謎が解ける前に脳みそがとろけるチーズみたいに溶けてしまいますわ~!
調査四日目――
花音はカルボナーラスパゲティを選んだ。以前に執事の鋼が作ったものと雰囲気がずいぶん違っている。
学食のカルボナーラはクリーム感のあるソースに半熟卵が載っていた。
「こちらもカルボナーラですの? わたくしが以前食べたものとはまるで別物ですわね」
本日も同席中の小中が軽く腕組みする。
「どう違うんだ?」
少女は眉間にしわを寄せ記憶をたぐり寄せた。
「あれはたしかそう……半熟卵は載っていませんでしたし、麺が平べったかった気がしましてよ」
「そいつは本場のレシピだな。学食で出してるのは日本でアレンジされたメニューだ」
本来のカルボナーラは平打ち麺で、生クリームを使わず卵黄とペコリーノという羊の乳のチーズで仕上げる。ベーコンやパンチェッタではなく豚ほほ肉の塩漬けを使う。と青年は解説した。
少女は思う。彼の父親は美食的な倶楽部でも主催しているのかもしれない。
妙に食べ物にこだわりのある小中は、本日もミートドリアである。
解せぬ。初日のカレーうどん以来、ドリアドリアドリアのドリア祭りだ。
花音はようやく答えにたどり着いた。
灯台もと暗しどころか、学食という大海に放り込まれて遭難しかけた花音の道しるべとなった、灯台そのものが目的地だったのである。
「噂の元になったのは大福先輩でしたのね」
「はぁ? 何言ってんだよ。そりゃ昨日の話だろ」
「さすがに三日連続で同じミートドリアを食べているのはおかしいですわ。しかも食べながら首を傾げたり渋い顔をしたり。端から見ていたら変だと思いましてよ」
「そんなにおかしいか?」
「料理に詳しいのに同じモノばかり。加えて身長が高くて目立つし運動部から勧誘が定期的にやってくる。なにより、わたくしから見ても、大福先輩以上に目立つ生徒は四日間を通じて一人としておりませんでしたわ!」
「お、おう」
お返しとばかりに、花音は小中の顔面を指鉄砲でBANと撃ち抜く。
「最初にカレーうどんを食べた時、給仕の宮本様が仰っていたのを思い出しましたの。『大福ちゃんがカレーうどんなんて珍しいわねぇ。彼女ができたからお揃いなのかい?』だなんて! まあまああらあらなんと破廉恥な!」
花音は丁寧に口まねをした。あまり似ていないという自覚はある。
小中は似てなさっぷりがツボったのか、軽く吹き出した。
「別にお前と付き合ってるわけじゃないのにな」
「そこじゃありませんの前です前ぇッ! カレーうどんなんて珍しいって証言が重要でしてよ!」
「よくそんな細かいこと覚えてるな」
「大福先輩は以前からミートドリアばかり食べていましたのね。大きな身体で食べ盛りの男子高校生が、お昼にドリアだけというのも違和感がありましてよ。それを見た他の生徒たちがヒソヒソと噂をするようになり、生徒会に通報された。これがわたくしの仮説ですわ」
「本当にそうなのか? 証拠もないだろ?」
少女は「くっくっく」と肩で笑う。
「真実がたった一つでも、必要とは限りませんの。なんなら解決する義務さえもございませんことよ。依頼者の首を縦に振らせるだけの説得力と筋さえ通れば十分なのですもの」
大事なのは黒森がある程度納得するかどうかだ。
花音の役目に解決までは含まれない。
「じゃあ、もうこの捜査会議は終わりなんだな」
小中の眉尻が落ちる。どことなく寂しそうだ。
彼が言う通り、花音が学食で容疑者を捜す必要はもう無い。
無いのだが――
「ところで、どうして先輩はミートドリアばかり頼みますの?」
小中は凍るように固まった。が、すぐに口元が緩む。
「なあ花音。お前も探偵なら当ててみろよ。料理人が他の店のレシピを舌で分析するみたいにな」
ここにきて追い詰められた犯人が息を吹き返す……とは言い過ぎだが、動機については謎のままだ。
明らかに小中から花音への挑戦状である。
少女はピンと人差し指を立てる。
「ずばずばのずばり! 食べ物のアレルギーがあるんですわね!?」
「ハズレだな」
「でしたら宗教的な戒律かしら?」
「それも違う」
「じ、実はドリアのお肉は大豆ミートで大福先輩はヴィーガンだったのですわね」
「ミートドリアは牛豚合い挽き肉だ。だいたい、一緒に食べたカレーうどんに豚バラが入ってただろ?」
「お、おほほほほ♪ わかっていましてよ。今のは鎌を掛けたに過ぎませんわ」
「俺がどういうボロを出すと思ってたんだよ」
少女はじっと小中の顔をのぞき込む。
ミートドリアが美味しいから。好物だから。
これもなんだか違うように思えた。なにせ小中は食べる度に首を傾げている。怪訝そうだ。
少女は沈黙した。何も思い浮かばない。
小中は席を立ち、空になったドリア皿の載ったトレーを持ち上げた。
「時間切れだ。黒森のやつに報告するなら好きにしてくれ」
言い残すと小中は花音の元から去っていった。




