究極のドリンクバー合成ですわ~!
放課後――
琥珀が母親の水晶さんに呼ばれたため、花音は大福と二人で駅ビル内のファミレスにやってきた。
ドリンクバーとピザにポテトを頼んで、さっそくソフトドリンクを合成する。
「レモネードとアイスコーヒーを混ぜてみましたわ!」
「今日は自分で飲めよ」
「ウッ……なかなか個性的なテイストですわね~!」
大福の前にはミートドリアが湯気を上げていた。
「やっぱ定番ってのは外しちゃならねぇんだよ」
「チャレンジは大切ですわよ」
ドリアには手をつけず青年は真剣な眼差しを花音に向けた。
「なあ、大丈夫なのか?」
「何度も申し上げましたでしょう。胸をこう……むにゅっとはされましたけど、幸い大事には至りませんでしたわ」
「他人事みてぇに言うなよ。全然不幸中の幸いじゃねぇからな」
最近の大福は以前にも増して過保護だ。花音はにがすっぱい炭酸水をストローで飲み干した。
「しかし運良くニンジャが乱入してくれて……マジで危ないところだったよな」
サプライズニンジャが現実になる時点で、超展開もいいところである。
事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものだ。
そんな大福は、ニンジャが用務員をボコして花音に暴行しようとしていた。と、誤解していた。
危険人物は用務員の方だったのだ。
思い出したように青年は「あのニンジャただモノじゃねぇぞ。身のこなしは半端ねぇし、足音も立てねぇしすぐに見失っちまった」と、思い出したように呟いた。
今日の議題はニンジャにあらず。花音は本題に入る。
「大福先輩に聞きたいことがありますの」
「なんだ? 食い物以外の事は正直アレだぞ。弱いぞオレは!」
「ええと……残念ながら美味しいモノの事ではありませんけれど……」
名前を出すべきか迷った花音だが、もはや前に進むしかない。
「黒森生徒会長についてですわ」
「なんだよあいつの事なら本人に聞けばいいだろ?」
正論パンチのカウンターにぐうの音も出ない。が、花音は縦ロール髪を左右に揺らした。
「本人に聞けば主観が混ざりますし、客観的な印象など伺いたいと思いますの」
「聞いてどうすんだよんなこと?」
「それは……」
「ま、まさかあいつのこと好きなのか!?」
大福といえば、好きになったもののことは調べてしまうと、本人も言うくらいである。
「ち、ちちち違いましてよ! 勘違いなさらないでくださいまし」
急に大福の表情が引き締まった。
「探偵として……ってことか?」
「ええ。大福先輩に隠すことはありませんわよね」
「犯人は捕まったんだろ?」
「犯人というよりも……黒幕に近い存在かもしれませんわね」
「あの黒森が? 悪事を働くようなやつじゃねぇぞ。去年、生徒会長に立候補したのだって、たしか仲のいい先輩のためって話だし」
「詳しくお聞かせ願えませんこと?」
青年は腕組みをする。
「無理だ。噂で聞いたくらいだからな」
「では、どうして黒森会長が悪いことをしないと断言できますのかしら?」
「オレの主観混じるけど……つーか100%絞りたての主観だがいいのか?」
「もちのろんですわよ」
大福はやれやれ顔になると語り出した。
「実際よくやってるからな。前の生徒会は横柄で威張り散らすばっかりだったし。そいつらの悪事……ってほどじゃねぇけど、去年の秋の選挙演説で洗いざらい全部ぶちまけやがったんだ。オレも当然、黒森に一票入れた」
そんなことがありましたのね。と、花音は思うだけで言葉にはしなかった。
「他にはなにか、黒森会長のことを知りませんこと。噂レベルでかまいませんわよ」
「曖昧な噂の真相を曝く探偵が噂頼りかよ」
「どのような情報も活用法次第ですもの」
青年は小さく頷く。
「ま、そうだな……なんだかんだで黒森は目立つ男だ。二年の中でも特に噂になりやすい。彼女はまだいないらしいが、挑んだ女子すべてお断りするんで男が好きなのかも……とかな」
「な、なんですって!?」
「けどよ、たしか仲が良かった先輩ってのが女子だったんで、好きだったんじゃないかなんて話だ」
「その方ってもしかして園芸部の?」
「さあ、そこまでは知らんけど。卒業しちまったのは確かだ」
周囲のピースが埋まることで足りない形が見えてくる。花音は続きを促した。
「片思いの相手だったのかしら?」
「聞く相手を間違ってるぞ名探偵。ま、オレからみれば黒森玲央ってやつは『勉学と公務に励むのに手一杯なのだよ』ってな感じで、彼女作ってる暇もねぇんだろうって気がするけど」
知らないというわりに案外たくさん出るものだ。と、花音は目を丸くした。
他にも大福が知る限り、成績は一年生入試の段階からずっと首位をキープしていること。
学業の成績優秀者で特待生入学をしたこと。
市内在住で自転車通学をしていること。
他に情報が出ないか、花音は最後の一滴まで搾り取るつもりだ。
「趣味とか好きなスポーツとかはありませんのかしら?」
「あ~。本が好きってのは聞いたことがあるな。市内の図書館で無料で借りられるからとか。学校の図書室でもよく目撃されてるみたいだ」
「ミステリ小説がお好きなようですわね」
図書室のおすすめ本コーナーは花音がまだ読んでいない推理モノばかりだった。選者は黒森なのかもしれない。
「あとえーっと、なんだっけか。ネット小説? ってやつも結構読むって。アレも無料なんだろ? 黒森は趣味に金かけないタイプみたいだな」
「そ、そうですわね!」
以前にも、学園の図書室で岩下が同じ話をしていた。大福自身はどこで聞いた話か忘れてるようだがおそらく情報はその時のものだろう。
ただ、そのときよりは軽く流してしまったのだが――
「もしかしてお前そういうの詳しいのか?」
「あらあらあら取り乱して失礼いたしましたわおほほほわああああああ」
「乱れっぱなしだぞ。今日の花音はずいぶん元気だな。えーとなんだっけか。オレのダチにもネット小説が好きなやつがいて、そいつも確か……お気に入りの作家を見つけたら応援して育てるのが楽しいなんて言ってんだけど。そんなに流行ってんのかよ? コラボカフェとかできそうだな」
「食べましょう! いただきましょう! 料理が食べてほしいと訴えてきていましてよ~!」
「おもしれー通り越して挙動不審だぞ。ったく」
大福はジト目で少し冷めたミートドリアに手をつける。
花音も少しシナッとし始めたポテトをつまんで口の先っぽにハムハムした。




