスさがたまらん。笑いを誘うのならばその厳つい顔は止めろ。シュールギャグ狙いならば認めてやる。お前の勝ちだ。


「ああよろしく……さて、以前イオスにはアランと名乗ったが、俺の本名はアッシュという。隠していてすまないなイオス。本当は言いたくなかったが信頼の証に明かすことにする。基本的に前衛だが器用貧乏程度には後衛も出来る」


 冒険者には名声を売りたい奴もいれば過去を隠して職に手を付けるやつもいるため、偽名を使う事はさほど珍しいわけでもない。

 そのまま了承してくれれば良かったのだが、やはりそうはいかないみたいだ。


「アッシュ? あれ? そう言えばアンタひょっとしてあの勇者パーティの……」


 襟巻で口を隠しているが、それでもSランク勇者パーティの知名度は高い。こうなるのも仕方がないだろう。

 ミトロの言葉に俺は手を軽くあげながらおどけて見せる。


「いや、顔も似ているみたいで名前も同じなんでな、間違われることが多く偽名を使っていたんだ」


「……フーン……」


 納得していなさそうなミトロであるが、これから協力しようって時に無理強いをするつもりもないのだろう。それ以上は追及してこなかった。


「リリティアです! 私も魔法使いやってます! アッシュさんのサポートがお仕事です!」


 で、そうそうに名を明かした理由がコイツにある。

 数日も共に冒険をするのならば、予め打ち合わせをして置いてもリリティアは必ずどこかで俺の事を「アッシュさん」と呼ぶだろう。

 その場で別れる相手ならともかく、数日でも協力し合う相手、下手な所で信頼関係を崩したくない。


「……エルフの魔法使い、どれほどの実力か、楽しみにさせて貰おう」


 ドーマが鋭い眼光でリリティアを睨みつける。

 それと同時にリリティアは俺の後ろに隠れてしまった。


「止めろよドーマ、リリティアちゃんが怯えちゃったじゃないか」


「オ、オレは別に……ただ普通に……」


 ミトロがため息交じりで呟くとドーマは、申し訳なさそうに視線を落とした。

 そんな自己紹介の様子をニコニコと眺めていたイオスが口を開く。


「ハハハ、さてアラン……いやアッシュ、さっきの話、この二人にも話してもらってもいいかな?」


 イオスの言葉に、俺はうなずいた。


「ああ、このワイバーン討伐、俺達の力を合わせて達成したい。そして報酬の分け前だが、この中の誰がトドメを刺したかは関係なく8割をお前達に譲ろうと思う」


 その言葉にミトロとドーマの目が光る。

 いやドーマの眼光は変わっていない。普段通りみたいだ。ミトロの目つきだけが非常に鋭くなった。


「……へぇ? そりゃ随分と気前がいいじゃないか。どうしてまた?」


 口を綻ばせながらも信用しきっていない色を目の奥に潜ませるミトロ。

 仮にも歴戦を誇る俺の勘が告げている。

 この目には、この天性の狩人の目に対しては下手な嘘はついてはならない。

 おればその目を正面から見据え、嘘偽りない心の内を明かした。


「ワイバーンの肉が食いたい。だからヤツの死体は俺達にくれ」


 目を丸くしたミトロとドーマ。

 その数秒後に二人は、主にミトロが爆笑した。失礼な奴だ。

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