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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
15歳

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95:麝香兄さんの暴走

 ミラルドは、なおも話を続けた。


「病気を言い訳にしなければ、普通に暮らすこともままならない! リカルドさえいなければ……俺は堂々と次期伯爵を名乗れるし、父上だって考えを改めるはず! だいたい、おかしいんだ。最初は、お前を俺の補佐に付けると言っていたはずなのに!」

「それは……」


 応戦しながら言葉を紡ごうとするリカルドを遮り、ミラルドは私を睨みつけながら言った。


「そこの女が原因か。父上はハークス伯爵がお気に入りだからな。大方、その娘との婚約を条件にして取り入ったのだろう」

「それは違う、現にブリトニーとの婚約の件は保留にされているだろう?」

「なら、どうして今もそいつと一緒にいる? 本来なら、お前はハークス伯爵領へ来ていないはずだ……味方にこちらのことを探らせていたが、お前が王都を出ていると聞いて驚いたぞ」


 ミラルドは、私とリカルドの婚約について詳しく知らないようだ。

 勘違いを続けている。


 この場にいても足手まといだし危ないので、私は狙われにくいように倉庫の奥へ移動した。

 近くには、香料の入った瓶がたくさん置かれている。

 その中には麝香の原液もあった。


「女を狙え! そいつは、捕獲して連れ帰る!」

「ええっ!?」


 余計なことを言うミラルドのせいで、敵の兵士たちが一斉に私を見た。

 そのうちの一人が、味方の兵士を突破してこちらに迫る。


「嫌ーっ!」


 私はとっさに麝香の原液の入った瓶を投げた……が、勢い良く飛んだ瓶は兵士に当たらず、奥にいたミラルドの額に直撃して割れた。

 彼の悲鳴が聞こえてくるが、こちらはそれどころではない。

 敵兵に捕まるわけにはいかないのだ。


 倉庫の奥へと走る私を追う敵兵。

 味方は手一杯でこちらへ来られない。


(これは、自分でなんとかするしかなさそう)


 運良くバスソルトの完成品が置いてあったので、中身を掴んで敵に投げる。


「これでもくらえ!」

「うわああっ!」


 目の中に塩が入った敵は、真っ赤な目に涙を浮かべながらも襲いかかってくる。

 だが、その動きは鈍い。


「お祖父様直伝、護身術!」


 私は襲いかかって来た敵兵の腕を引き寄せると、その小指を反対方向へとつかんで折り曲げた。


「痛い! 痛だだだだだだ!」


 かなり地味だし力も要らないが、この小指攻撃は本当に痛い。

 そのまま悶える敵の頭をつかんで、近くの棚の角に叩きつけてみた。

 最初に投げた塩が効いたのか、敵の動きは鈍く倒し易い。


(よし、気絶したね)


「こ、このっ……!」


 それを見たミラルドは、怒りをあらわにして私の方へ走って来る。

 麝香の原液を浴びたせいで、かなり獣臭い。


「くそっ、倉庫内の物を持ち帰るのはやめだ。こうなったら、お前だけでも連れて帰る……!」


 当初の彼の目的は倉庫内の原料だったようだ。

 アスタール伯爵領に石鹸やバスソルトの技術を持ち帰りたかったのだろう。


 ミラルドが私を攫うのは、リカルドの目的を邪魔するためでもあるし、私から製品情報を聞き出すためだと思われる。

 きっと、彼はそれを自分の手柄にする気だ。


(そんなこと、させない!)


 でも、少し問題がある。

 先ほどの敵兵とは違い、ミラルドは抜き身の剣を手にしていた。

 今までの相手は、こちらが令嬢ということもあり、侮って素手で襲いかかってきたので対抗できたが……


(剣相手だと、下手をしたら死んでしまうんじゃない?)


 私が祖父から学んでいるのは、普段役立つことの多い護身術で、どちらかというと格闘術寄りのものだ。

 剣術も一応学んでいるが、普通の令嬢が帯剣する機会はほとんどないということもあり、訓練は後回しになっている。

 木剣を使っての打ち合いならしたことがあるが、本物の剣は扱ったことがない。


(……こんな状況になるなんて、予想できないし!)


「ブリトニー嬢、抵抗しないならこちらも剣を下ろそう。だが、そうでなければ、どうなるかわからないぞ?」


 迫り来るミラルドに向けて、思わず私は心の中で叫んだ。


(捕獲するんじゃなかったの? 私を殺す気ー!?)


 一体、何がしたいんだ!?


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