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友達になろう


 キスティの勝負は、ここにきて完全敗北に帰した。個人としては魂を堕落させられたあげく、たとえ中島健司を殺したとしても、組織としては無意味。


「……それでも、貴方が危険であることに変わりはありません。ここで殺しておくに越したことはない」

「あ、自分の誤ちを素直に認められない人だ」

「うちのマスターはプライドばかり高くて、大変なんですよ」


「まあ誰しもそれくらいの欠点はあるよ。人間だもの。でも、それで僕が友達になれないってのはうまくないなあ。なにか落とし所とかないかな」

「そうですね。私はもう、心の奥底では貴方と友達になりたいと思っています。貴方の悪魔によって、魂を堕落させられましたから。私はもう、独りで生きることに耐えられない。それでも、己自身のプライドがその事実を許さない。素直じゃないんですよ、私って」


 ここにきて初めて、キスティは笑った。自身の無力さや、相手の強大さを認めたあげくの、無心の笑顔だった。


「プライドと言えばそれを司る俺サマの出番なわけだが」

「何ができるってんだ悪魔。平和的に諌めたりとかするのか?」

「いや、プライドなんてもんは、へし折ってやるしかないんだよ。かつて俺がそうされたようにな」

「つまり、どういうこと?」

「決闘でもすればいい。そして、終わったら河原でお互いを称えあえばいいさ」

「なるほど。そこまですれば間違いなく友達だね」

「そうですね。では、決闘をいたしましょう。本気で行きますので、できればですけれど、死なないでくださいね。そしてどちらが勝ったとしても、お友達になりましょう」


「ちょっと待って。流石に戦力差がありすぎるんでハンデください」

「もう、仕方のない人ですわね。悪魔王を配下に置きながら、それでも手加減して欲しいなんてあまりにも傲慢すぎますわ。でも、受けましょう。私はリリエル、アリエル、エリエルを使用しません。それでよろしいですか?」

「ああ、ありがとう。正直なところ、その三人を使われたら何をどうやっても勝てる気がしなかったんだ」

「それは当然……ですが、私の力はそれだけではありません。自らの手足となる使い魔と、なにより鍛えた私自身には誇りを持っています」

「僕は荒事とか全然ダメだから、正直、きみが羨ましい。強いって、いいよね」

「貴方も鍛えなさいな。なんなら、私が教えて差し上げます」


「ああ、それはいいなあ。なんかすっごく友達っぽい」


「ええ、そうでしょう。では、行きますよ」


 悪魔が魔力で剣を作る。天使が魔力の槍を携える。健司は自身を守るために、後ろに退いた。

 キスティと使い魔シャドウビーストの三匹は、間髪入れずに間合いを詰めた。


 決着は一瞬で着いた。


 健司は、まっすぐに突っ込んできたキスティの拳に殴り倒されて、意識を失った。



 キスティは、自分の勝利と敗北を、同時に噛み締めた。


「こんなに弱い相手に、あれだけ心をボロボロに砕かれたなんて。ああ、私のプライドなんて、最初から大したものではなかったのですね」


 それからキスティは、中島健司の目が覚めるまで、膝枕をして、ただ待っていた。


「よかったですね、マスター」

「何がいいものですか」

「いいえ、よかったと思います。マスターは、確実に幸せに向かって歩き始めました。そう思います」


「堕天使の――悪魔の言葉に安らぎを覚えるなんて、やっぱり私の魂は、堕落してしまったようね」


この物語はここまでで一区切りです。

こいつらの物語はまだまだ続くといっても、今回の事件はあとは白紙の契約書を偽造した組織を主人公たちがボコって友達になって終わり、というヤマもオチもない話になってしまいます。

書きたいことはだいたい書いた……!

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