第二十話
第五節は三話完結の予定でしたが、二話増えて、五話完結になります。
…………ここで完結すると思っていた皆様、誠に申し訳ありません…………
……ところ変わって、ここは辺り一面真っ黒闇な世界……
そこでは、幼女みたいな男神が不慮の事故で人生を終えたうら若き女性『府林文華』を相手に、ある仕事をしていた……
「……そんな訳ねぇだろうがよ。これからお前は、何処の地獄に落ちるのか裁判を受けるんだよ」
「……え……? 何で? 何も悪いことしてないのに」
彼の仕事は、生涯を全うしたあらゆる生命を、生前の行いに応じて、来世の転生時まで天国に送るか、地獄の裁判にかけるか、最初のふるいにかけることである。
因みに、ここで天国行きが確定した者は、二度目のふるいにかけられることは無い。
『最強』がその例である。
「嫌だああぁぁ!! 門なんか通りたくないいぃぃ!! 地獄なんか行きたくないいぃぃ!!」
「五月蝿ぇって言ってんだろ。お前がこの門を通らないと、私の仕事が終わらないんだよ」
幼女みたいな男神は、地面に這いつくばり、駄々をこねる府林文華を片手で軽々と持ち上げると、遠心力を利用し目の前の大きな門に向かって放り投げる。
「嫌だああああぁぁぁぁーーーー!!!! 地獄なんか行きたくない、地獄なんか行きたくないいいいぃぃぃぃーーーー!!!!」
四肢をばたつかせ、空中で必死にもがく府林文華。だが、左右にめい一杯開け放たれた大きな門は、まるで生きているかの様に府林文華の身体を扉の内側へと吸い込んでいく。
「地獄なんか行きたくないいいいぃぃぃぃーーーー!!!!」
大口の中へ府林文華を飲み込んだ大きな門は、軋む音を立てながら両開きの扉をゆっくりと閉め……摩擦音をさせながら、府林文華の叫びを遮断した。
完全に扉が閉まった大きな門は、幼女みたいな男神の前で少しの間、雄々しく鎮座すると、一仕事終えたかのようにその場から消え去る。
幼女みたいな男神はそれを確認すると、身体を反転させ、面倒臭そうな声を出す。
「次のひとー」
…………だが、待てども暮らせども次の死者はやって来ない。不思議に思った幼女みたいな男神は、膝の裏まで伸びた長く美しい金の髪を、無意識に掻き乱す。
「次のひとー?」
再度次の死者を呼び出してみる。………………しかし、いくら待っても次の死者はやって来ない。幼女みたいな男神が不振に思っていると、そこへ、聞き覚えのある声が聴こえてくる。
「相変わらず、面倒臭い仕事をしてますねぇ……」
その言葉を耳にした瞬間、幼女みたいな男神は、苦虫を潰したような顔をする。何故なら、この声の主は彼にとって、一番遭いたくない相手だからだ。
だが、この声の主は、そんな彼の気持ちも構うことなく、粒子状から全身黒ずくめの男性に形を変え、幼女みたいな男神の前にその姿を現す。
「お久しぶりですねぇ……今は、ショタ神さんとでもお呼びすれば良いでしょうか?」
「……赭神……」
被っていた黒帽子を取り、赤い髪を露にする黒服の男性。黒帽子を胸元にそえ、まるで昔を懐かしむように近づいてくる。
そんな黒服の男性を、幼女みたいな男神は警戒心を持って『赭神』と呼び、黒服の男性は幼女みたいな男神を『ショタ神』と呼ぶ。
「お前……何しにきやがった? ここは、お前みたいな『魂』を蔑ろにするヤツがくる所じゃねえぞ?」
「おやおや……これは随分とご挨拶ですね。かつて、それはそれはお世話になった先輩に会いに来てあげたというのに」
顔を上げ、赭神を睨み付ける様に話しかけるショタ神。
腰を曲げ、お腹の辺りに位置するショタ神の顔を見下ろす様に話しかける赭神。
ふたりは、お互いがお互いを牽制する様に言葉を交わす。
「……ああ、確かにな。お前がある女性の魂を、前世の記憶を維持させたまま生まれ変わらせた時は、それはそれは良く『お世話』したもんだ」
「そういえば、そんな事もありましたねぇ……私が『閻魔規定』を破った事は、そして……あなたに追放された日の事は、昨日の様に思い出されますよ」
今にも溢れだしそうな感情を、震える握りこぶしに封じ込め、言葉を吐き出すショタ神。赭神はそれをいなす様に黒帽子を被り、左腕を軽く広げる。
「『閻魔規定』……正に糞みたいな響きだ……」
そして、遠くを見るように目を細め、呟く様に言葉を足した。
「……それで? お前はここに何しに来たんだ? まさか、昔話をしに来た……なんて面倒臭い事を言いに来た訳じゃねぇだろ?」
「……ああ、そうでした。実は、あなたに大事なことを伝えに来たんです」
ショタ神の言葉に、ふと我にかえる赭神。黒帽子に手を添えたまま、視線を隠すように少し斜めに俯くと、腰に右手を置き、そっぽを向いているショタ神にこう語った。
「……あの男が……蓋又男の魂がここに来ることはありませんよ……」
その台詞を聞いた瞬間、ショタ神は目を見開き、赭神に向かって驚きの表情を見せる。だが、赭神は目元に右手を当て、人差し指と中指の間からショタ神を見下すように話を続ける。
「我々の方で魂を回収しましたからね。彼は今頃、新しい世界で、楽しい魔物狩りを満喫している事でしょう」
その赭神の発言は、とてもあり得ないものだった。何故なら、生命あるものは、亡くなった時にどんな事由があろうとも、必ずショタ神の元を訪れ、門を通る様に定められているからだ。
「……お前……なにを言ってる……? 力を失ったお前に、そんな事できる訳ないだろう……? ましてや、ここの門をくぐらずに魂を転生させるなんて……」
「……それが……出来るんですよ……」
赭神はそういうと、黒服の左ポケットから紙を取り出す。
「これがあればね……」
深紅の血で染められた一枚の紙を……
「異世界転生特別措置法……!」
次回の更新は、11月4日(水)を予定しております。




