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15話 牛肉

「リリティア、明かりを頼む」


「はい! 【ライト】!」


 リリティアの呪文と共に、この広い空間に明かりで照らされる。

 デモンタウラスを倒した俺達は、その場でコイツの調理に取り掛かる事にした。調理場で本格的に行った方が勿論いいだろうが、この巨体の全てを持って帰る事は出来ない。

 ならば喰えるだけ喰って残りを持って帰ろうという結論に達したのだ。


 暗い洞窟内部のため、燃やす事の出来る草木などはあまりない。

 と、いうわけで皮を剥ぎ血抜きをした後コイツの脂身を取り出し、吊るした本体の下に纏める。


「アッシュさん解体作業速すぎません!?」


 俺は一流冒険者パーティの一流雑用係だったんだよ。これくらい出来んでか。

 まああのパーティで魔物の肉なんか食う事なんかなかったから趣味で身に着けた能力なんだけどな。


「じゃあ行きます! 【ファイアー】!」


 リリティアの手の平から火球が出現。それがまとめた脂身に当たり、 


「メッチャ燃えるな」


「メッチャ燃えますね」


 引くぐらいメッチャ燃えた。これでは肉が焦げてしまいそうだ。

 しかし、それはそうと食欲がそそる匂いが立ち込めるな。


「……所で、もうちょっと細かく切ったほうが良かったんじゃないですか?」


「キチンと切り取りやすいように切り目は入れてある。燃えながらでも切り取り出来るから安心しな」


「……それはそれで凄いですけど、尚更予め切り分けてた方が効率よかったのでは?」


「牛一頭の丸焼きって憧れね?」


「いえ、あまり」


 男のロマンがわからん奴だな。

 そこそこ時間がたったところでまだ燃え盛るデモンタウラスの一部を常備してある串で取り出した。

 炎を操る魔物だけあって熱には耐性があるのか? 思ったより焦げていない。それでいて中まで火が通っている。

 リリティアにも一つ渡し、俺は取り合えずソレを一口齧った。

 ……旨い! これぞ肉! 正に肉! 非常に肉々しい旨味が口いっぱいに広がる。


「あちち! ……わあ美味しい! ザ・お肉って感じのお肉ですね!」


 ボキャブラリーの少ないヤツめ! しかし俺もそれしか言うことがない! そしてこの肉ならば、確実に合う!


「あれ? アッシュさん、なんですかそれは」


 俺が道具袋からおもむろに取り出した物が気になったようだな。いいだろう教えてやる。


「酒や醤油などの調味料にゴマやニンニクを混ぜ合わせた物……つまり、焼肉のタレだ!」


「焼肉のタレ!」


 俺のこの上ない丁重な説明にリリティアの目も光る。

 なんか乗ってやってる空気がにじみ出ている気もするが気づいていないふりをして置いてやろう。

 それはそうと俺は更に木製の皿を二枚取り出した。その中にタレを垂らし、一つリリティアに渡す。


「そう、コイツは単体でも味はある。が、ちとクドくて舐めるだけではあまり美味くはない。その真価は焼いた肉と組み合わせた時に発揮される」


 いいながら俺はタレを漬けた肉を口に運んだ。

 コレよコレ!

 弾力性があり力強く油たっぷりの焼肉にこの味の濃いタレの合わせ技!

 ただ焼いただけの肉がここにきて完全体となったのだ!


 とそこまで考えた所でリリティアがなにか道具袋をあさっている。

 おもむろに取り出したのは……薬草ぅ~?

 おいおいリリティア、いつかのファングフィッシュ包み焼きのように葉ごと蒸しているわけでもないんだ、そんな葉っぱでこの完成された最強食材(パーフェクトビーフ)たる焼肉がどうなるっていうんだ? やれやれこれだから女子供は困る。それは肉への侮辱に等しいぞお前。

 リリティアが薬草を包んだ肉を口に運んだ。

 若干茎もある部分なのだろう。『カリュッ』という噛んだ音が確かに聞こえる。


「うん! お肉もタレも美味しいけど、こうやってたまに薬草と組み合わせると味もちょっとサッパリして気分変わるし、また更にクドイお肉も食べてみたくなるね!」


 なん……だと……?

 確かに野菜類と肉類の組み合わせは悪くはない。

 だがそれはあくまで調理した場合の話だ。ましてやこの肉は肉の王たる極上牛(デモンタウラス)肉。

 そんな子供だましに惑わされる俺ではない。そのハッタリを打ち破ってやる。どれこうやって薬草を包んでやがるのか。


「あれ? アッシュさん、目を押さえちゃって……え? 泣いているんですか?」


 どうしてこんなシンプルかつ至高の組み合わせに今まで気が付かなかったのだろう。

 肉への侮辱? 生の葉っぱなど合わない? ────俺が馬鹿だったよ。すまないリリティア、俺はお前を見くびっていたようだ。


「あとコレ、お米にも合いそうですねー」


 ……米? 米だと? 確かにこの甘くくどいタレに力強い肉。それにサッパリしているにも関わらずふっくらで熱々、腹にたまる米と組み合わせたならば……!


「リリティア、お前天才か……?」


「さっきからどうしたというのですアッシュさん」


 米……米! ああ! 俺はどうしてその可能性に気が付かなかった! 米は携帯用食材としても優れる! 俺があの時米も買いだしておけば今頃は……くっ!


「ふー! 御馳走様です! さてアッシュさん、このデモンタウラスってすっごい強い魔物なんですよね?? じゃあこの洞窟予想以上に危険な場所でしょうし流石に炎も消えましたし、今日の所はデモンタウラスの一部持って帰ってギルドに報告に戻りません?」


 肉を、持って……帰る?

 ! ……そうか! この場に米が無いのならばある所に行けばいいだけじゃないか! この極限の状態でその答えに行きつくとは!

 リリティア! もう疑わない! 俺はお前に着いていくぜ!!


 こうして俺達の洞窟探索は一区切りをつける。

 あと気が付いたらなんか炎吐けるようになってた。




────────────

アッシュ・テンバー

『スキル一覧』

・【暴食】

・雷撃

・神経毒

・液体操作

・超音波

・火炎息吹

────────────

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