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エピローグー5

 ほぼ同じ頃、土方大尉は妻とくつろいではいなかった。

 まだ赤子の3人目の子どもをあやすのに妻は追われており、自分は上2人の子どもの面倒を見るのに手いっぱいだった。


 覚悟して帰宅したとはいえ、まだ6歳の長男と3歳の次男を1年以上経ってからあらためて面倒を見るのは大変だった。

 長男に至っては帰宅してきた自分のことを知らない人が来たと妻に言う有様で、妻がお父さんが帰ってきたのにと長男を叱る羽目になった。

 結局、北京から帰国した際に、しばらくもらった休暇は子どもとあらためて馴染むだけで無くなりそうな有様になった。

 夜が更けて、子どもが3人とも寝ている束の間が夫婦の時間になっていた。


「北京に行く際には、まだ分かっていなかったとはいえ、3人目が産まれる際も傍にいることができなかったな」

 土方大尉は妻をいたわった。

「土方家の宿命でしょう」

「嫌な宿命だな」

 2人は微笑みあった。


「4人目の時は傍にいてやりたいな」

「まだ子どもが欲しいのですか」

「5人か、6人はつくりたいものだ」

「3人で手間取っているのに大丈夫なのですか」

「何とかなるものさ」


「そういえば、お義母さんにお礼状を出しておいてくださいね。あなたがいない間、あなたの代わりに子どもの面倒を見ないといけないからと北海道から来られていたのですから」

「子どもと馴染むのに手いっぱいで、礼状をまだ書いて無かったな。急いで書こう」

 土方大尉は答えながら、故郷の屯田兵村の山河を思い起こした。


 母の琴は今でも父の遺産である田畑の面倒を自分の弟夫婦と共に耕している。

 50歳は過ぎたが、まだまだ元気らしい。

 父亡き後、親族の助けがあったとはいえ、まだ10歳にもなっていなかった自分を頭に4人の子どもを育て上げてくれた母は自分にとって誇れる存在だった。

 自分と妻とは幼なじみで同郷の出身なので、妻は母のことを子どもの頃から知っている。

 妻と母との折り合いが良いのはそれもあるのだろうと思った。


「それにしても軍令部第3局に勤務ですか。鎮守府海兵隊と東京との往復ですね」

 妻は夫の任地についてあらためて話し出した。

 結婚した当初は横須賀にいたが、東京に異動して、佐世保に異動して出征、帰国したと思ったら、東京に異動である。

 海兵隊の軍人にとっては当たり前の異動だが、妻の父、土方大尉の義父も海兵隊の元軍人とはいえ、屯田兵の曹長として軍役を終えており、妻は自分と結婚するまで屯田兵村から出て住んだことは無かった。

 土方大尉と結婚して、海兵隊の異動が広範囲に及ぶことに正直に言って驚いていた。


「軍人の宿命だな。東京でも忙しい日々を送ることになりそうだ」

「まさか戦争が近いのですか」

「そうならないことを願っている。4人目が産まれる時は、傍にいてやりたいからな」

 土方大尉は愛妻の顔を見て言った。


 本当にそうなってほしいものだ。

 2人目の時は、傍にいてやれたが、1人目の時と3人目の時は傍にいてやれなかった。

 4人目の時は傍にいてやりたい。

 平和な日々が続いてほしい。

 土方大尉は内心で祈念した。

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