犯人に自供を迫るならカツ丼よりもミートドリアですわ~!
店を出るなり青年は言う。
「もう一軒付き合ってもらうぞ」
「え、ええ!? まだ食べますの?」
「来ねぇんなら謎は迷宮入りだけどな。ちなみに、俺の胃袋はデカい。お前はドリンクバーで合成飲料でも作っててくれりゃあいい」
「い、行きますわ! ドリンクバーのあるお店なら! むしろ大歓迎でしてよ!」
少女の瞳が輝いた。謎解きのついでながらも悲願達成だ。
「なんかテンション高いな。普通のドリンクバーだぞ?」
「だからこそよろしいのでしてよ大福先輩!」
「変な女」
青年は目を細めて笑った。
来た道を引き返し駅前に向かう。
途中で小中は何度か立ち止まると振り返った。
「どうしましたの? 先ほどからちらりちらちらと」
「背中に視線を感じるっつうか。お前は気にならないのか?」
花音にはさっぱりわからない。
「もしかして先輩には霊感が備わっているのかしら?」
「やめてくれよ。幽霊なんざいるわけないだろ」
一瞬、青年の表情が険しくなったのを少女は見逃さなかった。
住宅街から駅に戻ると、テナントの入った商業施設ビルに向かう。最上階のレストランフロアの一角にあるイタリアン系ファミレスが目的地だった。
グラッチェラッチェ――
ONKグループのブランドだ。ランチはワンコインからとリーズナブルだが、生ハムやエスカルゴといった食材は本場から輸入している。
小中曰く、先行する他社の後追いだそうだ。
「美味しい日本の絆なのに直輸入とはこれいかに! ですわ!」
「野菜は全部国産だぞ。他は適材適所ってやつだ。ちなみに学食とは仕入れも共通化してるから、学食にあるメニューはここと同じモノが出る」
「えーと、たしかセントラルキッチンでしたかしら」
青年は満足そうに「そうだ。調理機材も同じだぞ」と頷いた。そして――
「なあ花音。本当に美味いものってなんだと思う?」
「本当もなにも、食べて美味しいと感じたものが美味しいものだと思いましてよ。他に何があると仰いますの?」
「なかなか深いな。俺は……毎日でも食べられるものだと思う」
「毎日でも?」
「美味すぎる料理ってのは飽きるのも早いんだ」
小中が店に入ると来店を知らせるチャイムが鳴った。
店員の誘導で中に通されてドリンクバー近くの席につく。
「あれが伝説のドリンクバーですのね大福先輩!」
「まさか初めてなんて言わないだろうな」
「は、初めてですけれど? 何か問題がおありでして?」
「お前、どういう暮らしをしてたらそうなるんだよ」
言いながら小中は、テーブルに備え付けられたタブレットでドリンクバー二つとミートドリアを注文した。追加で小皿とスプーンも頼む。花音の試食用だ。
「あ、あの! もうドリンクバーしてよろしいのかしら?」
「好きにやれ。ちなみにコーヒーマシンはエスプレッソ抽出タイプで一台百万円はするものだ。こいつをドルチェのミルクジェラートに……って、聞いてねぇな」
少女はソフトドリンクのサーバーでコーラとジンジャーエールの合成に成功した。
「7:3で割ってみましたわ-! 禁じられし愉悦ですわ~!」
「自分で飲めよ」
「わたくし炭酸は苦手ですの! それに先ほどアイスコーヒーを飲んだばかりですもの。先輩の胃は大きいと伺っておりますし、やれと仰いましたわよね?」
「わかったよ俺が飲めばいいんだろ!!」
花音も我ながらひどいとは思うが、やってみたいと飲みたいは別である。
そんなやりとりからほどなくして、ミートドリアが運ばれてきた。
小中は花音の分を味見用の小皿に取り分ける。
「食べてみてくれ」
「い、いただきますわ」
見た目が学食で出されるものと同じだった。わざわざ食べに足を運んだからには、理由があるはず。少女は目を閉じ集中して味わう。
「やっぱり学食のものと一緒じゃありませんこと?」
三度目の正直な感想だった。
「本当に同じか?」
「そう仰られますと……うーん、かすかに。ほんの少しだけ学食のドリアの方が香ばしいような……気のせいかしら?」
小中は小さく息を吐く。
「実は俺もお前と同意見なんだ。だが、学食のミートドリアは誤差レベルに収まるかどうかギリギリのラインを超えてくる」
「もしかして先輩が学食で首を傾げながらミートドリアを食べていたのって……」
ようやく答えに……少女自身の納得にたどり着いた。花音は紙ナプキンで口元を軽く拭いてから青年の顔を指さす。
「ずばり! 同じ仕入れと調理機材を使っているのに学食とお店でミートドリアの味が違うから、首を傾げていましたのね!」
ほとんど答えを教えてもらったようなものだが、少女は自分の手柄のように宣言する。
「ま、そういうこったな」
返しつつ小中は本日三つ目のミートドリアに取りかかった。一口目から「そう、この味だ」と納得している。
「ドリアのライスは黄色いですけど、サフランではありませんわよね?」
「ターメリックだ。カレーの黄色を担う香辛料だな。サフランライスはとてもじゃないがコストオーバーだ」
「同じモノばかり食べていて飽きませんの?」
「飽きさせないよう、チーズや半熟卵のトッピングがある。それにこのドリアだって開店当初から三百回は味を変えている。昔と変わらない、普通なんだけどホッとする味……と、お客様に思ってもらうために工夫し続けているんだ」
昔ながらのラーメン店の話を小中は付け加えた。常連客は「変わらない味」といっているが、スープに使う豚骨の量が、その店では当初の三倍になっているらしい。
食べ物うんちくになると青年は脱線しがちだ。
少女が胸元で両手をぽんと合わせた。
「もしかして学食のドリアとお店のドリアでは、レシピのバージョンが違うのかもしれませんわね」
三百回の試作が今、三百一回目にさしかかっていたとすれば、普段から食べ慣れている小中になら違いがわかるのかもしれない。
が、青年はそっと首を左右に振る。
「いや、そんなはずはないんだ。毎日同じセントラルキッチンから入荷しているからな」
仕入れも機材も同じである。学園のミートドリアにだけ違う材料が混入しているわけがない。
花音はスプーンをゆらゆらと揺らしてぽつりと呟く。
「でしたら、誰かが学食の調理場でレシピに一工夫しているのかもしれませんわね」
執事の鋼っぽく言えば「愛情という隠し味をひとつまみ」といったところか。と、少女は心の中で付け加えた。
ミートドリアと格闘していた小中の手から銀のスプーンが落ちた。




