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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
15歳

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81/259

80:王太子の意外な性癖と白豚令嬢の試練

 一ヶ月後――

 私は、王女の部屋に呼び出されていた。

 この部屋の主、まつ毛が正常に戻ったアンジェラが白と黒の部屋(寝室ではなく客室)の中に佇んでいる。


「ブリトニー、ダイエットの成果はまずまずのようね。五キロ減ならこの先もなんとかなりそうですわ。それと、あなたにお話ししたいことがありますの」


 革張りの長椅子に案内された私は、メイドに促されるままそこに座ってアンジェラを見た。

 今度は何を言われるのだろうと構えていると、彼女の口から驚愕の言葉が放たれる。


「今度のお茶会では、各自得意な歌を披露することになりました。ブリトニーにも、もちろん歌っていただきますわよ」

「歌!?」


 いきなり何を言い出すのだと、動揺した私の声が裏返る。


「……そういう催しなのですわ。この間は楽器の演奏でしたし、その前は詩の朗読です。お茶会は、日々極めた芸術を披露する場でもありますのよ」


(ちょっと待ってー!)


 心の中で叫び声をあげた私は、今後に思いを馳せて絶望した。


(大恥をさらす未来しか思い浮かばない……!)


 確かに、令嬢たちにとっては、日頃から努力を続けている技術を発表する晴れ舞台なのだろう。

 披露するとなれば、練習にも力が入るというもの。

 しかし、芸術系の才能が皆無の私に、城のお茶会で歌えというのは拷問に等しい。


「ブリトニー? どうかしたのですか?」


 様子が変だと気がついたのだろう、アンジェラが首を傾げながら近づいてくる。


「王女殿下……実は」


 私は、自分の芸術の才能について彼女に包み隠さず話した。


「あら、お兄様が『ブリトニーの詩はすごい』などとおっしゃっていたから、歌も得意なものだと思っていましたわ」

「……リュゼお兄様とリカルドは、爆笑していましたけどね」

「ともかく、歌の発表は決定事項ですから練習しておきなさい。不得手というのでしたら、お兄様にも頼んでおきますし」


 アンジェラは、そう言って、また私に無茶振りをする。練習でどうにかなるのなら、今頃私は歌姫になっていることだろう。


(というか、忙しい王太子に私の歌の練習を任せるなんて……まずいんじゃないの?)


 そう思いながらアンジェラの部屋を出ると、外に笑顔の王太子が待機していた!

 彼は以前も妹の部屋の前で私を待っていたことがある。


「……マーロウ様、ごきげんよう」

「やあ、ブリトニー。城での暮らしには慣れたか? 不便なことがあればなんでも言ってくれ」

「お気遣い、ありがとうございます」


 挨拶していると、そこにアンジェラが割り込んできた。


「お兄様! ちょうど、お話ししたいことがあったのですわ!」

「ん? どうした、アンジェラ?」

「ブリトニーに、今度のお茶会で歌うために、歌を教えていただきたいのですわ!」


 アンジェラの無茶振りは、私にだけでなく、無差別に行われるようだ。

 だが、にこやかな王太子は、妹の言葉に屈したりはしなかった。むしろ、嬉しそうですらある。


「あの、マーロウ様。お忙しいのはわかっておりますので、私は……」

「問題ない! 喜んで指導しようではないか!」

「ええっ!?」

「そうだ、知人に歌の得意な者がいるのだが。彼も呼んでみよう!」


 王太子は、歌のレッスンにノリノリだ。

 こうして、なし崩し的に私の歌のレッスンが決まってしまった。



 翌日から、私はマーロウ王太子の空き時間に歌のレッスンをすることになった。

 案内されたのは、彼が歌や楽器を演奏する部屋みたいだ。

 部屋の奥に様々な楽器が置かれており、その手前に低めのステージのような段差がある。


(本格的だ……)


 そして、そのステージの上には、二人の青年が立っている。


「リカルド! と、ルーカス様……なんで、ここに?」


 私の疑問には、爽やかな笑みを浮かべる王太子が答えてくれた。


「北の国の第五王子、ルーカス殿下とブリトニーは、面識があるだろう?」

「ええ、はい」

「彼は歌が上手いと有名なのだ。せっかくだから、これを機に彼とも仲良くしたいと思って声をかけたら、快く話に乗ってくれてな。リカルドは、彼の付き添いだ」

「そうですか……」


 北の国とこの国は、過去の戦争の件もあり、未だに少しギクシャクしている部分がある。

 マーロウ王太子としては、ルーカスと交友を深め、北の国との関係を改善したいのだろう。


(これは、外交的なお付き合いなんだよね。それが、私の歌の練習って……いいのかな?)


 というか、この三人の前で歌うのが嫌すぎる。

 艶やかな銀髪を掻き上げたルーカスは、戸惑いがちに私に声をかけた。


「お久しぶりですね、ブリトニー嬢。ええと……以前より、かなり太りました?」


(直球だな! これでも少しは痩せたんだけど!)


 やはり、世の男性は、リカルドのように温かい目でデブを見守ってはくれないようだ。

 しかし、ここで意外なフォローが入る。


「私は、今のブリトニーの体型が健康的で良いと思うぞ! 初対面の時の体型の方が、貫禄があってより好ましいがな」

「えっ……?」


 王太子の投下した、まさかのデブ専発言に、残る二人の男性陣はあんぐりと口を開けた。

 私も、「健康的」や「貫禄がある」がここまで良い意味で使われたのを初めて聞いたよ。普通は、太っている人間を貶めるため、遠回しな嫌味で使う言葉だものね。


「では、さっそくブリトニーの練習を始めようか。茶会は一ヶ月後に迫っているわけだが……曲目は決まっているのか?」

「ぐふふ、決めかねております」

「他の貴族たちとの兼ね合いもあるからな。アンジェラから頼まれて、何曲か見繕ってみたぞ」


 そう言って、おもむろに近くのテーブルへ楽譜を並べ出す王太子。

 ルーカスは、異国の楽曲に興味津々と言った様子だ。「この譜面は初めて見ますね、こちらは僕の好きな曲です」などと、感想を述べている。

 歌が上手いと評判なだけあって、彼は音楽全般にも詳しそうだ。


「これなんて、趣があって良いと思うぞ。この最後の部分が秀逸でな……」


 マーロウ王太子に差し出された難解な楽譜を見て、私は心の中で絶叫した。


「こんな複雑な旋律は無理ー!」


 この世界の楽譜は、前世と同様でおたまじゃくし型だ。

 だがしかし、王太子オススメ楽譜の音符の散りばめられ方は異様である。

 大きく上がったり下がったり、シャープやフラットが入り乱れていたり、歌唱者イジメも良いところである。

 歌がど下手くそな私には、音階のあまり変わらないラップ調の曲がお似合いなのだ。

 この世界には、ラップ自体がないけどさ……

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― 新着の感想 ―
[良い点] 王太子殿下はお肉ついてる方がタイプなんですね。ブリトニーに会っても最初から太っただの痩せただの体型や見た目のことは全く気にしてなかったし、ブリトニーとの会話からブリトニー自身を見て評価して…
[良い点] ブリトニーのぐふふっていう笑いが、え今そんな笑うとこやった?っていう謎なタイミングで入るのが面白い。
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