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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
15歳

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93:物資調達と見覚えのある人

 東の空の色が白く変わり始める。もうすぐ朝が来そうだ。

 だが、敵の兵士は諦めることなく、ひっきりなしに石鹸でつるつる滑る坂道を上がってくる。


 退治しても退治しても、どこからともなく現れる彼らに、西の町を守る兵士たちやマーロウ王太子から借り受けた小隊も困り果てていた。

 もともとの人数差は埋めようがない。


 ハラハラしながら状況を見守る中で、新たな情報が入った。

 統率が取れた動きの兵士が、南から押し寄せて来ているとのこと。

 その兵士たちは、アスタール伯爵領の緑の旗を掲げているらしい。


 ギョッとする役人たちに向け、リカルドが「それは援軍だ」と告げる。

 彼の言った通りで、援軍たちはさっそく敵と戦い始めた。

 助けが入っても人数的には互角だ。

 ミラルドは、大量の傭兵を雇っている。


 先ほどよりは希望が見えたことで、役所内の暗いムードが和らぎ始めた。

 しかし、そんなタイミングで階下から複数の悲鳴が聞こえてくる。


「なんだ?」

「わからない。リカルド、行ってみよう」


 数名の役人を伴って階段を降りる。

 悲鳴の発生元は、怪我人たちが休んでいる大部屋のようだ。

 ここは、戦いの最中に怪我をした兵士が運ばれ、応急処置を受ける場所である。

 中から走り出てきた役人が、蒼白な顔で私に訴えた。


「大変ですっ! 患者の中に敵兵が紛れ込んでいました!」

「……で、その兵士は?」

「中で暴れております。今、役所内を警護している者が必死で止めていて……」


 その言葉を聞くと同時に、リカルドが部屋の中に走り込む。

 彼は、味方の兵士ともみ合っている敵兵へ走り寄ると、そのまま相手のみぞおちに強烈な一撃を叩き込んだ。

 敵はあっけなく、その場に沈む。


(昔と比べ物にならないほど、リカルドが強くなっている……?)


 成長した彼を頼もしく思いつつ、私は役人に患者を全員調べ直すよう指示を出した。

 アスタール伯爵領の兵士は、リカルドが中心になって確認してくれるようだ。

 今の戦いに巻き込まれ、怪我が悪化した患者を別室に移して看病する。


「どうしましょう、消毒用の薬が切れました」


 患者のケアを手伝う町人の女性が、慌てて私に訴えてきた。

 一般的にこの地方で使用している消毒薬というのは、度数の高い酒を指す。

 しかし、そこまで大量にストックされていなかったのだろう。


「どうしようか。確か西の町の倉庫に、香り付けに使用するハーブがあったよね」


 この街では、海で取れる塩を使い、バスソルトなどを新たに生産している。

 また、石鹸の材料である海草の灰汁などの産地でもあり、従兄によって現地で石鹸を生産する施設ができたところだった。

 そして、それらの材料の中には、ティーツリーなどの殺菌作用のある精油が含まれている。

 ラベンダーも、殺菌効果や心を落ちつかせる効果があった。


(とりあえず、使えそうなものを片っ端から用意しよう)


 しかし、材料のある倉庫は港の方だったと記憶している。

 つまり、調達するためには役所の外へ出て、西側まで移動しなければならない。


「弱ったな。この戦いの中で、役所と倉庫を往復しなきゃならないなんて」


 ハーブに縁のない兵士たちは、植物の種類を見分けることができないだろう。


(薬草の管理者は、女性が中心だしな)


 役人の話によると、この町では男性は漁に出ることが多く、その他の収入源として女性がバスソルトや石鹸作りに携わっているとのことである。


(ここは、最低限の護身ができる私自身が行くのが、一番手っ取り早そうな気がする)


 仕方がないので、少しの護衛を連れて近くの倉庫へ向かうことにした。

 動きやすい格好に着替え、兵士を装って役所を出る。

 すると、そこへリカルドが走ってきた。


「ブリトニー、俺も行く。怪我人の確認は部下に任せられそうだ」


 一仕事終えた彼は、かなり急いでやってきたようだ。

 私は、ためらいがちに声をかける。


「敵兵もいるし、危ないかもしれないよ?」

「だから来たんだろ。ブリトニー一人を危険な場所に行かせたくない」


 正直心強いけれど、彼の身は心配だ。

 ここは、さっさと材料を持って引き返さなければならない。


 敵から身を隠しつつ目的地へ向かう。

 幸い物陰が多く、無事に倉庫へ辿り着くことができた。

 問題は、荷物を抱えて移動する復路である。


 倉庫の奥に、大きめの瓶に入った精油が置かれていた。

 その中から使えそうなものを外へ持ち出すのだが、力持ちの護衛やリカルドが、運び出す作業を難なくこなしてくれた。

 私も瓶を持って、倉庫を出ようとしたその時――

 入り口から、数名の敵の兵士と見覚えのある人物が入って来た。

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