知らない方が幸せな事って多すぎますわね~!
サリエリ『あいつのせいで全部無茶苦茶。KKはレイプされればいい』
隠神刑部『わしのビジネスをぶち壊した糞。金持○音市ね」
モリアーティ『二人とも落ち着きたまえ。この掲示板では真名は出さぬが掟だ』
サリエリ『あたしは伏せたじゃん』
隠神刑部『わしだって本名は書いとらんぞ教授。あんたあいつの肩を持つのか?』
モリアーティ『そういうわけではない。冷静になれ。ここはあくまで不満を吐き出すための場だ』
サリエリ『不満だから吐き出してんじゃん』
隠神刑部『あんたが嫌だってんならわしの発言消せばいいだけだろ』
モリアーティ『みなに見られた以上は消したところで……。くれぐれも早まったことはせぬようにな』
隠神刑部『なあおいROM専ども! せっかく鍵を見つけたんだろ? この場所に入る権利を得たんだろ? なのに見てるだけでステージに上がってもこれないお前らはどう思うよ? 負け組のままでいいのかよ!?』
サリエリ『めっちゃ煽ってるし』
モリアーティ『やめたまえ刑部』
隠神刑部『あんたの悩み相談で何人救われたか知らんけど、うんざりだ! バーカ! 死ね! 市ねじゃなく死ね!』
『隠神刑部』が退室しました
サリエリ『ここももう終わりなんじゃない? あんたもざまぁないね』
『サリエリ』が退室しました
『モリアーティ』が退室しました
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白川わたげ『おはこんわたわた~! 星宮先生は学校の裏サイトってご存じですか? わたしは高校生で、友達からそういうものがあるって聞いて怖いなって思ってます。もし、自分の悪口とか書かれてたら立ち直れないかも。先生も気をつけてくださいね。今日は変なことを書き込みしちゃいました。ごめんなさい。やっかい古参ファンからでした~!』
星宮きらら『おはこんきらきらです。ご心配いただきありがとうございます。そういったものがあるんですね。わたしもちょっと怖いなって思います。誰かに後ろ指をさされるようなことがないよう、襟を正して日々の生活を送りたいですね!』
花音は書斎に一人。今夜の執筆の友はアイスレモンティーだった。
ずっと小説を書けずにいる。
書きたいことが増えた。ただ、考えがまとまらない。
現実で色々とありすぎた。文字に起こしきれないほどに。
ノートパソコンのキーボードを軽快に鳴らして白川わたげにレスをする。
思えば、わたげは花音が――星宮きららが投稿を始めて最初に意識した読者だった。
交流掲示板に初書き込みをしてくれたのも彼女なのだ。
今日は原稿の催促ではない。
珍しかった。まるで警告のような文章だ。
「裏サイト……」
ぽつりと呟く。ネットで検索すると、かつてあった裏サイトは現在SNSに置き換わっているという話だ。
まさかあるわけない。と、思いつつ花音は英彩学園のウェブページを開いた。
部活一覧を開く。
それぞれの文字にハイパーリンクがされており、各部活の紹介ページに飛ぶようになっていた。
英語部
演劇部
( )
合唱部
華道部
あるわけがない。と、花音は空白部分にマウスカーソルを合わせる。
リンクが貼られていた。クリックできる手応えが空白部分に、文字一マス分ほど隠されていた。
少女の胸がドクンと鳴る。
この先に何があるのだろう。今確かめなければ、近日中になくなってしまいかねない。
少女は隠されたページを開いた。
『404 not found』
白い画面に空虚を表す文字列があるだけだ。
かつてここに「何か」があったのかもしれない。
が、いにしえのネットミームがお嬢様の耳元でささやいた。
TABキーを押す。
白いページの中に隠されたリンクを見つけた。
隠し扉である。まるで琥珀が探していた平行世界に通じる扉みたいだ。
ただのリンク切れページではない。そう見せかけた別の何かである。
恐る恐る、少女は隠されたリンクを踏む。
小さなウインドウがポップアップした。アドレスは学園のIPではない。
『パスワードを入力してください』
解析ソフトなど使わなくとも、花音には思い当たるキーワードがある。
それを英語に変換した。
ものは試しだ。と、キーボードを叩く。
『revenge』
復讐。学園内のQRコードが導く共通の花言葉だった。
画面が切り替わる。SNSが流行する前のチャットだった。入室しなくても見られるらしく、ログがずっと続いている。
直近の主な発言者の名を読み上げようとして、お嬢様はつまづいた。
「隠神刑部? なんて読むのかしら。それとサリエリに……モリアーティ?」
彼らの最後のやりとりは昨晩零時頃。
そこにKK――
金持花音がほぼ名指しで中傷されていた。
胃の中に鉛を詰め込まれたような感覚に襲われる。
自分がしてきたことは正しくなかった。自身の興味の赴くままに大福や琥珀に頼ってやってきたことだ。恨みを買った。好きにした結果の報いである。
誰も花音に悪意や敵意を直接たたきつけないのは、金持家の令嬢だから。
たとえ噂調査が命じられたものでも、実行に移したのは自分自身だとお嬢様は思う。
ただ、覚悟は……できていなかった。
翌日――
花音は初めて学校を休んだ。




