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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
15歳

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96:開き直った元婚約者

 ミラルドに刃物をちらつかされ、私は思わず尻込みしてしまう。


(なんとかしなきゃ……!)


 しかし、私が手を出すより早く、駆けつけたリカルドがミラルドを突き飛ばした。

 転倒したミラルドは、棚に全身を打ち付ける。


「大丈夫か、ブリトニー」

「うん、ありがとう」


 ミラルドがぶつかった棚にあったのは、大量の塩。それが、上から彼の全身に降り注いでいる。

 リカルドがさりげなくミラルドから距離を取っているのは、おそらく兄の体から漂う悪臭のせいだろう。

 彼は麝香の香りに敏感だ。


「くそっ! いつも邪魔ばかりしやがって! お前さえいなければ……俺は苦しまずに済んだ! 何も考えずに、アスタール伯爵家の跡取りとして幸せに生活できたはずなんだ!」


 塩を払い落としながら叫ぶミラルドに向かって、リカルドも口を開く。


「甘ったれるのもいい加減にしろ! 伯爵家の跡取りが、何の苦しみもなく幸せなだけの立場だと思っているのか!?」


 リカルドが、他人に対して声を荒げるのは珍しい。

 私との初対面の時はツンツンしていたけれど、ここまでではなかった。彼は、基本穏やかで真面目な性格だと思う。

 でも、リカルドの言うことは尤もだ。私の従兄のリュゼだって、跡取りという立場のせいで、苦労ばかりしている。


(この間も、疲労で体調を崩して倒れたし。今も、北の街で戦っているはずだし)


 けれど、決して出来の良くない私は、ミラルドの言うことも理解できてしまう。


(もし、私が男だったら、リュゼに嫉妬していたと思うし。だからといって、ミラルドみたいな真似はしないけど)


 せめて、彼にもっと人望があれば、話は違っていただろう。

 幼い時からリカルドに親身になって接していれば、弟は優秀な補佐として愛する兄を支えたかもしれない。

 だが、彼は自ら味方となるはずのリカルドや、彼の両親たちを裏切った。

 現状は、今まで全ての積み重ねであり、その結果だ。


 倉庫の入り口付近では、味方の兵士が倒した敵を捕えていた。

 リカルドはミラルドに剣を突きつけたままである。その目は……据わっている。


(リ、リカルド!?)


 兄を殺す気はないようだが、様子がおかしい。


「ミラルド、なぜブリトニーに剣を向けた? 錯乱していたとはいえ、本気で彼女を殺す気だったのか……?」

「そんな女、どうだっていいだろう。そこまで感情的になるなんて、そいつに本気で惚れているのか?」

「だったら何だ?」


 リカルドは、素でミラルドの言葉を肯定した……!

 それを聞いた私の頰が急激に熱くなっていく。


(いやいやいや、ときめいている場合じゃないから)


 敵を拘束した味方兵士に頼んで、ミラルドも拘束してもらう。


「必要なものを持って、急いで戻らないと」


 怪我をした人々のために、早く精油を役所へ運ばなければならない。

 あれこれしているうちに、かなり時間が経ってしまった。


 味方の兵士二人はミラルドを連行し、残りのメンバーで精油を運び出す。

 

(さて、問題は帰り道だ)


 敵と味方が戦っている中を、荷物を抱えて役所へ行かねばならない。

 リカルドと共に意を決して外へ出ると……!


「あれ……? 予想外に静かだなあ」


 私たちが倉庫の中にいる間に、あれほど激しかった争いが静まっていた。


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