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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
15歳

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92:命と体力は大事(リュゼ視点)

 北での戦闘は、思ったよりも長引いていた。

 天候も悪いし、体力も徐々に削られてくる。


(少し前の僕なら、きっと体を壊して倒れていただろうな)


 僕――リュゼ・ハークスには、自分の体力を考えずに突っ走る傾向があった。

 でも、今は無理をすることはあっても、無茶をすることは控えている。

 従妹のブリトニーにきつく言われたからだ。


 彼女の言葉がなければ、僕は今も前線で自分の体力の限界も考えずに駆け回った挙句、寝込んでいたことだろう。

 そして、こんな場所で倒れたら、それこそ命取りになってしまう。


 僕は今まで常に自分に厳しく行動してきた。

 完璧でなければならないと、心の中にいつも焦りを抱えていた。

 けれど、ブリトニーは、そんな僕の隠した本心に気がつき、負担を共有すると口にした。


 前方では、もはや野盗に扮することもやめた北の国の軍勢が控えており、数度ぶつかり合いがあった後は膠着状態が続いている。

 どちらも、この戦いを制する決め手に欠けているのだ。

 ハークス伯爵領側は、目の前に見える軍勢を押しのけるだけの人数が揃っていなかった。

 兵士の三分の一は祖父が従えており、残りは西側に置いている。


 北の国側はあまり動かず、たまに思い出したように攻撃を仕掛けてくる。

 そんな中、焦った表情の伝令が駆け込んで来た。


「伯爵様、大変です! 敵の軍が北上しているようです!」

「どういうこと?」

「アスタール伯爵領の軍が南を迂回し、ハークス伯爵領の西側を攻めているようです。西側の町は、頑張って持ちこたえていますが、西が落とされればこの場所が挟み撃ちに遭ってしまいます!」


 まさかの裏切り行為に、息を呑む。

 リカルドは王都にいるし、彼の両親がハークス伯爵領を裏切ることはない。

 一体、何が起きているのか……


「それで北の軍勢は動かなかったんだね。増援を待っていたのか……で、お祖父様は?」

「もうすぐこちらに到着されるかと」


 アスタール伯爵領が裏切ったことに動揺したが、それを表に出すわけにはいかない。

 自分がうろたえれば、それは味方全員に伝染するからだ。


 しばらくすると、祖父たちが到着したので彼らを出迎える。

 祖父は、なぜか王都の兵士たちを大勢引き連れていた。

 王都の軍とハークス伯爵領の軍は見た目が少し異なるのでわかる。


 しかも、王都の兵士たちは、この国の旗まで掲げている。

 国としては、ハークス伯爵領に味方するという意味だ。


「お祖父様! 後ろにいるのは王都の軍ですよね」

「ああ、マーロウ王太子殿下が寄越してくれた。これで、あちらにいる敵の軍は叩けるだろう」

「はい。ですが、アスタール伯爵領が裏切って、西側に兵士を向かわせているとのこと。そちらも対策が必要です」


 僕の言葉を聞いた祖父の顔が一瞬にして血の気を失う。


「そそそそそ、んな! 大変だ! どどどどど、どうしよう!」


 歴戦の戦士らしからぬ慌てぶりだ。


「落ち着いてください。アスタール伯爵領の兵士はいますが、通常であれば彼らが裏切るはずがない。きっと内部でも意見が割れているはず……」

「違う、そんなことはどうでもいい! あそこには、ブリトニーがいるんじゃあ!!」

「……っ!?」


 その言葉を聞いて、僕の心臓が凍りつく。


「ブリトニーは、王都にいるのでは?」

「マーロウ殿下が兵士を派遣してくれたのは、ブリトニーのおかげなんじゃよ。あの子は今、西の町を支援しに行っとる。リカルドも一緒だ」


 祖父と話していると、もう一人伝令がやって来た。


「北の国は、西の海側にも兵士を送り込んでいます。大きな船が十隻ほど西側へ向かったとのこと」

「……」


 僕と祖父は、思わず顔を見合わせた。


「船に関しては大丈夫でしょう。あの入り組んだ場所に大きな船が入ることは不可能ですから」

「そうじゃな。あんな場所に大きな船を回すなんて一体何を考えとるんだ? 西の空は黒い雲だらけだし、海は大荒れだろう……こちらの地理に明るくないのか?」

「僕もそう思います。それよりも、アスタール伯爵領からの兵が心配です」


 ブリトニーと共にいるリカルドは、そのような裏切り行為をする人物ではない。

 同じく祖父と仲の良い伯爵も無関係、奥方も進んで他領を攻めるような攻撃的な性格ではない。

 ……そう思いたい。


「お祖父様、北側の指揮をお任せしても良いですか?」

「ああ、このような戦いは過去に何度も経験しておるから得意分野じゃ。リュゼはブリトニーの元へ行ってやっておくれ」

「はい……!」


 北側から五分の一ほどの兵士を引き連れ、馬で西に向かって駆け出す。

 いつものような無茶な動きをしなかったおかげで、体力は十分に残っていた。


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