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お久しぶりの生徒会長様ですわね!

 堅い木の扉をノックして生徒会室に入る。


 今日は会長が一人きりだった。


 軽く肩で息をして花音は執務机の鬼畜眼鏡に訊く。


「他の皆様方はいずこでしょうか?」


 生徒会長は眼鏡のブリッジをスッと押し上げた。


「残務は私が引き受けて先に帰ってもらったところだ」

「あらあらあら、ずいぶんとお優しいのですわね」


 執務机の前に立ち、花音はスクールバッグをどさりと天板に置く。


 大粒の雨がガラス戸を叩き、豪雨の向こうで稲光が走ると遅れて雷鳴が響いた。


 ノートPCの画面から顔を上げて、生徒会長は少女に訊く。


「そんなに私に合いたかったのかね金持花音君?」

「どうしていきなりそのような事を仰いますの?」


「髪型に乱れがあり肩で呼吸をしている。うっすら汗を掻きここまで走ってきたようだ。急ぐほど私に会うのを待ち焦がれていたのではないのかね?」


 口元を緩ませる青年に少女はぶんぶんと自慢の縦ロール髪を左右に揺らした。


「そ、そそそそそんなわけありませんことよ! 違いますわ! 断じて違っていましてよ!」


「しかし急いでいたことには違いない。生徒会室に来ることが楽しみではなかった……となると、例えばそう……何か……もしくは誰かから逃げてきた……といったところか」


 少女は手のひらで胸元をそっと押さえる。心臓の鼓動が早まったのを感じた。


 またしても言い当てられてしまったのだ。この眼鏡目生徒会長科安楽椅子探偵もどきに。


 黒森を睨みつつ少女は訊く。


「それで具体的なご用件はなにかしら? 出頭せよだなんて呼び出しておいて、よほど大事な事ですのよね?」

「テスト期間が明けたのでな。簡単な打ち合わせと私から君への報告も兼ねて来てもらったのだが、何か都合が悪かったかね?」


 悪かったといえばタイミング的に悪かった……かもしれなくもない。自分でもどっちなのよ! と、花音はツッコミたくなった。


 もし生徒会長の呼び出しが無ければ、あの後、小中と二人で学園の裏口からこっそり抜け出して、ラーメンデートをしていたかもしれないのだ。


「な、何も都合の悪いことなんてございませんわ!」

「怒っているように見受けられるが?」

「怒ってなどおりませんわ!」


「ふぅ……君がそう言うのならこれ以上の言及はしないでおこう。さて、先日の学食における噂についてだが……」

「それは無事、解決しましたわよね?」


「報告した君が忘れてしまうとは思わなかったな。君の祖先には鶏がいるようだ」

「な、なんですの! もったいつけるのはおよしになってくださいまし」

「学食の券売機に貼られたQRコードのシールの件だ」


 言われて少女はハッと目を丸くする。


「犯人がわかりましたのね!?」

「早合点が過ぎるぞ金持君。例の券売機について、シールを剥がしたのに再び貼られていたのだったな」

「ええ、そうですわ」


「隠し撮り用の小型監視カメラを設置した。学食の利用時間外も稼働させる予定だ。このことについては設置業者と私と君と学園長しか知らないことになっている。生徒のプライバシーもあるため極秘事項だ。他言は無用。いいな」


「か、隠し撮りですって!? それは倫理的にいかがなものかしら?」

「犯人を捕まえるためだ。仕方なかろう。そもそも発案者は君ではないか?」

「はうあぐぬぬぬぅ!」


「間抜けな犯人が学食でうっかり同じ行動をすれば証拠映像が残る。事情を聞く日もそう遠くはなかろう」


 黒森は淡々と告げると、机の引き出しをそっと開けた。


 透明な小袋を取り出し机上に置く。


「君に倣って同じように保存しておいたものだ」


 チャック付き小袋の中にはQRコードの印字されたシールが入っていた。


「こ、こちらももしかして……」


 みたところ学食で見つかったものと同じようなシールである。生徒会長がうなずいた。


「先日、全校集会のスピーチのリハーサルとしていたところ、講演台の天板の縁に貼られていたのだよ」

「四つ葉のクローバーなのかしら?」

「それが違っていてな。だが、同一犯だと私は考えている」


 別の画像が出てきたのだろうか? 生徒会長が断言した理由は……考えるよりも見ればわかる。


「失礼いたしますわね」


 花音はスマホでQRコードを読み込んだ。海外サーバーの画像リンクに飛ばされる。


 紫色のトゲトゲとした花が表示された。


「この花は……ええと、存じていましてよ! 喉元まで出かかっておりますの」

「どうやらアザミのようだ」

「そう! アザミですわ! あと二秒いただければ正解できましたのに!」

「負けず嫌いが過ぎるぞ金持君」


 生徒会長は小さく息を吐く。


 ともあれ、生徒会長が四つ葉のクローバーのQRコードを貼った人間と、同一犯と断定した理由が花音にも理解できた。


 生徒会長が首をかしげる。


「君の意見を聞こう」

「同一犯かもしれませんわね。ですけれど、どうしてアザミなのかしら?」

「ウィキペディアによるとスコットランドの国花だそうだ。山牛蒡として漬物にもなるという」


 前者はともかく後者は小中が食いつきそうな豆知識だ。今度、この情報で小中にマウントを取ろうと少女は思った。


「でしたら犯人はスコットランドからの留学生ですわね!」

「なぜ犯人が祖国の花の画像を講演台に貼るのかね。それに最初に見つかった白爪草はどうなる?」

「うぬぬぬむふぅ。しろつめ……クローバーが国花な国はありますの?」


「アイルランドだ。三つ葉のそれぞれにキリスト教の三位一体の意味があるらしい」

「学食に貼られていたのは四つ葉ですわね」


 サンプルが二つになったことで共通項を探せるようになった途端にこれである。


 花音は胸を二の腕で支えるように腕組みをして考える。


 特に意識していなかったのだが膨らみが少し強調された。


 が、黒森は眉一つ動かさない。


「何かひらめいたかね星宮き……」

「ストップですわ! 他に誰もいないからといって、わたくしの魂の名前を擦りすぎでしてよ? お控えなさってくださいまし」

「お控えなさってとは、昭和の任侠映画のような言い回しだな」


「それを知っている会長様こそいったい何者ですの? もしかして転生した昭和のおじいちゃんだったりしませんこと?」

「はははっ。さすが先生は想像力豊かだ。見習いたいものだよ」

「むきょおおおお!」


 黒森と会話をしているとお嬢様7:チンパンジー3の割合になりがちである。だいたい全部、この青年が悪い。


「それで共通点は見つかったかね?」

「両方花ですわね! でしたらきっとご実家が生花店か華道家の生徒が犯人ですわ! 動機はもうアレですわアレ」

「アレではわからんぞ」

「好きな草花の写真を見てもらいたかったとかそういったことですわよ!」


 我ながらまったくもってピンとこないと、花音は思う。


 窓の外に投げ捨てる感覚で推理を放棄した。

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