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お嬢様大勝!! 希望の未来へレディ・ゴーッ!! ですわ~!

 青年がレンズ越しに目を丸く見開く。


「いったい誰のことだね?」


 花音は青年の顔を指さした。


「どうして人名と思いましたの?」

「君の呼びかけ方が人に対するものだったからな」


 青年はすぐに元の冷淡な顔つきを取り戻し、抑揚無く返す。


 花音は縦ロール髪を指の間で遊ばせた。


「実際、人物ですわ。白川わたげ。ご存じかしら?」

「そのような生徒は知らないな」


「当然ですわよ。生徒の名前ではありませんもの」

「で、わたげ嬢がどうしたのかね?」


「あらあら、あらあらあらあらおかしいですわねぇ? わたげが女性だとどうして知っていますの?」

「わたげという響きから女性と推察しただけだが」


 するりと手の中から逃げていく。が、少女は諦めない。


「白川わたげはわたくしの……星宮きららの最初の読者でしたわ」

「君のネットの知り合いということか」


「おかしいですわね。わたくしの作品ページをチェックしているのに、掲示板に目を通していらっしゃらないなんて。そこで名前を見ていれば聡明な生徒会長様なら『白川わたげ』という名前に気づくのが自然ですわよ?」


 青年は眼鏡のブリッジを指で押し上げた。


「私を買いかぶりすぎだ。もしくは君のすべてを私が知りたがっているとでも? 自意識が過剰すぎやしないかね?」


「かもしれませんわね。けれど、わたくしから見れば黒森会長は白川わたげを意図的に避けているととれましてよ」

「言いがかりにもほどがある」



「あなたが白川わたげですのね?」



 花音自身、この結論に驚きは無かった。


「根拠を示したまえ」


 眉一つ動かさない青年に、花音は今日までの気づきをぶつけることにした。


「たとえば雷が苦手なこと。会長はいわずもがな、わたげさんも雷が鳴ると連絡がとれなくなることがありましたわ」


「偶然だろう。そもそも、わたげなる人物がどこに住んでいるのかも君は知らないのではないか? 音信不通になった時に、彼女の住んでいる地域で雷が発生していたとは限るまい」


 花音はスマホを取り出した。マップアプリで市内の定食屋を表示する。


「こちらのお店は『しらかわ』という定食屋さんですわ。今度、食べ歩き同好会の三人で伺いますわね♪」


「確かにその店は私の実家だ。客として来店するなら歓迎しよう。私が調理するわけではないがな」


 青年はやれやれ顔だ。これも偶然の一致で片付けるつもりらしい。


「ところでお店の名前がどうして『しらかわ』ですの?」

「祖母が始めた店だからな。それに定食屋『くろもり』よりも語感がいい」


「黒より白……と仰いますのね。けれど『もり』とついている方が、もりもり食べる感じがして良いようにも思いますけれど」

「それは個人の感想だな」


 レスバ用の禁止カード的なワードで黒森は返してきた。が、まだ花音のラッシュは終わらない。


「わたくし、わたげさんと好きな作品や読んだ作品について、自作ページの掲示板でやりとりをしましたわ。その時、興味があるけどまだ手をつけていなかった作品群が、偶然にも学園の図書室の特別コーナーに揃っていましたの」


「君は運がいいようだ」


「本の選定は会長がしたのではありませんこと?」

「あとで図書委員に聞けばわかることか……。認めよう」


「生徒会長様は掲示板を見ていらっしゃらないのですわよね? どうしてピンポイントで、わたくし向けの作品を集めることができたのかしら?」

「たまたまだ」


「わたげさんとSNSのアドレスを交換しようとしたけれど、してくれませんでしたわ。お話しようとしたらチャットルームに招待されましたの。これって……すでに登録済みだからできなかったということですわよね?」


「さてな」


 口数は少なく、もはや反論としての説得力は皆無に等しい。


「偶然をいくつ重ねれば気が済みまして?」


「どれほど状況を積み上げようと決定的な証拠たり得んのだよ。疑わしきは罰せず。君が知らないとは思えないが?」


 そう、いくつもちりばめられたヒントは、まるで花音に見つけてほしいと言わんばかりだった。だがどれも証拠というには力不足がいなめない。


 そもそも黒幕がお膳立てしたものばかりだ。


 全部を見つけて並べても、決定打にはならないのかもしれない。


 モリアーティであることは自白しても、かたくなに白川わたげであることを認めなかった。


 黒森はソファーから立って会長の椅子にかけ直す。


「話はもう終わりかな?」


 花音は黒幕にして依頼者に向き直った。探偵が犯人の物語とはやや趣が違うが


「もともとわたくしたちの噂の根源探しには、明文化されていない暗黙のルールがありましたわ」

「なんのことだろうか?」


「真実は闇の中でもかまわない。依頼者の生徒会長様が納得のいく『状況』を集めればいい。違いまして?」

「つまりどういうことかね?」


 花音は呼吸を整えると、そっと自身の胸に手を当てた。


「大切なのは、あくまでわたくしの納得。これから先、黒森生徒会長のことを、あんなに乙女らしい白川わたげさんだと思って接することができますから。これからもよろしくお願いいたしますわね。おはこんわたわたわたげちゃん♪」


 瞬間――


 黒森の顔が真っ赤になった。


 鬼畜系ドS眼鏡生徒会長が、今日までに花音に何度となく掲示板でやりとりしてきたのだ。


 花音は勝機とばかりにたたみかける。


「うふふふ♪ 掲示板のコメント削除しても無駄でしてよ。バックアップはとってありますもの」

「――ッ!?」


「というか、このタイミングでやったらわたげちゃんだって認めるようなものですわよね? あっ、別によろしいですわよこれも偶然ということで。ますます、わたくしが会長をわたげちゃんだと信じることができますもの」


「違う。私は知らない」


 青年の声にビブラートがかかっていた。震える手で眼鏡をそっと外す。どこぞのMADムービーで使われている某総統のようだ。


「違うというのなら物証で示してくださいまし。黒森玲央生徒会長様兼、わたくしの一番の読者にして熱烈なファンの白川わたげちゃん!」


 少女はビシッと青年の顔を指さした。


「そう……だとも……」


 ついに認めさせた。と、お嬢様は心の中で会心のガッツポーズを決めた。

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