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お友達作戦!


 健司は低級霊を召喚し、キスティに向かわせた。この雑木林で命を失った地縛霊や、周囲を浮遊していた雑霊などだ。

 これには細かい操作が利かない。なので、健司としては正々堂々たる態度で、命令を下した。


「名付けてクチコミお友達作戦」

「センス最悪だな」


 霊たちをキスティに向かわせて、健司たちはその場を離れた。

 キスティは身構える。囲まれていた。いずれも大した力のない者達だが、数が馬鹿にならない。

 これほど多くの霊を同時に従えることができる健司の才能に戦慄し、使い魔を呼び戻そうか考えた。


 だが、攻撃してくる気配はない。

 地縛霊の一人が歩み寄り、キスティに話しかける。


「健司とトランプで遊んだけど、楽しかった。友達ってこんなにいいものなんだって思えた」


 その地縛霊は、学校で虐めを受け、この雑木林で首を吊った同年代の少女だった。そういった、イメージのようなものがキスティの高い感応力から判明した。


「わたし、生きてる時に健司に会えたら自殺なんてしなかったと思う。だからお願い、健司を殺さないで」


 キスティはその地縛霊を睨む。

 かまわずに話を続ける。


「わたしはこんなのになっちゃったけど、でも、多分、健司のおかげで救われたんだとおもう。初めて会った時は取り殺そうとしてたんだけど、話してるうちにそんな気は無くなっちゃったなんだ。あなたも、一度でいいから彼と話してみてよ」


 キスティは顔を歪める。目の前にいるのはかつて人間だったかもしれないが、今はそうではないもの。ただの残骸だ。それを操って何をするかと思えば、まさか情に訴えるとは。

 悪魔使いとして、自分より確実に上の存在。キスティは健司の評価を再修正する。地縛霊の意思を変えるということは、いわば魂の再生だ。死者との意思疎通なんてありえない。それが悪魔使いとしての常識。しかし健司は、その常識を簡単にひっくり返していた。


「ね、だからあなたも、友だちになってよ」


「お断りします」


「……そう。だったらわたしは、あなたを取り殺さなくちゃならない。健司の友達はわたしの友達。健司の敵はわたしの敵だから」


 攻撃しようとする地縛霊を、男の浮遊霊が抑えた。

 彼は、生前屋上から飛び降り自殺をはかった霊だった。それもまた、イメージとしてキスティに伝わった。


「駄目だ。健司はまだ彼女の敵にはなってない。まだ友達になろうとしている。だから俺達は、勝手に健司の敵を作ってはいけない。少なくとも健司が諦めるまでは、俺達も諦めちゃいけないんだ」


 その浮遊霊は、少女の兄だった。自分の妹の自殺を止められなかったことを悔やんで後追い自殺をした男。


「……うん。そうだねお兄ちゃん。ごめんなさい、先走っちゃって。生きてる時と変わらないね」


 先走って、自殺した、ということ。


 キスティは、その二人に問う。


「……貴方達は何故そこまでして、中島健司を庇うのですか。終わってしまった人間が、始まろうとしている人間に対して。妬ましくはないのですか。羨ましくはないのですか」

「妬ましいし、羨ましいさ。生きている人間がいると、無条件で取り殺したくなるくらいにはね。でも、羨ましいなんて感情は、友達になるなら持っていて当たり前だろう?」

「健司は、あの悪魔さんと契約するまで、何もなかったんだって。人から羨ましがられるものを何も持たず、ただ一人で生きてきたんだって。だから友達もゼロ人だったって言ってた。寂しかったって」


 キスティの心に葛藤がよぎる。総帥の孫として生まれ、最高の訓練を受けながら育ち、輝かしい未来を約束された自分という姿。だが、近寄るのは権力欲に飢えた者ばかりで、志あるものたちには嫉妬され、気付けば隅に追いやられている。自分には友達など一人も居ない。なぜ自分には友達が居ないのか。もしかして、実は自分は、何も、持っていないのではないか?


「わたしはあなたが羨ましい。健司は心の底から、あなたとお友達になりたいと思っている。それはきっと、容姿とか、能力とか、性格とか、いろいろな羨ましい要素が混ざり合っているんだとおもう。それに、健司にはまだ、生きている人間の友達は一人もいないんだ。だから必死で、あなたを友達にしようとしている。わたしたちは、そんな健司に協力しようと思って今ここにいる」


 キスティの精神防壁は痛撃を受け、揺らいでいた。今この会話は、ただの会話ではない。悪魔によって増幅された言霊を、霊から直接打ち込まれており、それに抵抗するための舌戦だった。本来であれば、聞く耳持たず、殲滅するべきだったのだろう。だが、そうはさせないからこその悪魔の魔力だった。

 女を唆す、悪魔のささやきに人の身で抵抗できるものではない。

 そもそも、キスティには最初からわかっていたことだ。悪魔と口論をして人が勝つことなどありえない。だからこの勝負は、キスティが健司を見つけ出して殺すのが先か、精神を堕とされるのが先か、というルールの戦争だったのだ。

 キスティは言葉を紡ぐ。


「貴方達は今、その健司によって捨て駒にされている。その自覚はありますか」


「ああ。俺達はそれでも健司の味方をしている。友達、だからな」

「でも、心の奥底ではこうも思っている。健司はわたしたちを見捨てたりなんかしてない。だから、時間さえ稼げれば、きっと助けに来てくれるはず。だって健司は約束したもの。わたしたちは友達だって」


 矛盾した信頼関係。これもまた、悪魔の交渉術によるものだった。

 防壁が剥がれるのを感じる。その信頼関係を、羨ましいと思ってしまった。今キスティは、精神的に無防備に等しかった。

 キスティはある点での敗北を認めた。精神攻撃に屈し、魂が堕落したことを認識した。だがまだ完全に負けたわけではない。中島健司さえ殺せば、キスティが所属している組織の目的は達せられる。個人としての勝負には敗北したが、組織の一員としての勝負はまだこれからであった。


 覚悟を決めて、索敵に出していたすべての戦力を自身のもとに呼び寄せる。

 三体の天使と、三体の使い魔。


「では、貴方達を蹴散らして、中島健司の出方を見ることにしましょうか」


 堕天使リリエルが砲撃の準備をする。

 だが、その直前でエリエルが異常を察知した。周囲を覆う霧が晴れており、中島健司と悪魔の居場所が明確になった。


 そして次の瞬間、誰にでもわかるように堂々と、まっすぐキスティを目指して歩いてくる人影。 


「ちょっと待った! 僕の友達に何をしようとしているんだ、君は!」


 時刻は日の出のちょうど一時間前。

 金星が空に登り、太陽よりも輝きを増す時間。


 健司は、やってきた。



「おまたせ。友達になりにきたよ」


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