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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
15歳

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91:石鹸道と難破事件

 私とリカルドは、揃って会議室に入る。

 あらかじめ指示を出していたので、そこには役人たちの代表が集まっていた。

 全員で、早速話し合いを開始する。


「まず、現実的な話としまして……ここの海は岩場が多く、船が乗り上げる可能性が高い。普段は目印として杭を刺していますが、それを抜いても地元の漁師は水路を覚えているので大丈夫。目印さえ抜いてしまえば、海から来る軍勢はほぼ上陸できないかと。漁師に兵の乗った船の操舵を任せれば、なんとかなりそうです」


 役人の一人がそう言うと、他のメンバーも同意する。

 この場所の事情に詳しいのは地元民である彼ら。外部の人間である私やリカルドは、彼らの話を聞き、客観的で正しい判断を下さなければならない。


「南の敵の位置は割れている。部下の話によると、アスタール伯爵領から馬鹿正直に北西へ向かっているらしい」


 リカルドの話に、私は頷く。


「海からの敵は、まだ姿を見せていないね。雨で海が荒れているから大変な思いをしているかも」

「それに関しては、天候のおかげで助かったな。ただでさえ波が荒いここの海は、現在最悪な状態になっている。難破している船も出ているかもしれない」

「……だといいけど」


 元から西にいた兵士たち、役所の護衛係、マーロウ王太子から預かっている小隊、後から来るらしいアスタール伯爵領からの援軍。

 現状、それだけの人手で、この状況をなんとかしなければならない。


 会議の後、私たちは役所を中心に周辺を封鎖していった。力のある男性を中心に民家から大きな家具や荷車などを持ち出し、役所への道を塞ぐようにバリケードを築き上げる。

 堅牢な石造りの役所は、砦の役割も担っているのだ。


 すでに侵入している野盗を完全には防げないが、大勢の敵兵が細い町の道を通り辛くなる。

 そして、西の町にあった石鹸材料の油などを、女性たちで少し薄めて役所に通じる主要な石畳の道に撒く。使用する油の中には、ワックスのようによく滑る種類があるのだ。

 雨の強さは弱まってきたが、視界の悪い中で石鹸道を作れば、滑って転ぶ者が多数出るだろう。

 特に、西の海側や南側から役所へ通じる道は全て急な石畳の坂になっている。


(敵の攻撃力が弱まれば助かる)


 弓が得意な兵士には、バリケードを超えた者を中心に狙ってもらうようにした。

 その周辺の家の明かりは、全て付けっ放しにしているので、敵に消されない限り的が見える。

 海辺には、漁師や海上戦のできる兵士が向かった。しかし、海がすごい荒れようなので、船の近くで待機して敵の様子を窺っていた。


 すでに深夜という時間帯で、外は雨の音だけが響いている。

 そんな中で、窓の外から敵の兵士らしき雄叫びが聞こえて来た。南側に松明の明かりが見える。

 少し遠い上に暗さと雨でおぼろげにしか見えないが、リカルドの言っていたミラルドの兵士たちのようだ。暗がりに浮かび上がる、アスタール伯爵家の赤い旗が見える。


「明るくなるまで、待ってはくれないみたいだね……」

「ったく、あの兵士ども。堪え性がないところが兄にそっくりだ」


 私たちは、砦も兼ねた建物である役所の上階に人々を避難させ、弓兵を配置して周囲を固めた。


(うん、防衛戦って感じ)


 しばらくすると、石鹸を撒いたあたりから悲鳴が聞こえてきた。

 つるつる滑って先へ進めない敵兵や野盗の残党たちを、民家に潜んだ味方兵士たちが次々に退治していく。すでに、野盗の多くは、先ほどの火付け騒ぎでリカルドたちに退治されているのだが。


「大丈夫だ、ブリトニー。きっとアスタール伯爵領からの援軍は間に合うから」

「うん……」


 そうこうしているうちに、海辺の方から良い知らせが入って来た。


「敵の船が、全部難破している模様です! 浜辺に、船の残骸や人が打ち上げられております!」


 状況を知らせに来た兵士の話によると、敵の船が現れる気配は全くないとのこと。

 杭などの目印や岩礁への乗り上げ以前の問題だったらしい。


(漁師たちも、海へ出るのをためらうような天気だからな。それにしても、北の国はきちんとこちらの状況を調べていたのかな? こんな無謀なことをして……)


 私と同じことを考えたらしいリカルドが、ボソボソと口を開く。


「以前、ルーカスから聞いたことがあるのだが。今回騒ぎを起こした彼の姉というのは、女版のミラルドみたいなやつらしい」


 もはや、彼は兄の名前を呼び捨てにしていた。

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