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真犯人はすぐそばにいすぎでしてよ~!

 あの鉄面皮黒森玲央が、どことなく不安そうに少女を見る。


「まさか、公表するとは言うまいな?」


 花音は下から胸を押し上げるように腕組みをした。


「当然、わたくしが星宮きららとバレてしまいますから、二人だけの秘密ですわね~わたげちゃん♪」


「クハッ!!」


 名前を呼ぶだけでダメージを与えられる。出会った頃から立場逆転だ。


「でも、こうしてバレるようにしてしまうなんて会長らしくありませんわ。大福先輩から聞いた話だと、一年生の頃から完璧超人みたいですし」


 黒森は眼鏡をかけ直した。


「君は私を買いかぶりすぎだ」


「買いかぶりではありませんわ。すべて……とは言いませんけれど、わたくしに解かせるために用意していたのでしょう?」


 落雷の件などは偶然の産物である。アクシデントで不可能犯罪化するトリックというか、追加ヒントだった。


「なぜそのようなことを私がすると?」


「わたくしに……いいえ、星宮きらら先生に新作を書かせるためですわよね? あ~! なんてかわいらしいのかしら、わたげちゃんって」

「ぐぬぬ……」

「反論はありませんのね」


 それはそれで少し寂しいと、お嬢様は思う。贅沢な悩みだ。


 黒森は咳払いを挟んだ。


「まったく……あの知的で清楚な星宮きらら先生が君のような人間だとは思わなかった」

「それはお互い様でしてよ、わたげちゃん。って、まるで、わたくしに知性も清楚さも無いという仰りようですわね?」

「理想は理想のままにしておくべきだと思うよ」


 こんな皮肉屋から、あんなにも熱烈としたクリエイター応援人格が生まれるとは……ネットの闇は深いとお嬢様は感じた。


 が、案外黒森の印象は的を射ている。花音自身、星宮きららの時は「お嬢様キャラ」を演じる必要がないので、割と素に近い受け答えをしているのだ。


 まあ、黒森=わたげや、図書委員の岩下=ライブラ・百識ほど激変しないのだが。


 黒森はため息とともに吐き出した。


「スランプの君に、何かきっかけを与えられればと思っていた。経験はすべて創作の血肉になる。だが、危険な目に遭わせてしまった」

「それはもう言いっこなしですわよ」

「何か償いはできないだろうか」


 花音はピンと立てた指先を自身の顎先につけた。


「でしたら、部室がほしいですわね。食べ歩き同好会の」


 現在、物置になっている部室棟一階置くの角部屋は良物件だ。


「部屋はあるにはあるが……君たちは三人だ」

「部に昇格するには五人必要ですのよね? 実は、こんなこともあろうかと図書委員の岩下多那香さんに、名前を貸していただく約束を取り付けておりますの」


「なん……だと……」

「図書室の方が落ち着くというので名義貸しですけれど、もちろん食べ歩き同好会でゲットしたお土産を持っていってあげたりするので、立派な部員ですわよ」


「星宮先生は算数が苦手と見える」

「あらあらあら~♪ 四人で一人足りませんわね~♪ わたくしを助けてくださる素敵な方はいらっしゃいませんこと~!」


 キラキラとした眼差しで花音は黒森を見据えた。


「まさかとは思うが……」

「当然、五人目のメンバーは黒森玲央こと、白川わたげちゃんに決まりでしてよ? 返事は、はいかYESでお願いいたしますわね♪」


 探偵を依頼された時の意趣返しだ。


 黒森は力なく笑った。


「いいだろう。それが君の願いなら。だが顧問はどうするのかね?」

「学食の宮本さんという方が、外部指導員という形でなってくださるそうですわ」


 こちらも学校の規約的に問題なしと、花音は事前に調べをつけていた。


 あとに残るは――


「すべてを終えましたし、最後の謎を教えていただけますこと?」

「最後の?」


 一瞬、黒森はなんのことだと首をかしげたが、すぐに理解した。


「ああ、そうだったな。私は星宮きららをずっと以前から知っていた」

「ええ。けれど誰かから知らされない限り、星宮きららがわたくしとは知りようがありませんもの」


 何者かが黒森に教えたのだ。


 青年はゆったりと語り出す。


「そう、あれは今年の春。君が入学するよりも前の事。学園のウェブページに設置したメールフォームに書き込みがあったのだ……」


 黒森が語る驚愕の内容に花音はその場で凍り付いた。




 帰宅すると執事の鋼がスーツにエプロン姿で、夕食の準備を始めていた。


「お帰りなさいませお嬢様」

「二週間の休暇の予定が、ずいぶんと早く帰ってきましたわね?」

「雪代からお嬢様が寂しがっていると伺いまして」


「そんなこと、一言も口にしてはいませんわよ。まったく、うるさいのが戻ってきて……瑠璃さんの完璧な紅茶も当分お預けですわね」


 ため息交じりの花音にサングラスの男は「お嬢様も相変わらずご機嫌麗しく、私もうれしく思います」と、恭しく礼をした。


「ところで休暇はどうだったのかしら?」

「たまったゴミを処分して、すっきりいたしました」


「掃除に有給を充てるだなんて、もっと楽しいことをすればいいのに。人生の時間は有限でしてよ?」

「私の幸いは、お嬢様が幸せでおられる姿を、こうして見られること。これに尽きるのです」


「で、どこまで知っていますのかしら」

「はて、なんのことでしょうか」


「わたくしがネット小説を書いていることや、ペンネームが星宮きららだということを生徒会宛にメールしましたわよねッ!!」


 黒幕を動かした真犯人は――


「はい。お嬢様が寝落ちなさった際に、なるほどこういったことをなさっていらっしゃったのかと。大変ご立派です。この事を学園の生徒会の方にお伝えし、便宜を図ってもらうというのではありませんが、お嬢様が健やかに学園生活を過ごせるようにとお願いいたしました」


 あっさりと自白した。というか、悪いことをしたという自覚がなかったようだ。


「ですがお嬢様。ポニーテール断髪式というのはいかがなものかと」


 ちゃっかりそれも見られていた。


「やっぱりあなたはクビにすべきでしたわね~!」


 少女の絶叫がこだまする。


 合わせて今夜も花火が上がった。




白川わたげ『おはこんわたわた~! 星宮先生ついに新作執筆開始ですね!? タイトルは決まりましたか?』


星宮きらら『おはこんきらきらです。タイトルは――』


 わたくしお嬢様ですけれど鬼畜生徒会長に乙女の秘密をにぎにぎされて屈辱契約させられましたわ~!!


 おしまい♪

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