黒猫作戦
健司が用意した服はすべて失われた。
後に残るのは、健司と悪魔、そして全裸の守護天使。
「さて、フェイズ2だ。追撃といこう。こっからはマスターも結構大変だぜ。なんたって細かいコントロールが大事だからな」
「わかっているさ」
黒猫を呼び出す。動物霊だった。もはや意思などほとんどない。だから、しっかりとコントロールしてやれば、健司の思うとおりに動く。
な~ご、な~ご。
キスティの目の前で、可愛らしさを振り撒く黒猫の霊。
「ぶっちゃけあの動きをマスターがやらせてるのかと考えるとキモい」
「言うな。いい年して人形遊びとか、別にいいじゃないか。許してくれよそのくらい」
「いや、許す許さないとかじゃなくて、純然たるキモさというものがだな」
「うるさい黙れ」
キスティは目の前に現れた動物霊に対して警戒する。可愛い。だが、間違いなく罠だった。そして罠というものは、気にしてしまった時点で負けなのだ。
疑心暗鬼を生ず。キスティは使役する天使を呼び、命令を下す。
「アリエル。防護壁を展開しながら私の前へ。リリエルは警戒態勢のまま。エリエル、この黒猫の解析を」
「了解です、マスター」
「可愛いですね。撃っていいですか?」
「撃つのは調べてからにしなさい、リリエル」
「さて、あの女の子たちの陣営、前回はじっくり見ることが出来なかったが。見たところ、堕天使が3体、だな。それぞれ別個に契約してるんだろうかね。結構なこった」
「何とかなりそうか?」
「あの砲撃は、マスターごと巻き込んじまうだろうからマスターに接近すればなんとかなる。防護壁を張ってる奴はありゃあ俺の部下の一人だな。なんとか説得してみる。もう一人は解析担当ってところか。まだ戦力を隠してるのかもしれねえし、なんとも言えねえってのが本音だな。なにより守護天使が居ないのが気になる。こんな商売やってんだ、切り札を何枚持ってるかなんて見当も付かねえぜ」
「それにしてもみんな可愛いな。お友達になりたいもんだ」
「ああ、まったくだぜ。狙ってみるかい、マスター?」
「もちろん。でも、いけるのか?」
「天使の三分の一を魅了した俺の力を信じな」
「よっぽど人望なかったんだな、お前の上司」
「いやでも、立派なお方だったよ実際。おっと、動きが出たぞ」
「その動物霊の解析が出ました。人語に訳します。『撃たないで。殺さないで。私は貴方の敵ではありません』」
「ということは、敵ですわね」
エリエルの報告に、苦虫を噛み潰したような表情でキスティは答える。
「撃ちますか、マスター」
「いいえ、必要ないわ。どうせ撃っても、また新しいのがやってくるだけよ。それよりも、まんまと術中に嵌ってしまっている。余計な時間を取ってしまったわ」
「こうも妖霧が濃くては、敵の正確な位置が把握できませんね」
「『おっぱい柔らかいにゃあ。ぺろぺろしたいにゃあ。繁殖したいにゃあ』」
「その動物霊の解析はもういいわ。放っておきなさい」
「いえ、これは動物霊の思念そのものではありません。それを操っている者、おそらくは中島健司の思考が混じっています」
「追跡は可能?」
「はい。どうやら近くにいるようです」
「舐めた真似を。ですが近くにいるのでしたら丁度いい頃合いですわ。総員、索敵開始!」
リリエル・アリエル・エリエルの他に、3つの影が周囲を見渡すようにして散開した。
精神防壁の残り時間、あと3時間。




